拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
10 / 15

10 遅すぎた

しおりを挟む
講堂から少し離れた庭園で、月明かりにふたつの影が浮かんだ。
夜風が吹いてザワザワと葉音が煩い。


「一体どういう魂胆なの?」

良くも悪くも、宴もたけなわとなった会場から攫われたナリレットは、目の前の人物を睨んだ。
掴まれた腕を弾き飛ばすように拒絶する。

袖をまくって見れば赤く手形が残っていて、ジンジンと不快な痛みにナリレットは顔を顰めた。

なのに、相手はとても傷がついたかのような表情だ。払われた手を悲しそうにみつめる。
乱暴なことをされた方はナリレットの方である。その勝手な様子に彼女の怒りが増して行く。

「なんとか言ったらどう、弁解もできないのかしら」
「……ご、ごめん。話をしたかっただけなんだ」


ナリレットはチラリと背後を確認する、いつの間にか護衛達が木陰に潜んで成り行きを見守っていた。
それを見て彼女は「ふぅ」と安堵の声を漏らして人物に向き合う。


「身分上の者への乱暴な言動は改めないのね。別に身分をどうこう主張はしたくはないけど、あなたの行動は目に余るし、結果、痛い目をみるのは貴方よ。覚悟してるのグラン」

「……あぁ」
彼女が許しても侯爵も世間も許さないと説くが、どこまで彼に響いたかわからない。



「それで?話とは何。早く戻りたいのだけど、きっとアリスターが心配しているわ」
動かないと約束を破った彼女は気が気ではない。

それを聞いたグランはグッと悔しそうに唇を噛んだが、ボソボソと用件を話し出した。
「いきなりですまない、俺はずっと……ずっとキミの事が好きで。どうしようもなくて、伝え方を間違えてばかりだった。」

「そう、知らなかった。でも聞きたくもない言葉だわ。小さな頃から意地悪されてばかりだったもの、良く言うわよね、苛めた方は忘れてしまうってね。大切にしてた髪飾りを壊されたあの日を生涯忘れないわ!」

ナリレットは後半の語気を強めて、グランに怒りをぶつけた。
子爵家から抗議するまで彼は謝ろうとしなかった、それが彼を許せない一因だった。


「ごめん、ほんとうにごめん。でも、でもキミの関心を向けさせるのに必死だった、だって誕生会のあの日からナーナはアリスターとばかり遊んでいただろう?髪飾りだってナーナが泣いて頼めばすぐ返すつもりだった、可愛いから構いたくて、こっちを俺だけを見ていて欲しかったんだ。それはいまでも変わらないしナーナが愛しい」


少し恨めしい言い方をするグランに『この人はどこまでも自己中心的なのだ』とナリレットは思う。
謝罪しながらも、ナリレットを非難する言葉を浴びせてくる彼に呆れていく。


「アリスターの家は子爵家の事業と大きく関わっているのよ、頻繁に顔を合わせるのは当たり前だわ。遊んでいたとはいえ相手は目上で上客だし接待の一部だったのよ、どうして理解しなかったの」

「す、少しくらい俺を見てくれても良かったじゃないか!寂しかったんだぞ」

「そう、私が悪いと言いたいのね?貴方と遊ばない私、意地悪されて予想通りに反応しない私。ぜんぶぜんぶ私が悪いと言いたいのね?……呆れた、傷つけらた私が好意を向けると思っていたの?バカにしないで!」

「ナーナ……お、俺は」
「気安く呼ばないで!なによその愛称呼びは、小さい頃から大嫌いだったわ!」


金切声のようなナリレットの拒絶の言葉がグランの心を大きく抉った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

【完結】真実の愛を見出した人と幸せになってください

紫崎 藍華
恋愛
婚約者の態度は最初からおかしかった。 それは婚約を疎ましく思う女性の悪意によって捻じ曲げられた好意の形。 何が真実の愛の形なのか、理解したときには全てが手遅れだった。

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています

春野オカリナ
恋愛
 エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。  社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

処理中です...