ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)

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邂逅

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問いただすまでもなく愚王は勝手に喋る、ボクらを罵りたくて仕方ないようだ。

「約160年前、我が国と北隣のダフネ共和国と諍いが起きた。奴らは豊かな我が国を愚かにも欲したのだ。結果、我が国の快勝だった。しかし、戦で穢れた大地が問題になった。ダフネ共が腹いせに戦死者の骸に毒を撒いたのだ、面倒なことにそれは瘴気となりジワジワと国土を侵していった。」

愚王の話ではその浄化をドリアードに押し付けたというのだ。
つまり、豊穣の加護だけでなく人間の身勝手で起きた惨事を丸投げし、酷使させていたのだ。
なぜそこまでボクらの先祖は働かなければならなかったのだ。

「忌々しいことに瘴気はなかなか減らなかった、だがとうとうお前の母、先代が浄化を達成した。そこは褒めて遣わす、だがもう貴様ら化物を飼っておく意味がなくなった。フハハハ!どういう意味かわかるな?人身御供という悪習を今代で終わらせられる!」

嘲笑を浮かべ見下す醜い相貌、お前の方が化物じゃないか!
母が枯れ枝のようになり、儚くなった原因が人間の身勝手な振る舞いのせいだと漸く知った。

【あなたを護るためなの、許して】

母が残したあの懺悔は、早世してボクを孤独にした詫び。
ボクに瘴気祓いの重責を負わせないよう、自らを犠牲にした結果だったのか。
自分の代で苦しみを終わらせる為に母は……。

憤怒のままにボクは蔦を愚王に向けた、永年続いた契約という呪いはここに破棄された。
遠慮などいるものか!お前達は木に集る害虫以下だ!

怒りのまま幾度も攻撃した、轟音と粉塵が舞う。視界はないがヤツの気配は逃さない。
アイツの悲鳴と怒号が響く、それでも蔦を打ち、衝き続けた。

刹那、ボクを呼ぶマホガニーの声がした気がする……。


***

建物が崩れる音がした、もうもうと漂っていた粉塵が外気と入れ替わった。
掃われて視界が戻り、目の前の惨事が目視できた。床が崩れ天井は崩落していた、砕けた装飾照明と襤褸切れが散乱し豪奢な王の居室は見る影もない。

だが王の骸は確認できない。
よく見れば愚王が居た所に岩壁が囲っていた。討ち損じた。

代わりに目に映ったのは憎き相手フォードと見知らぬ女だった。
盛大に舌打ちしたボクに、下卑た笑みを零すフォード。ヤツが口を開こうとした時、女が割って入った。
黄土色の豊かな髪に紫水晶の目が印象的な美しい人だ。

「若木、ドリアードの主。此度の邂逅を嬉しく思う」
「……貴女は?」

優雅に礼を取り女が名乗った。
「我は遥か北、極寒の地に蟄居しておったノームの王、ゲノーモスと申す。お見知りおきを」
「……ゲノーモス……様!」
なにか思い出したボクに、黙るようゲノーモスが目配せする。
ボクは素知らぬ振りで初見の挨拶を返した。


「君の後釜はゲノーモス王が勤めてくださる、この地に富を齎すため参じてくださったのだよ!」
フォードが捲し立てた、他国の人間がどういうつもりか。
なんだそのドヤ顔。
その鼻潰して良い?

瓦礫から這い出た愚王が塵に塗れた格好でボクらの目の前にきた。
変な臭いがする、股間がなにかで染みがついてた……。臭い。

「フォード、此度の働き重畳であった!後ほど褒章をくれてやる」
フォードは鼻を摘まんで数歩下がり礼をしてる。

どんな経緯の繋がりなのか、大方2重スパイをしてるのだろう。
フォードの利とはなんだろう、金なら持っているだろうに。

薄汚い恰好のまま愚王が続けて宣う。手には木の実を模した宝玉を持っている。
始祖達が契約に使った宝玉と見える、緑の石に燃えるような赤が中心に輝く、血の誓いを表していた。

「貴様ドリアード族との契約を正式に破棄し、新たな土加護の女王ゲノーモス殿と契り結ぶ!」

宣言が終わった後、パキリッと宝玉が二つに割れた。
こうして永年の契約は終了した。

「フハハハハッ!化物ドリアードよ!即刻我が国より立ち去れ!豊穣の地はすでに手に入れた。後代はゲノーモス殿が鉱山という富を与えてくださる!我が国はさらに発展を遂げるのだ!」

ボヨンボヨンと丸く肥えた腹を揺らして悦にいっている。
どうでもいいからパンツを替えてこい。
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