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殴り込み1

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カリュアス王へ謁見願いを申し出て十日、一向に返答が届かない。
「あからさまに無視されてるよね、ボクは放置プレイは好みじゃないな」
不貞腐れてはいた愚痴を、聞き拾った執事がジロリと見てくる。

なんでだか動揺していて、せっかくのアールグレイをダバダバと零している。


「坊ちゃん、そのような言語をどこで……」
「ん?クズの家の書庫にあった民庶小説を読んだ。特にフェチズムは興味深いね」
ボクはヒラヒラと熟読中の本を見せた。

マホガニーは無言でそれを分捕った。顳顬に青筋を立てている、そんなに怒らなくても。
「坊ちゃんには十年……いいえ、生涯不要でございます!」
「……視野を広くとお前は言ったぞ?」
「そういう意味ではありません、没収します」

テーブルに山積みした本をザカザカと手に取りマホガニーは部屋を出ようとする。
「マホガニー、読んだら感想聞かせて?」
「……読みません」

嘘つけ!


若干、平和ボケしてる我が家。
夜の捕り物劇からすぐに根を使ってフォードを捜索したが見つからなかった。
認識疎外の魔法と道具があるらしいので上手く逃げられた。

悔しいのでナザルリーフを探ろうと根を伸ばしたが、今のボクでは届かない。無謀に根を張るだけなら可能だが情報を嗅ぎ取るのは無理だろう。
遠征を考えたが、未熟な当主のボクが遠出したら屋敷が崩壊すると執事が許さない。
ボク自身も母が護って来た家を壊すのは本意じゃない。


「まだまだ成長途中なんだなぁ」
細くて小さな手をジッと見る。
生まれて十年、人間で言ってもクソガキの自分。精神も身体も未熟過ぎる、なんとももどかしい。


無のつぶてな王城に執事が問い合わせたところ、申し出の手紙は書簡管理課で止まったままらしい。
対応した文官曰く。
「化物ごときの手紙を王に届けると思うのか?(嘲笑)」だそうだ。
そいつに臍から毒キノコが生え続ける呪いでもかけてやろうか?

業を煮やしたボクは殴りこむことにした。

***

時は深夜0時、ボクらは行動する。

「では坊ちゃん、王の所在は掴んでますね?」
「うん、問題ない。王の寝所でグースカ寝てる」

今のボクには転移術が使えないので、マホガニーと協力することになった。
足りない魔力を彼に借りる荒業、慣れない術の制御を誤ればマホガニーは枯れるかもしれない。

「特薬草をたくさん作ってくれたのでしょう?それなら簡単には枯れませんよ」
ニヤニヤと笑う執事、まるで自分が特別な存在で優遇されてるのだと言いたげだ。

調子に乗るなとボクは執事の足を踏みつけた。


マホガニーが小柄なボクを片腕に抱きかかえたのを合図に転移を開始した。
人間が使う転移魔法とは違う、根を伝い方々を移動するドリアード特有の術だ。

術式も陣も不要なので瞬時に移動できる。
もっともガキのボクには遠出はできない、残念だ。

自身を根に吸い取られるような感覚が己を襲う。固体から液体になったような……。
「坊ちゃんの初めての相手を務める光栄、恐悦至極でございます」
軽口を叩く執事にイラっとした。

「”転移術”をつけろ!キショイわ!」
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