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2 学園へ
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13歳の春、ナリレットは真新しい制服を身に着けて浮かれていた。
王都学園とはどんなところだろうと、何度も繰り返し入園案内書に目を通していた。
「あぁやっと今日、入園式なのね!」
朝5時に目を覚ましたナリレットは、侍女達が起こしに来る前には粗方準備をしてしまった。
これには皆、苦笑いで彼女を見守る他ない。
しかし、「お嬢様、申し訳ありませんが御髪をやり直しますね。後髪が縺れてリボンが歪んでますわ」
「まぁ、ごめんなさい。自分でつけて見たかったの」
結局二度手間になってしまった仕度にナリレットは素直に謝る。
そんなお嬢様を咎めるわけにもいかない侍女は「可愛らしい方」と笑う。
朝食もそこそこに張り切るナリレットは、やや早めに馬車へ向かう。
だが、嫌な顔を早々に見ることになってしまった。
垣根と壁の向こうに聳え立つ樹木に、男爵家のグランが登っていてこちらを覗き込んでいたからだ。
”まるで山猿ね、なんて野蛮なのかしら”
かつて大切にしていた髪飾りを隠された木だった、それを思いだしてしまったナリレットはテンションが駄々下がる。
”はぁ”とため息を吐く彼女に耳障りな声が届く。
「おい!ナーナ!俺様に”おはよう”の挨拶もなしか!そんな無愛想いでは嫁に貰ってやらないぞ!」
同じ下位とはいえ、目上の子爵家令嬢相手とは思えない居丈高な態度に、彼女に付いていた侍従たちは怒りの目を向ける。
「なんて無礼な!お嬢様、山猿を相手にすることはございません。急ぎましょう」
「えぇ、そうね。ロナ、鞄をお願い」
侍女と護衛にエスコートされて馬車に乗り込むナリレットは、完全に無視を決め込み学園へ向かう。
その間もギャァギャァと木の上から騒ぎ立てるグランだったが、朝から不敬を重ねる息子に、気が付いたモーラ男爵は無理矢理落とそうとしてきた。
「朝からなんてことを!恥を知れバカ息子!」
「ぎゃ!なにをするんです父上、痛っ痛い!……お、落ちるっうわぁあーーーー!」
伐採用の長ハサミ棒で突かれたグランは足を滑らせ見事に地面に落ちた。
同じく学園に入園する予定だったグランは、初日に左手と両脚を骨折する事になった。
後日、それを聞いたナリレットは「自業自得だわ」と吐き捨てた。
***
一方、男爵家の一室では――。
「イテテテ……くそう!親父のヤツ!なにも落とすことないじゃないか!いや、ナーナが素直に俺に挨拶していればこんなことにはならなかった!俺の嫁になる分際で生意気なんだよ!」
ベッドの上で身勝手に吠えるグランに反省の色はない。
「そもそも、子爵家には跡取りの男子がいないんだ!俺が婿になって当主になってやるというのに、ナーナの態度も気に入らないが侍女も執事たちも生意気だ!俺が子爵家を継いだら全員クビにしてやろう!」
大怪我をしたグランの世話をしていたメイド達は、その台詞を聞き流しながら作業をしていた。
『どういう経緯でそういう考えに?恋人でも婚約者でもないわよね』
『意味がわからない、坊ちゃんは打ちどころが悪かったのかしら?』
『あからさまに避けられてるのに……ストーカー気質なのかな』
メイド達は互いの頭に「?」を浮かべて苦笑いを交わした。
王都学園とはどんなところだろうと、何度も繰り返し入園案内書に目を通していた。
「あぁやっと今日、入園式なのね!」
朝5時に目を覚ましたナリレットは、侍女達が起こしに来る前には粗方準備をしてしまった。
これには皆、苦笑いで彼女を見守る他ない。
しかし、「お嬢様、申し訳ありませんが御髪をやり直しますね。後髪が縺れてリボンが歪んでますわ」
「まぁ、ごめんなさい。自分でつけて見たかったの」
結局二度手間になってしまった仕度にナリレットは素直に謝る。
そんなお嬢様を咎めるわけにもいかない侍女は「可愛らしい方」と笑う。
朝食もそこそこに張り切るナリレットは、やや早めに馬車へ向かう。
だが、嫌な顔を早々に見ることになってしまった。
垣根と壁の向こうに聳え立つ樹木に、男爵家のグランが登っていてこちらを覗き込んでいたからだ。
”まるで山猿ね、なんて野蛮なのかしら”
かつて大切にしていた髪飾りを隠された木だった、それを思いだしてしまったナリレットはテンションが駄々下がる。
”はぁ”とため息を吐く彼女に耳障りな声が届く。
「おい!ナーナ!俺様に”おはよう”の挨拶もなしか!そんな無愛想いでは嫁に貰ってやらないぞ!」
同じ下位とはいえ、目上の子爵家令嬢相手とは思えない居丈高な態度に、彼女に付いていた侍従たちは怒りの目を向ける。
「なんて無礼な!お嬢様、山猿を相手にすることはございません。急ぎましょう」
「えぇ、そうね。ロナ、鞄をお願い」
侍女と護衛にエスコートされて馬車に乗り込むナリレットは、完全に無視を決め込み学園へ向かう。
その間もギャァギャァと木の上から騒ぎ立てるグランだったが、朝から不敬を重ねる息子に、気が付いたモーラ男爵は無理矢理落とそうとしてきた。
「朝からなんてことを!恥を知れバカ息子!」
「ぎゃ!なにをするんです父上、痛っ痛い!……お、落ちるっうわぁあーーーー!」
伐採用の長ハサミ棒で突かれたグランは足を滑らせ見事に地面に落ちた。
同じく学園に入園する予定だったグランは、初日に左手と両脚を骨折する事になった。
後日、それを聞いたナリレットは「自業自得だわ」と吐き捨てた。
***
一方、男爵家の一室では――。
「イテテテ……くそう!親父のヤツ!なにも落とすことないじゃないか!いや、ナーナが素直に俺に挨拶していればこんなことにはならなかった!俺の嫁になる分際で生意気なんだよ!」
ベッドの上で身勝手に吠えるグランに反省の色はない。
「そもそも、子爵家には跡取りの男子がいないんだ!俺が婿になって当主になってやるというのに、ナーナの態度も気に入らないが侍女も執事たちも生意気だ!俺が子爵家を継いだら全員クビにしてやろう!」
大怪我をしたグランの世話をしていたメイド達は、その台詞を聞き流しながら作業をしていた。
『どういう経緯でそういう考えに?恋人でも婚約者でもないわよね』
『意味がわからない、坊ちゃんは打ちどころが悪かったのかしら?』
『あからさまに避けられてるのに……ストーカー気質なのかな』
メイド達は互いの頭に「?」を浮かべて苦笑いを交わした。
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