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「どうしてくれるんだ!嫉妬させて煽るはずが!キミが良い計画があるというから乗ったのに」
グランは山と積まれた課題を前に咆えた。
「ウルサイわよヘタレ!好きな女の情報くらい掴んでおきなさいよバカ!」
「んな!キミだって侯爵家へ嫁ぎたかったくせに!」
エント伯爵家の図書室で罵り合う二人だが、それで課題が減るわけではない。
この課題をこなせなければ退学なのだ、もう少し真面目になるべきだ。
「腹立たしいわ、まさか侯爵家の養女に入るなんて」
ネイルした爪を噛みながら文字の羅列を睨むブリトニー、まったく内容が頭に入らず更に苛立ちがつのった。
足を引っ張るつもりが、学園内で相思相愛のカップルと評判は上がるばかりだ。
「アリスターの家とうちが繋がれば、あんな家具メーカーなど潰せたのに!」
「なんだと!?ナリレットの家が没落したら俺が困るんだぞ!」
騙されたと知ったグランはブリトニーの胸倉を掴んで睨んだ。
「は、離しなさいよ!伯爵家へ喧嘩を売るつもり?たかが下っ端文官の家でしょ」
「……ちっ!くそが!父上がもう少し商才があれば」
文官の安月給だけでは立ち行かなく、投資でなんとかやっている。
だが、手堅い投資先は見返りも少ない。
「なーにあなたの家は貧乏なの?資産運用もできないなんで気の毒に」
「ふん、知らないよ。家は兄が継ぐんだ、俺は蚊帳の外さ」
次男であるグランにとって生家はなんの意味もない場所だった。
一人立ちするにも本人は努力するタイプではない、裕福なナリレットは恋する対象と同時に金蔓でもあった。
「チクショー、子爵家にはナーナしか子がいないから狙っていたのに」
古代語翻訳に手こずりながら愚痴を吐くグラン。
ナリレットにしてみれば疫病神でしかない。
「このまま諦めるの?」
歴史書の答案にデタラメを書きなぐりながらブリトニーが言う。
「諦め……できるもんならとっくにしてる。」
***
夏季休暇に入って2週間後、学園の大講堂が解放されて親睦会が催された。
在学者はもちろん、卒業生も参加できる無礼講とあって大いに賑わう。
伝手を頼ってパートナーを紹介して貰う者が多いが、目当ての女子に声をかけては玉砕する兵もいた。
振られた者や道化になった者は自棄食いと飲み比べをして笑いを取っている。
「まるでお祭りね、少し怖いわ」
酔っ払い達が屯した一角を警戒してナリレットは身を縮こませる。
「ナリー、私から離れないで。今年は思いのほか参加者が多いから」
「ええ、ありがとう」
少し危険と判断したアリスターは婚約者の腕を強めに引いた。在学者は強制参加なので顔を出したが早めに帰ろうと約束していた。
ひと通り挨拶に回って、さて帰ろうかと踵を返した時だ。
羽目を外した者が酔った勢いで女子生徒に絡んで騒ぎを起こしている。
止めに入るべきか悩むアリスターは、そちらとナリレットを交互に見た。
「アリー、私なら平気。ほらそこの柱影に隠れているから、助けてあげて?」
「そうかい?決して動いちゃ駄目だからね!」
「ええ、もちろんよ」
正義感が強い彼を見送って「大事になりませんように」と祈った。
女子生徒に絡んでいたのは卒業生らしく、先輩ヅラをして威張り散らしている。
意味不明に怒鳴る酔っ払いと、対峙するアリスターと警備員は揉めていた。
ハラハラして見守るナリレットは、つい自分の周囲の警戒を緩めてしまう。
騒ぎは収まらずギャラリーが増えてきた、ナリレットの視界は人だかりで塞がれてアリスターの姿も見えなくなった。
不安を覚えたナリレットは人だかりを掻き分けて、アリスターの元へと急いだ。
「怪我をしてたら大変だわ」
罵声と窘める声が大きくなる、騒ぎの中心にきたと彼女が思った時だった。
何者かの手がナリレットの腕を引っ張った。
「きゃっ!?」
喧騒の中に彼女の小さな悲鳴は紛れて飲み込まれた。
グランは山と積まれた課題を前に咆えた。
「ウルサイわよヘタレ!好きな女の情報くらい掴んでおきなさいよバカ!」
「んな!キミだって侯爵家へ嫁ぎたかったくせに!」
エント伯爵家の図書室で罵り合う二人だが、それで課題が減るわけではない。
この課題をこなせなければ退学なのだ、もう少し真面目になるべきだ。
「腹立たしいわ、まさか侯爵家の養女に入るなんて」
ネイルした爪を噛みながら文字の羅列を睨むブリトニー、まったく内容が頭に入らず更に苛立ちがつのった。
足を引っ張るつもりが、学園内で相思相愛のカップルと評判は上がるばかりだ。
「アリスターの家とうちが繋がれば、あんな家具メーカーなど潰せたのに!」
「なんだと!?ナリレットの家が没落したら俺が困るんだぞ!」
騙されたと知ったグランはブリトニーの胸倉を掴んで睨んだ。
「は、離しなさいよ!伯爵家へ喧嘩を売るつもり?たかが下っ端文官の家でしょ」
「……ちっ!くそが!父上がもう少し商才があれば」
文官の安月給だけでは立ち行かなく、投資でなんとかやっている。
だが、手堅い投資先は見返りも少ない。
「なーにあなたの家は貧乏なの?資産運用もできないなんで気の毒に」
「ふん、知らないよ。家は兄が継ぐんだ、俺は蚊帳の外さ」
次男であるグランにとって生家はなんの意味もない場所だった。
一人立ちするにも本人は努力するタイプではない、裕福なナリレットは恋する対象と同時に金蔓でもあった。
「チクショー、子爵家にはナーナしか子がいないから狙っていたのに」
古代語翻訳に手こずりながら愚痴を吐くグラン。
ナリレットにしてみれば疫病神でしかない。
「このまま諦めるの?」
歴史書の答案にデタラメを書きなぐりながらブリトニーが言う。
「諦め……できるもんならとっくにしてる。」
***
夏季休暇に入って2週間後、学園の大講堂が解放されて親睦会が催された。
在学者はもちろん、卒業生も参加できる無礼講とあって大いに賑わう。
伝手を頼ってパートナーを紹介して貰う者が多いが、目当ての女子に声をかけては玉砕する兵もいた。
振られた者や道化になった者は自棄食いと飲み比べをして笑いを取っている。
「まるでお祭りね、少し怖いわ」
酔っ払い達が屯した一角を警戒してナリレットは身を縮こませる。
「ナリー、私から離れないで。今年は思いのほか参加者が多いから」
「ええ、ありがとう」
少し危険と判断したアリスターは婚約者の腕を強めに引いた。在学者は強制参加なので顔を出したが早めに帰ろうと約束していた。
ひと通り挨拶に回って、さて帰ろうかと踵を返した時だ。
羽目を外した者が酔った勢いで女子生徒に絡んで騒ぎを起こしている。
止めに入るべきか悩むアリスターは、そちらとナリレットを交互に見た。
「アリー、私なら平気。ほらそこの柱影に隠れているから、助けてあげて?」
「そうかい?決して動いちゃ駄目だからね!」
「ええ、もちろんよ」
正義感が強い彼を見送って「大事になりませんように」と祈った。
女子生徒に絡んでいたのは卒業生らしく、先輩ヅラをして威張り散らしている。
意味不明に怒鳴る酔っ払いと、対峙するアリスターと警備員は揉めていた。
ハラハラして見守るナリレットは、つい自分の周囲の警戒を緩めてしまう。
騒ぎは収まらずギャラリーが増えてきた、ナリレットの視界は人だかりで塞がれてアリスターの姿も見えなくなった。
不安を覚えたナリレットは人だかりを掻き分けて、アリスターの元へと急いだ。
「怪我をしてたら大変だわ」
罵声と窘める声が大きくなる、騒ぎの中心にきたと彼女が思った時だった。
何者かの手がナリレットの腕を引っ張った。
「きゃっ!?」
喧騒の中に彼女の小さな悲鳴は紛れて飲み込まれた。
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