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愚行を繰り返してきたグランがやっと復学したのは夏休み直前のことだった。
親睦パーティの1週間まえのことだ。
血走った目でナリレットがいる教室へ向かったが当然面会はできなかった。
なんの為に男女分けにしているのか理解していないグラン。
「くそ!規則規則……学園とはなんて融通の利かない場所なんだ!」
グランは苛立ち紛れに目の前にあった屑箱を蹴った。
しかし、運悪く誰かが捨てた古いインク壺が跳ねてグランに攻撃してきた。
腐敗した黒インクを顔と肩に浴びてしまう。
「臭っ!最悪だチクショー!」
大慌てで手巾で拭うも後の祭りで、顔面はともかく制服は染みで台無しになった。
ケガが治った矢先、不敬で罰を受けた彼、先日に謹慎が解けてやっと袖を通した新しい服は一瞬でゴミになったのだ。
汚れた上着を投げ捨て家へ帰ろうとしたグランに声を掛ける者がいた。
「あらあら、御気の毒に……これをお使いなさいませ」
「だ、誰だ!?」
見覚えのない女生徒が艶やかな黒髪を払いながら微笑みかけてきた。背後には取り巻きが数人侍っていた。
なかなかの美少女だったが、グランは”ナーナの方が100倍可愛い”と思った。
「気が利くな、俺様はグラン。名前を聞いても良いか?礼をしたい」
「……私はブリトニー。エント伯爵家の娘ですわ」
身分差を弁えず罰を受けたばかりのグランは流石にたじろいだ。
またも身分上のものに横柄な物言いを働いたと顔色を悪くして、下を向いてしまう。
子爵家で暴れたその後、貴族牢に20日間入れられ反省文を毎日100枚書かされた、解放されたと思えば家に着くなり父親にボコボコにされ地下牢に1週間放置された。愚かなグランも二度と御免だと思った。
「身分を気にしているのならご心配なく、責めるつもりはありません」
「そ、そうか有難い」
グランは冷や汗とインクを拭い、借りたばかりの手巾をポケットに捩じ込んで代わりのハンカチを贈ると約束した。
「ふふ、乱暴者と聞いてましたが存外優しいですのね」
「え、いやその。理由も無く怒ったり暴れないよ、優しいのはブリトニー嬢のほうだし」
「まぁそうですの、聞いた話とだいぶ違いますのね」
「え?聞いた話とは」
ブリトニーは扇で面を隠すと噂で聞いた話に色を付けて話した。
『身分差を弁えない男は侯爵家へ散々不敬を働き、嫉妬で我を忘れ松葉杖でナリレットに大怪我を負わせて逃走した。』
それを聞いたグランは反論した。
「違う!なんだそれは!確かにナリレットの裏切りに怒ったけれどケガなんてさせてないぞ!逃げても無い」
「裏切り?それは婚約の話かしら?」
「え?こ、婚約!?」
「あら、ご存じないの。ナリレット嬢とアリスター様は婚約しましたのよ。学園内でも人目を憚らずイチャイチャと破廉恥なことをなさいますのよ」
婚約の話を初めて耳にしたグランは絶望で目の前が真っ暗になった。
「そ、そんな!俺のナーナがどうして!?これは酷い裏切りだ!許せない!許せないぞ!」
ブリトニーは憎悪に震えるグランを面白そうに見つめると嘯く。
「身の程を弁えないのはナリレット嬢なのですわ、それを知らしめてやろうではないですか?」
悪女の囁きにビクリと肩を揺らすグラン、再び目に生気が戻った。
「なにか考えがあるのか、ブリトニー嬢」
「もちろんですわ」
黒曜石のような瞳を爛々と輝かせてブリトニーは黒く微笑んだ。
親睦パーティの1週間まえのことだ。
血走った目でナリレットがいる教室へ向かったが当然面会はできなかった。
なんの為に男女分けにしているのか理解していないグラン。
「くそ!規則規則……学園とはなんて融通の利かない場所なんだ!」
グランは苛立ち紛れに目の前にあった屑箱を蹴った。
しかし、運悪く誰かが捨てた古いインク壺が跳ねてグランに攻撃してきた。
腐敗した黒インクを顔と肩に浴びてしまう。
「臭っ!最悪だチクショー!」
大慌てで手巾で拭うも後の祭りで、顔面はともかく制服は染みで台無しになった。
ケガが治った矢先、不敬で罰を受けた彼、先日に謹慎が解けてやっと袖を通した新しい服は一瞬でゴミになったのだ。
汚れた上着を投げ捨て家へ帰ろうとしたグランに声を掛ける者がいた。
「あらあら、御気の毒に……これをお使いなさいませ」
「だ、誰だ!?」
見覚えのない女生徒が艶やかな黒髪を払いながら微笑みかけてきた。背後には取り巻きが数人侍っていた。
なかなかの美少女だったが、グランは”ナーナの方が100倍可愛い”と思った。
「気が利くな、俺様はグラン。名前を聞いても良いか?礼をしたい」
「……私はブリトニー。エント伯爵家の娘ですわ」
身分差を弁えず罰を受けたばかりのグランは流石にたじろいだ。
またも身分上のものに横柄な物言いを働いたと顔色を悪くして、下を向いてしまう。
子爵家で暴れたその後、貴族牢に20日間入れられ反省文を毎日100枚書かされた、解放されたと思えば家に着くなり父親にボコボコにされ地下牢に1週間放置された。愚かなグランも二度と御免だと思った。
「身分を気にしているのならご心配なく、責めるつもりはありません」
「そ、そうか有難い」
グランは冷や汗とインクを拭い、借りたばかりの手巾をポケットに捩じ込んで代わりのハンカチを贈ると約束した。
「ふふ、乱暴者と聞いてましたが存外優しいですのね」
「え、いやその。理由も無く怒ったり暴れないよ、優しいのはブリトニー嬢のほうだし」
「まぁそうですの、聞いた話とだいぶ違いますのね」
「え?聞いた話とは」
ブリトニーは扇で面を隠すと噂で聞いた話に色を付けて話した。
『身分差を弁えない男は侯爵家へ散々不敬を働き、嫉妬で我を忘れ松葉杖でナリレットに大怪我を負わせて逃走した。』
それを聞いたグランは反論した。
「違う!なんだそれは!確かにナリレットの裏切りに怒ったけれどケガなんてさせてないぞ!逃げても無い」
「裏切り?それは婚約の話かしら?」
「え?こ、婚約!?」
「あら、ご存じないの。ナリレット嬢とアリスター様は婚約しましたのよ。学園内でも人目を憚らずイチャイチャと破廉恥なことをなさいますのよ」
婚約の話を初めて耳にしたグランは絶望で目の前が真っ暗になった。
「そ、そんな!俺のナーナがどうして!?これは酷い裏切りだ!許せない!許せないぞ!」
ブリトニーは憎悪に震えるグランを面白そうに見つめると嘯く。
「身の程を弁えないのはナリレット嬢なのですわ、それを知らしめてやろうではないですか?」
悪女の囁きにビクリと肩を揺らすグラン、再び目に生気が戻った。
「なにか考えがあるのか、ブリトニー嬢」
「もちろんですわ」
黒曜石のような瞳を爛々と輝かせてブリトニーは黒く微笑んだ。
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