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12 戻らないあの日
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ツインテールの少女が顔を真っ赤にして泣いている。
花の咲き乱れる庭園で、夢中に蝶を追い掛けて盛大に転んだところだ。
手足が砂まみれになり、ワンピースドレスが少し破れてしまっていた。
幸いケガはしていないが転げた衝撃に驚いて泣いている。
「ふぇえん!痛いぃ~おばぁちゃま!おかあさま!」
「あ!いないと思ったらこんなとこで、ちゃんと前を見てないからだぞ」
いっこうに泣き止まない少女に駆け付けた少年も泣きそうになった。
なんとか耐えて周囲に大人はいないか探すが、屋敷から離れたそこにはメイドさえ見当たらない。
「しかたないな……ほら、キミの好きなキャンディだよ、泣かないで」
「……グス、いいの?オヤツの時間じゃないわ……グスグス」
「だいじょうぶ、ボク達だけの秘密だからね」
「うん」
少年はそう言うと包み紙からいちご色の飴玉を少女の口にいれた。
「あまーい!おいしい!ありがとう」
「ふぅ泣き止んだ……ほら手を出して、手当と着替えをしなきゃ屋敷に戻ろう」
差し出された手を少女は素直に握ると、涙でグチャグチャの顔を綻ばせた。
それを眩しそうに見る少年は少し照れる。
「ナーナの手はちっちゃいな、とても可愛いよ」
「うん、でも指がねとても短いの。おかあさまみたいにキレイになりたいわ」
きっと成れるよと少年は彼女の頭を撫でた、すると少女は嬉しそうに微笑む。
頭を撫でられるのが好きな彼女は、彼の好意がとても嬉しいと思った。
なのに……
少し大きくなった彼女が手を取ったのは、彼のものではなかった――。
***
「――ナーナ!……あっ」
冷たい床の上で目覚めたグランは、天井に向かって腕を伸ばし空を掴んでいた。
彼の目がみるみると失望の色に染まり、やがて色を失った。
「夢か、懐かしい……子爵家の庭園でナーナと良く遊んだよな」
ゴツゴツした石畳をゴロンと寝返り、絶望的な現実に打ちのめされて溜息を吐く。
愚かな事をしたと、し続けてしまったと後悔したが何もかもが遅かった。
身分差などに屈しない生き方が男らしいとずっと信じていたグラン。
幼少期、いつも愛読していた平民剣士の物語を思い出す。
「バカだな……所詮は夢物語だったのに、真っすぐに生きることが正しいと思っていた」
本の中の剣士は、貧民から成りあがった誇り高い勇者で彼の憧れだった。
ある意味グランという人間は素直過ぎて、行動が不器用なのかもしれない。
もう一度夢に戻りたいとグランは目を瞑ったが、鉄格子の向こう側から床を踏む音がふたつ聞こえてきた。
”面会だ”という看守の不愛想な声がして仕方なく体を起こした。
「父上……」
「痩せたなグラン、あれから4年も経つのか」
お互い憔悴した顔を見合って「老けたな」と言った。
「先日、ナリレット嬢が御結婚された。とても美しい姿だったよ、恐れながら末席に招待を受けたのだ」
「……そう、ですか。」
僅かばかりの差し入れと手紙を渡して、短い面会を済ませると男爵は帰って行った。
しばらく、小さくなったその背を見送っていたグランだったが、何かを払うように頭を振り元の位置へ戻った。
「もう一度見せてくれ……ナーナ、キミの夢を見たいんだ、もう俺にはそれしか――」
渡された手紙を懐へしまうと彼は再び固く目を閉じた。
『グランは大きくなったら何になるの?』
「ん?ボクはね何にも屈しない強い剣士になることさ!」
『くっしない?』
「そうだよ、誰よりも強くて逞しい勇者になるんだ!」
『あの本の剣士ね!そっかグランなら成れるよ!』
「うん!ありがとう」
花の咲き乱れる庭園で、夢中に蝶を追い掛けて盛大に転んだところだ。
手足が砂まみれになり、ワンピースドレスが少し破れてしまっていた。
幸いケガはしていないが転げた衝撃に驚いて泣いている。
「ふぇえん!痛いぃ~おばぁちゃま!おかあさま!」
「あ!いないと思ったらこんなとこで、ちゃんと前を見てないからだぞ」
いっこうに泣き止まない少女に駆け付けた少年も泣きそうになった。
なんとか耐えて周囲に大人はいないか探すが、屋敷から離れたそこにはメイドさえ見当たらない。
「しかたないな……ほら、キミの好きなキャンディだよ、泣かないで」
「……グス、いいの?オヤツの時間じゃないわ……グスグス」
「だいじょうぶ、ボク達だけの秘密だからね」
「うん」
少年はそう言うと包み紙からいちご色の飴玉を少女の口にいれた。
「あまーい!おいしい!ありがとう」
「ふぅ泣き止んだ……ほら手を出して、手当と着替えをしなきゃ屋敷に戻ろう」
差し出された手を少女は素直に握ると、涙でグチャグチャの顔を綻ばせた。
それを眩しそうに見る少年は少し照れる。
「ナーナの手はちっちゃいな、とても可愛いよ」
「うん、でも指がねとても短いの。おかあさまみたいにキレイになりたいわ」
きっと成れるよと少年は彼女の頭を撫でた、すると少女は嬉しそうに微笑む。
頭を撫でられるのが好きな彼女は、彼の好意がとても嬉しいと思った。
なのに……
少し大きくなった彼女が手を取ったのは、彼のものではなかった――。
***
「――ナーナ!……あっ」
冷たい床の上で目覚めたグランは、天井に向かって腕を伸ばし空を掴んでいた。
彼の目がみるみると失望の色に染まり、やがて色を失った。
「夢か、懐かしい……子爵家の庭園でナーナと良く遊んだよな」
ゴツゴツした石畳をゴロンと寝返り、絶望的な現実に打ちのめされて溜息を吐く。
愚かな事をしたと、し続けてしまったと後悔したが何もかもが遅かった。
身分差などに屈しない生き方が男らしいとずっと信じていたグラン。
幼少期、いつも愛読していた平民剣士の物語を思い出す。
「バカだな……所詮は夢物語だったのに、真っすぐに生きることが正しいと思っていた」
本の中の剣士は、貧民から成りあがった誇り高い勇者で彼の憧れだった。
ある意味グランという人間は素直過ぎて、行動が不器用なのかもしれない。
もう一度夢に戻りたいとグランは目を瞑ったが、鉄格子の向こう側から床を踏む音がふたつ聞こえてきた。
”面会だ”という看守の不愛想な声がして仕方なく体を起こした。
「父上……」
「痩せたなグラン、あれから4年も経つのか」
お互い憔悴した顔を見合って「老けたな」と言った。
「先日、ナリレット嬢が御結婚された。とても美しい姿だったよ、恐れながら末席に招待を受けたのだ」
「……そう、ですか。」
僅かばかりの差し入れと手紙を渡して、短い面会を済ませると男爵は帰って行った。
しばらく、小さくなったその背を見送っていたグランだったが、何かを払うように頭を振り元の位置へ戻った。
「もう一度見せてくれ……ナーナ、キミの夢を見たいんだ、もう俺にはそれしか――」
渡された手紙を懐へしまうと彼は再び固く目を閉じた。
『グランは大きくなったら何になるの?』
「ん?ボクはね何にも屈しない強い剣士になることさ!」
『くっしない?』
「そうだよ、誰よりも強くて逞しい勇者になるんだ!」
『あの本の剣士ね!そっかグランなら成れるよ!』
「うん!ありがとう」
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