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ナリレット・ファンティと名が変わった直後のことだった。
デンクス侯爵とその子息アリスターが、ナリレットの引っ越し作業に追われる子爵家へ面会に訪れた。
突然の訪問に泡を食う子爵は取り繕った笑顔で迎える。
「急な訪問で申し訳ない、アリスターがどうしても聞かなくてね」
「はぁ、何か火急な要件でもありましたかな?卸した家具に問題でも……」
最大手の取引先であるデンクス親子を無下にも出来ず、冷や汗をかきながら子爵は茶をすすめた。
「いやいや、仕事の話ではないのですよ、此度の訪問は愚息の我儘でして」
「はぁ?」
だがしかし、話が読めない子爵は困惑するばかりだ。
「父上、私の我儘は認めますが子爵が困っていますよ。要件を言わないと」
「あぁ、そうだな失敬。ナリレット嬢、アリスターに庭園を案内してもらえないだろうか」
急にふられたナリレットは一瞬たじろいだが、すぐに笑顔を貼り付けて「喜んで」と答える。
するとアリスターは嬉しそうに彼女の手をとってサロンを後にした。
***
「忙しい時にごめんね、学園でもなかなか会えないから逸ってしまって」
「気にしておりませんわ。私の養子縁組になにか思うことがおありなのでしょ?」
子爵邸へ来てからずっと、落ち着かない様子のアリスターにナリレットは気が付いていた。
アリスターは後頭部をかきつつ照れ臭そうにしている。
「じ、実はキミに婚約の打診をしにきたんだ。その、……ずっと前からナリーの事が好きでこれを受け取ってもらいたい」
「まぁ!?」
彼の震える手の平にあったのは指輪だった、飾り石はアリスターの瞳と同じ色のエメラルドだ。
ナリレットは思わず声をあげて顔を真っ赤に染めた。
「ずっとずっと好きだった、誕生会に招かれたあの日、天使のようなナリーに私は一目惚れをしたんだ!でも、身分差が邪魔をして周囲が良い顔をしなかった。両親は気にしてないが親戚や会社の重役たちが煩くてね。大事な取引先というのにね、とても悔しかったよ」
子爵から侯爵の娘になったナリレットの噂を聞きつけて急遽訪問したのだとアリスターは告白した。
「どうだろうか……凡庸な私だけれどキミを思う気持ちは誰にも負けないつもりだよ」
「凡庸だなんてそんなこと!アリスター様は素敵な方だわ、私で良ければ是非……」
頬を薔薇色に染めたナリレットは小さな声で「お慕いしてました」と呟いた。
それを聞いたアリスターは同じく頬を染めて安堵の声を出す。
「あぁ良かった!ずっと気が気じゃなくて、だって隣家のグランと恋仲だと聞いていたからね」
「とんでもないわ!根も葉もない噂よ、あの人はずっと私に意地悪なの、何度泣かされたかわからないわ、天地がひっくり返っても好きになるはずがないのよ」
グランとは犬猿だと言うナリレット、真実を聞いたアリスターは「噂はあてにできないね」と苦笑した。
その日、恋人で婚約者となった二人は幸せな一歩を踏んだ。
「ぜったいに幸せにするからね!私から離れないで」
「えぇ、生涯離れないわ。アリスター」
初々しい二人は互いの手を取り瞳を見つめ合った。
そんな様子を2階のサロンから眺めていた父親たちは「うまく纏まったようだ」と肩を叩き合っていた。
だが、それを良しとしない人物が違う方向から睨んでいた。
「あ、あの女ぁ!俺の目の前でどうどうと浮気を!許さない!ぜったい許すものか!」
未だに拗れた恋慕を燻ぶらせているグランの顔は嫉妬と恨みで醜く歪んでいた。
デンクス侯爵とその子息アリスターが、ナリレットの引っ越し作業に追われる子爵家へ面会に訪れた。
突然の訪問に泡を食う子爵は取り繕った笑顔で迎える。
「急な訪問で申し訳ない、アリスターがどうしても聞かなくてね」
「はぁ、何か火急な要件でもありましたかな?卸した家具に問題でも……」
最大手の取引先であるデンクス親子を無下にも出来ず、冷や汗をかきながら子爵は茶をすすめた。
「いやいや、仕事の話ではないのですよ、此度の訪問は愚息の我儘でして」
「はぁ?」
だがしかし、話が読めない子爵は困惑するばかりだ。
「父上、私の我儘は認めますが子爵が困っていますよ。要件を言わないと」
「あぁ、そうだな失敬。ナリレット嬢、アリスターに庭園を案内してもらえないだろうか」
急にふられたナリレットは一瞬たじろいだが、すぐに笑顔を貼り付けて「喜んで」と答える。
するとアリスターは嬉しそうに彼女の手をとってサロンを後にした。
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「忙しい時にごめんね、学園でもなかなか会えないから逸ってしまって」
「気にしておりませんわ。私の養子縁組になにか思うことがおありなのでしょ?」
子爵邸へ来てからずっと、落ち着かない様子のアリスターにナリレットは気が付いていた。
アリスターは後頭部をかきつつ照れ臭そうにしている。
「じ、実はキミに婚約の打診をしにきたんだ。その、……ずっと前からナリーの事が好きでこれを受け取ってもらいたい」
「まぁ!?」
彼の震える手の平にあったのは指輪だった、飾り石はアリスターの瞳と同じ色のエメラルドだ。
ナリレットは思わず声をあげて顔を真っ赤に染めた。
「ずっとずっと好きだった、誕生会に招かれたあの日、天使のようなナリーに私は一目惚れをしたんだ!でも、身分差が邪魔をして周囲が良い顔をしなかった。両親は気にしてないが親戚や会社の重役たちが煩くてね。大事な取引先というのにね、とても悔しかったよ」
子爵から侯爵の娘になったナリレットの噂を聞きつけて急遽訪問したのだとアリスターは告白した。
「どうだろうか……凡庸な私だけれどキミを思う気持ちは誰にも負けないつもりだよ」
「凡庸だなんてそんなこと!アリスター様は素敵な方だわ、私で良ければ是非……」
頬を薔薇色に染めたナリレットは小さな声で「お慕いしてました」と呟いた。
それを聞いたアリスターは同じく頬を染めて安堵の声を出す。
「あぁ良かった!ずっと気が気じゃなくて、だって隣家のグランと恋仲だと聞いていたからね」
「とんでもないわ!根も葉もない噂よ、あの人はずっと私に意地悪なの、何度泣かされたかわからないわ、天地がひっくり返っても好きになるはずがないのよ」
グランとは犬猿だと言うナリレット、真実を聞いたアリスターは「噂はあてにできないね」と苦笑した。
その日、恋人で婚約者となった二人は幸せな一歩を踏んだ。
「ぜったいに幸せにするからね!私から離れないで」
「えぇ、生涯離れないわ。アリスター」
初々しい二人は互いの手を取り瞳を見つめ合った。
そんな様子を2階のサロンから眺めていた父親たちは「うまく纏まったようだ」と肩を叩き合っていた。
だが、それを良しとしない人物が違う方向から睨んでいた。
「あ、あの女ぁ!俺の目の前でどうどうと浮気を!許さない!ぜったい許すものか!」
未だに拗れた恋慕を燻ぶらせているグランの顔は嫉妬と恨みで醜く歪んでいた。
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