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8 愚者
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とある日の昼、ブリトニーとグランが共に行動しているのが生徒達の目に留まる。
指定制服以外のものを身に着けひけらかしていたからだ。
本来は白色のアスコットを付ける男子だが、グランは黒色を身に着けている。そして、ブリトニーのリボンも違反しており、白色ではなく濃紺だ。
これは互いの瞳の色であると主張している。
どういう意図なのか読めない生徒達はざわついた、勤勉である者ならば有り得ない装いだからだ。
いつも通り仲睦まじく食堂にいたアリスターとナリレットは周囲の異変に気が付かない。
丁度デザートのプディングを食べさせ合っているところだった。
”エヘンオホン”とワザとらしい咳払いが彼らのすぐ側で聞こえた。
無粋なヤツは誰だとアリスターは不機嫌な顔で咳払いの方を向く。
そこには嫉妬に歪んだグランと意地悪そうな笑顔のブリトニーが立っていた。
アリスターは明らかに興ざめした顔になると無視してデザートの余韻に戻った。
しかし、無視された側は諦めない。
「おい!俺様たちが挨拶に来てやったのに無視とは良い度胸だ!」
相変わらずのグランは不遜な態度を崩さない。
「はぁ、キミは鳥頭なのかい?謹慎処分では甘かったようだね。”学園内は身分差なく”なんて建前なんだよ、ここは小規模の社交界なのさ、その調子で卒業したら鼻つまみ者だぞ」
「な……そ、それは」
低位貴族である男爵家次男のグランは威勢が急激に萎んでいった。
だが隣にいたブリトニーは怯まずに出しゃばる。
「お食事中失礼しました、私はブリトニー・エント伯爵家の次女ですわ」
「……だからなに?」
「んん!この度私達は仮婚約しましたのでご挨拶に参りましたの」
ブリトニーはそう言って微笑むと、ナリレットのほうへ挑戦的な眼差しを向けた。
名は知っていても面識のないナリレットはキョトリとした表情だ。
悪意を感じ取ったが理由がわからないからだ。
「是非、おふたりに仮婚約パーティへ来ていただきたいのです!だって幼馴染の門出ですもの!そうでしょうナリレット様」
以前ならばともかく、格上の侯爵嬢のナリレットを見下した態度のブリトニーにアリスターは睨みつける。
「ほんとに失礼な人達だな、彼女は私の婚約者で」
「あら、結婚してないのだもの子爵家でしょう?」
アリスターの言葉を遮ってまで主張するブリトニーに周囲はざわついた。
それに気が付いたグランが慌て出した。
「ブリトニー!止さないか!なんか様子がおかしいぞ」
「煩いわね、ヘタレは黙ってなさいよ!」
組んでいた腕を乱暴に外してブリトニーは二通の招待状をテーブルに置いた。
「いらしてくださるでしょ?ナリレット様ァ」
「……それは侯爵家としてでしょうか?」
「あらやだ!今から侯爵夫人気取りなの?なんて厭らしい人なのかしらこれだから低位の者は!アリスター様、いっそのこと婚約相手を交換した方がいいわ!そうよ!身分的にも申し分ないわ、私こそ侯爵夫人に相応しいわ!」
「そうだね、ブリトニーと言う通りだ!ナリレットは俺様の婚約者になるべきなのさ!相応しい同士が良いに決まっている!」
尻込みしていたグランはブリトニーのいちゃもんに便乗して、とんでもないことを言いだした。
勢いがついたバカは手に負えない。
「さっきから勘違いした発言だ、彼女の叔父ファンティ侯爵家へ養女に入った。つまり子爵ではなく侯爵家の者なのだよ、結婚するまでもなくね。婚約発表の際に各家へ報せたはずだけどな」
「「!?」」
それを聞いた愚かな二人は固まって言葉に詰まってしまう。
グランは再び不敬を重ね、ブリトニーは赤恥をかき不敬を働いた。
「ところで気になってたんですけど」
経緯を見守っていたナリレットが急に声を挟む。
「な、なんでしょうか……ファンティ嬢」すっかり意気消沈したブリトニーが震え声で問う。
「指定したカラーを無視したということは『学園に不満あり』と主張する行為に他ならないですわ」
「え……どういう?」
「アスコットとリボンの色が違いますでしょ。無期限停学、もしくは退学にされても文句は言えないですね」
「な、なんでそうなるのです!たかが色が違うだけで」
ナリレットは少し呆れ顔で生徒手帳を開いた。
「いかなる理由があろうと校則指定の服装を拒否、又は違反する者は厳罰に処すると書いてありますわ」
いくつかの箇条書き部分を指差してナリレットはブリトニーに見せた。
「そんなの知らないわ!だって狡いわよ、こんな小さい文字でびっしりと!」
「狡いもなにも……入学するさいに宣誓して手帳を受け取ったでしょう?有り得ませんわ」
そう言えば入学式の時に教員から一人一人受け取ったことを思い出す。
長くて肩が凝る入学式で、学園長がなにか長々と読み上げていたことを思い出す。それこそが校則だったのだ。
ブリトニーは面倒なことを全て聞き流していた。
その後、学園から厳重注意を受けたブリトニーとグランは反省文500枚と夏季休暇中の課題を2倍受け取ることになった。
ちなみに仮婚約の話は虚言である。
指定制服以外のものを身に着けひけらかしていたからだ。
本来は白色のアスコットを付ける男子だが、グランは黒色を身に着けている。そして、ブリトニーのリボンも違反しており、白色ではなく濃紺だ。
これは互いの瞳の色であると主張している。
どういう意図なのか読めない生徒達はざわついた、勤勉である者ならば有り得ない装いだからだ。
いつも通り仲睦まじく食堂にいたアリスターとナリレットは周囲の異変に気が付かない。
丁度デザートのプディングを食べさせ合っているところだった。
”エヘンオホン”とワザとらしい咳払いが彼らのすぐ側で聞こえた。
無粋なヤツは誰だとアリスターは不機嫌な顔で咳払いの方を向く。
そこには嫉妬に歪んだグランと意地悪そうな笑顔のブリトニーが立っていた。
アリスターは明らかに興ざめした顔になると無視してデザートの余韻に戻った。
しかし、無視された側は諦めない。
「おい!俺様たちが挨拶に来てやったのに無視とは良い度胸だ!」
相変わらずのグランは不遜な態度を崩さない。
「はぁ、キミは鳥頭なのかい?謹慎処分では甘かったようだね。”学園内は身分差なく”なんて建前なんだよ、ここは小規模の社交界なのさ、その調子で卒業したら鼻つまみ者だぞ」
「な……そ、それは」
低位貴族である男爵家次男のグランは威勢が急激に萎んでいった。
だが隣にいたブリトニーは怯まずに出しゃばる。
「お食事中失礼しました、私はブリトニー・エント伯爵家の次女ですわ」
「……だからなに?」
「んん!この度私達は仮婚約しましたのでご挨拶に参りましたの」
ブリトニーはそう言って微笑むと、ナリレットのほうへ挑戦的な眼差しを向けた。
名は知っていても面識のないナリレットはキョトリとした表情だ。
悪意を感じ取ったが理由がわからないからだ。
「是非、おふたりに仮婚約パーティへ来ていただきたいのです!だって幼馴染の門出ですもの!そうでしょうナリレット様」
以前ならばともかく、格上の侯爵嬢のナリレットを見下した態度のブリトニーにアリスターは睨みつける。
「ほんとに失礼な人達だな、彼女は私の婚約者で」
「あら、結婚してないのだもの子爵家でしょう?」
アリスターの言葉を遮ってまで主張するブリトニーに周囲はざわついた。
それに気が付いたグランが慌て出した。
「ブリトニー!止さないか!なんか様子がおかしいぞ」
「煩いわね、ヘタレは黙ってなさいよ!」
組んでいた腕を乱暴に外してブリトニーは二通の招待状をテーブルに置いた。
「いらしてくださるでしょ?ナリレット様ァ」
「……それは侯爵家としてでしょうか?」
「あらやだ!今から侯爵夫人気取りなの?なんて厭らしい人なのかしらこれだから低位の者は!アリスター様、いっそのこと婚約相手を交換した方がいいわ!そうよ!身分的にも申し分ないわ、私こそ侯爵夫人に相応しいわ!」
「そうだね、ブリトニーと言う通りだ!ナリレットは俺様の婚約者になるべきなのさ!相応しい同士が良いに決まっている!」
尻込みしていたグランはブリトニーのいちゃもんに便乗して、とんでもないことを言いだした。
勢いがついたバカは手に負えない。
「さっきから勘違いした発言だ、彼女の叔父ファンティ侯爵家へ養女に入った。つまり子爵ではなく侯爵家の者なのだよ、結婚するまでもなくね。婚約発表の際に各家へ報せたはずだけどな」
「「!?」」
それを聞いた愚かな二人は固まって言葉に詰まってしまう。
グランは再び不敬を重ね、ブリトニーは赤恥をかき不敬を働いた。
「ところで気になってたんですけど」
経緯を見守っていたナリレットが急に声を挟む。
「な、なんでしょうか……ファンティ嬢」すっかり意気消沈したブリトニーが震え声で問う。
「指定したカラーを無視したということは『学園に不満あり』と主張する行為に他ならないですわ」
「え……どういう?」
「アスコットとリボンの色が違いますでしょ。無期限停学、もしくは退学にされても文句は言えないですね」
「な、なんでそうなるのです!たかが色が違うだけで」
ナリレットは少し呆れ顔で生徒手帳を開いた。
「いかなる理由があろうと校則指定の服装を拒否、又は違反する者は厳罰に処すると書いてありますわ」
いくつかの箇条書き部分を指差してナリレットはブリトニーに見せた。
「そんなの知らないわ!だって狡いわよ、こんな小さい文字でびっしりと!」
「狡いもなにも……入学するさいに宣誓して手帳を受け取ったでしょう?有り得ませんわ」
そう言えば入学式の時に教員から一人一人受け取ったことを思い出す。
長くて肩が凝る入学式で、学園長がなにか長々と読み上げていたことを思い出す。それこそが校則だったのだ。
ブリトニーは面倒なことを全て聞き流していた。
その後、学園から厳重注意を受けたブリトニーとグランは反省文500枚と夏季休暇中の課題を2倍受け取ることになった。
ちなみに仮婚約の話は虚言である。
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