ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)

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新天地篇

波の乙女

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「おはよっす!みんな早いっすね」
アクティがバケツ二個を担いで海から戻って来た。

海水を注ごうとして目を瞬かせた、「あっれー?」という顔だ。うん、だよねー。
「この子、こんなでしたっけ……?」

盥にいたのは青いドレスを纏った美少女だったからね。
巨大クラゲもどきが急にこれだもの。

海水を入れ替えつつぼんやりと美少女をみつめるアクティである。
ごめん、なんか面白い。


やや遅めにやってきたマホガニーが一番驚いていた。
概ね早起きした全員にだけど、美少女にはさほど興味をしめさないが正体は知ってたらしい。

「波の乙女ですね」
「波の乙女?」

「まだ小さいですが水精霊の仲間ではないかと推測されます」
「水精霊……ウンディーネか?」

まじまじと見ればドレスかと思ったのは青い水が重なったものだった。
身の丈はボクよりちょっと小さいくらいだ。

「なんでこんなに変化したっす?ぜんぜん面影がないっす」
アクティが至極当然の質問をした。


「坊ちゃん、なにかしましたか?例えば契約のような」
「した、というよりされた?かな……ほら。」

さきほど刺された腕をみせた、妖精のボクがこんな変化をするなど驚きだ。
マホガニーが眉間に皺を作った、なにかまずかったかな?

「吸われましたか?」
「うん、ちょっぴり」

はぁ~という長い溜息を吐いたマホガニー、なんだよ説明して怖いだろう!?
「求婚されましたね……」
「え」

ええええ……。


***

混乱したボクに知識豊富なグルドが呼ばれた。
ポンポコのお腹を摩って眠そうだった、おまえ……。ボクの腕をしげしげ観察したグルドが言った。

「ふむぅ、湖にいたはずのウンディーネがなぜここに?まぁ子細はともかく厄介なのに目を付けられたな」
「なんで?」

「貴殿、浮気なんかしたら殺されるぞ?」
「はぁ!?夫婦でもないのになんで!」

ヤレヤレとグルドは頭を振る。
「嫌ならこやつを嫌いだと拒絶すれば良い、そうすれば縁は切れるぞ」
「なんか安っぽい愛だな、こっちは命がけなのに……そんなんで良いのか」

求婚段階なので平気だと言われたが怖いな。とりあえず結婚の意思はないと伝えとこう。
「えーと、ウンディーネ?キミとは結婚しないぞ」
「!?」

ショックを受けた顔をしたウンディーネ、するとポロポロと涙を流し氷のように溶けてしまった。
グルドはそれを掬いとりボクの腕に擦りつけた、腫れはみるみる消えて肌はまっさらになる。

「ウンディーネは消えちゃったね、代替えかい?」
「いんや、姿が保てなくなっただけでそのうち復活するわい」

グルドはそう言ってボクの懐へ潜り込み寝息を立ててしまう。なんてマイペース。
びっくりしたけどちょっと面白い体験だった。


「てっきり海の生き物かと思ったから海水ぶっかけちゃった」
「水の精霊ですから問題ないでしょう」

そうなのかな……。
それにしても湖にいたのがなんでまた、濁流に流されて海にきてしまったのか?
姿が戻ったら聞いてみよう。
……結婚はしないぞ!

クラゲもどきの正体が精霊とわかり驚いた、知らぬとはいえ漁師たちに障りはないだろうか?
ボクがいうのもアレだけど精霊はネチッこい部分があるからね。

気になったので網を返却するついでに港へむかうことにした。
アクティは水状態になったウンディーネが心配らしくずっと着いていた。


港に着くといつも通り活気が満ちている。
ただ漁獲量が減ったとか、心配な声も聞こえてドキリとする。

海岸近くにいたカイという漁師を探す、キョロキョロしてたら声を掛けられた。
「よぉ坊主、律儀だな」
「カイさん?ありがとうございました、網の返却です」

解れも無く返ってきた網を嬉しそうに受け取る。
「あんがとよ、じゃぁ銀貨も返すぞ」
「え、いいえ。クラゲは貰いましたから」

そうか?と気の毒そうにいうカイさんがさすがに悪いからと籠いっぱいの魚をくれた。
雑魚だから気にするなと笑っていた。

「あの、噂を聞いたんですが漁獲量が減ったとは本当ですか?」
「んん?まーな……去年に比べてだがなぁ、不漁とまでいってねぇさ。気にすんな」

彼はそういうと去っていった。

うーん、部外者がアレコレ詮索しても仕方ないか。ウンディーネと関係あったらと思ったのだが。
ボクは魚が傷まないうちに宿へ急ぐことにした。



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