拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)

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デンクス侯爵邸には今日も元気な声がこだまする。
気合の入った少女の声が裏庭から聞こえてくる、藁人形に向かって必死に剣を振っていた。


「ター!ヤー!ヘヤァ!……はぁ、やっぱり模造刀をもう少し重くしようかな」
13歳になったばかりの少女は男勝りな言葉を吐く。


「アーニャったら鍛錬も良いけど淑女教育をサボっては駄目よ」
「お母様!?」

いつの間にか見学に来ていた母ナリレットに、嬉しそうに駆け寄る少女アーニャである。

「お転婆ねぇ、誰に似たのかしら?ほら汗を拭きなさい」
「んぐぐ、だって私は稼業は継げないもの騎士になるのよ」


「もうちょっと女性らしい職があるでしょ?お針子とか……お嫁さんとか」
汗を拭いつつ母としての願望を愛娘に伝えるナリレットだが、子には通じないようだ。


「やーよお母様、乗馬クラブで知り合った男の子たちったら皆軟弱なのよ!あんな奴らの嫁だなんて憧れるはずもないわよ!兄様のブルーノだって勉強ばかりでヘナチョコなんだから!」

「はぁ。時代が違うのかしらねぇ」
日々逞しく成長している娘の頭を苦笑いで撫でるナリレット。

「うふ、頭撫でられるの大好き!もっとしてお母様!」
「はいはい、そこだけは私に似てるのね。さぁ先生がいらしゃる前に湯浴みをなさい」

「はーい……」


母子は仲良く連れだって歩き屋敷へと戻っていく、侯爵家は平穏な生活を満喫している。
屋敷に戻ると仏頂面の長男ブルーノが足をパタパタさせて苛立ちを露わにしていた。


「あらまぁ、どうしたのブルーノ?」
「母上!学年テストで2番に落ちました!不覚を取りました、もっと教師を雇ってください」

頭でっかち気味のブルーノに、違う意味で心配な母は深い溜息を吐いた。

「ブルーノ。世の中は成績だけが全てではないわ。己の個性を磨くのも大切よもっと見分を広げなければ」
「では!遊学を希望します!」

「……結局勉強じゃないの」

溌剌なアーニャと勤勉なブルーノ、すくすく育つ愛しい我が子だ。
それでもどうしたものかと首を傾げる母ナリレットであった。


***

「え、宜しいのですか父上!やったぁ!」
夕飯の席で遊学を許されたブルーノは珍しくハイテンションになり家族を驚かせた。

「いーなー兄様ずるーい!私も他国の剣士と戦ってみたい」
「バカだなアーニャは、ボクは勉強しに行くんだぞ」
「は?他国にいってまで勉強なの?呆れたわ」


言い合う兄妹を窘めながら父アリスターは言葉を紡ぐ。

「ブルーノ、許可はしたが卒業後のことだぞ。浮かれてはいけない、地に足がついていない者は駄目だ」
「はい、父上。卒業代表に選ばれるよう精進します!」

その様子を優しい笑みを浮かべ母ナリレットは2杯目の白ワインを味わう。
団欒の時は穏やかに流れていった。





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