拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
9 / 15

9

しおりを挟む
「どうしてくれるんだ!嫉妬させて煽るはずが!キミが良い計画があるというから乗ったのに」
グランは山と積まれた課題を前に咆えた。

「ウルサイわよヘタレ!好きな女の情報くらい掴んでおきなさいよバカ!」
「んな!キミだって侯爵家へ嫁ぎたかったくせに!」


エント伯爵家の図書室で罵り合う二人だが、それで課題が減るわけではない。
この課題をこなせなければ退学なのだ、もう少し真面目になるべきだ。


「腹立たしいわ、まさか侯爵家の養女に入るなんて」
ネイルした爪を噛みながら文字の羅列を睨むブリトニー、まったく内容が頭に入らず更に苛立ちがつのった。
足を引っ張るつもりが、学園内で相思相愛のカップルと評判は上がるばかりだ。


「アリスターの家とうちが繋がれば、あんな家具メーカーなど潰せたのに!」
「なんだと!?ナリレットの家が没落したら俺が困るんだぞ!」

騙されたと知ったグランはブリトニーの胸倉を掴んで睨んだ。

「は、離しなさいよ!伯爵家へ喧嘩を売るつもり?たかが下っ端文官の家でしょ」
「……ちっ!くそが!父上がもう少し商才があれば」


文官の安月給だけでは立ち行かなく、投資でなんとかやっている。
だが、手堅い投資先は見返りも少ない。


「なーにあなたの家は貧乏なの?資産運用もできないなんで気の毒に」
「ふん、知らないよ。家は兄が継ぐんだ、俺は蚊帳の外さ」

次男であるグランにとって生家はなんの意味もない場所だった。
一人立ちするにも本人は努力するタイプではない、裕福なナリレットは恋する対象と同時に金蔓でもあった。


「チクショー、子爵家にはナーナしか子がいないから狙っていたのに」
古代語翻訳に手こずりながら愚痴を吐くグラン。
ナリレットにしてみれば疫病神でしかない。


「このまま諦めるの?」
歴史書の答案にデタラメを書きなぐりながらブリトニーが言う。

「諦め……できるもんならとっくにしてる。」



***


夏季休暇に入って2週間後、学園の大講堂が解放されて親睦会が催された。
在学者はもちろん、卒業生も参加できる無礼講とあって大いに賑わう。

伝手を頼ってパートナーを紹介して貰う者が多いが、目当ての女子に声をかけては玉砕するつわものもいた。
振られた者や道化になった者は自棄食いと飲み比べをして笑いを取っている。


「まるでお祭りね、少し怖いわ」
酔っ払い達が屯した一角を警戒してナリレットは身を縮こませる。

「ナリー、私から離れないで。今年は思いのほか参加者が多いから」
「ええ、ありがとう」

少し危険と判断したアリスターは婚約者の腕を強めに引いた。在学者は強制参加なので顔を出したが早めに帰ろうと約束していた。


ひと通り挨拶に回って、さて帰ろうかと踵を返した時だ。


羽目を外した者が酔った勢いで女子生徒に絡んで騒ぎを起こしている。
止めに入るべきか悩むアリスターは、そちらとナリレットを交互に見た。


「アリー、私なら平気。ほらそこの柱影に隠れているから、助けてあげて?」
「そうかい?決して動いちゃ駄目だからね!」
「ええ、もちろんよ」


正義感が強い彼を見送って「大事になりませんように」と祈った。
女子生徒に絡んでいたのは卒業生らしく、先輩ヅラをして威張り散らしている。

意味不明に怒鳴る酔っ払いと、対峙するアリスターと警備員は揉めていた。
ハラハラして見守るナリレットは、つい自分の周囲の警戒を緩めてしまう。


騒ぎは収まらずギャラリーが増えてきた、ナリレットの視界は人だかりで塞がれてアリスターの姿も見えなくなった。
不安を覚えたナリレットは人だかりを掻き分けて、アリスターの元へと急いだ。
「怪我をしてたら大変だわ」

罵声と窘める声が大きくなる、騒ぎの中心にきたと彼女が思った時だった。
何者かの手がナリレットの腕を引っ張った。

「きゃっ!?」

喧騒の中に彼女の小さな悲鳴は紛れて飲み込まれた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

【完結】拗らせ王子と意地悪な婚約者

たまこ
恋愛
 第二王子レイナルドはその見た目から酷く恐れられていた。人を信じられなくなってしまった彼の婚約者になったのは……。 ※恋愛小説大賞エントリー作品です。

【完結】私を虐げた継母と義妹のために、素敵なドレスにして差し上げました

紫崎 藍華
恋愛
キャロラインは継母のバーバラと義妹のドーラから虐げられ使用人のように働かされていた。 王宮で舞踏会が開催されることになってもキャロラインにはドレスもなく参加できるはずもない。 しかも人手不足から舞踏会ではメイドとして働くことになり、ドーラはそれを嘲笑った。 そして舞踏会は始まった。 キャロラインは仕返しのチャンスを逃さない。

それは確かに真実の愛

恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。 そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。 そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。 そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……? 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【完結】愛人を作るのですか?!

紫崎 藍華
恋愛
マリエルはダスティンと婚約し愛され大切にされた。 それはまるで夢のような日々だった。 しかし夢は唐突に終わりを迎えた。 ダスティンが愛人を作ると宣言したのだ。

私はアナタから消えます。

転生ストーリー大好物
恋愛
振り向いてくれないなら死んだ方がいいのかな ただ辛いだけの話です。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

処理中です...