1 / 15
1
しおりを挟む
いつもは大人しい彼女が大きな声をあげて懇願する。
「返して!お願いそれは御婆様の形見なの!もし壊れてしまったら私……」
その困った様子を木の上に登ってヘラヘラと笑い、眺め下ろして楽しむのは隣の悪童だ。
男爵家次男のグランは初恋を拗らせている真っ最中である。
「欲しければ登ってこいよ、簡単なことだろうナーナ?」
「そ、そんなはしたないこと出来ないわ!お願い返して!私が何をしたというの?」
顔を真っ赤にして泣きじゃくる子爵令嬢ナリレットは、登りたくても出来ないと訴える。
ドレスでよじ登るなどあり得ない話だ。
「ほんとどん臭いヤツ!ビービーと泣いてるほうがはしたないだろう」
彼はそう言うと銀色の髪飾りを木の枝に隠して下りてきた。
「ひ、酷い!どうして!?」
「だから取って来いよ、馬鹿な女アッハッハ!」
グランは楽しそうに笑い、屋敷の中へ帰っていった。
泣いて縋れば返してやろうと思ってはいたが、それはたっぷりと楽しんでからだと意地悪く笑う。
泣きながら自宅に戻ったナリレットは家令に経緯を話す。
子細を聞いたスタンデ子爵は猛抗議したのは言うまでもない。
モーラ男爵がグランを伴って謝罪に訪れたが、戻って来た髪飾りは無惨に壊れていた。
枝に隠す際に無理矢理捩じ込んだせいだ。
「貴方なんて大嫌い!」
ナリレットは壊れた形見を抱きながら叫び、彼を許さなかった。
***
飴色の髪に青紫の瞳を持つナリレットはとても可憐な少女だ。
互いを認識したのは3歳の頃。
グランがナリレットを好きになるのに時間はかからなかった。
恋だと気が付いたのはナリレットの5歳の誕生会のことだった、招待されたその会は想像以上に賑わっていた。
いつも以上に着飾った彼女は天使のように輝いていた。
「なんて可愛いんだろう」
グランは頬が熱くなるのを自覚した、心臓がドキドキして彼女に触れたいと思った。
誰より先に「おめでとう」を伝えたかったが叶わなかった。
ナリレットの「ありがとう」の言葉と、最初の微笑みを受け取っていたのはデンクス侯爵家の長男アリスターという少年だった。招待客の中では一番身分が高いアリスターは序列から当然に挨拶をしただけだ。
下位貴族の誕生会に彼の家が招かれたのは親同士の商売が関係していた。
スタンデ子爵家は広大な森林を有し、インテリア製造事業をしている。それ故ナリレットの家は上位貴族達と親交が多い。
デンクス侯爵家は家具販売店を国中に展開している縁で強い結びを持っていた。
グランの訳のわからない感情が噴き出したのはその時だった。
アリスター少年に微笑みかけるナリレットは眩しく美しくとても遠く感じた。
彼女へ渡すつもりだった花束を、グランは強く握り過ぎて萎らせてしまう。
その感情が醜い嫉妬と焦燥だと自覚したグラン、初恋が拗れはじめた瞬間だった。
「返して!お願いそれは御婆様の形見なの!もし壊れてしまったら私……」
その困った様子を木の上に登ってヘラヘラと笑い、眺め下ろして楽しむのは隣の悪童だ。
男爵家次男のグランは初恋を拗らせている真っ最中である。
「欲しければ登ってこいよ、簡単なことだろうナーナ?」
「そ、そんなはしたないこと出来ないわ!お願い返して!私が何をしたというの?」
顔を真っ赤にして泣きじゃくる子爵令嬢ナリレットは、登りたくても出来ないと訴える。
ドレスでよじ登るなどあり得ない話だ。
「ほんとどん臭いヤツ!ビービーと泣いてるほうがはしたないだろう」
彼はそう言うと銀色の髪飾りを木の枝に隠して下りてきた。
「ひ、酷い!どうして!?」
「だから取って来いよ、馬鹿な女アッハッハ!」
グランは楽しそうに笑い、屋敷の中へ帰っていった。
泣いて縋れば返してやろうと思ってはいたが、それはたっぷりと楽しんでからだと意地悪く笑う。
泣きながら自宅に戻ったナリレットは家令に経緯を話す。
子細を聞いたスタンデ子爵は猛抗議したのは言うまでもない。
モーラ男爵がグランを伴って謝罪に訪れたが、戻って来た髪飾りは無惨に壊れていた。
枝に隠す際に無理矢理捩じ込んだせいだ。
「貴方なんて大嫌い!」
ナリレットは壊れた形見を抱きながら叫び、彼を許さなかった。
***
飴色の髪に青紫の瞳を持つナリレットはとても可憐な少女だ。
互いを認識したのは3歳の頃。
グランがナリレットを好きになるのに時間はかからなかった。
恋だと気が付いたのはナリレットの5歳の誕生会のことだった、招待されたその会は想像以上に賑わっていた。
いつも以上に着飾った彼女は天使のように輝いていた。
「なんて可愛いんだろう」
グランは頬が熱くなるのを自覚した、心臓がドキドキして彼女に触れたいと思った。
誰より先に「おめでとう」を伝えたかったが叶わなかった。
ナリレットの「ありがとう」の言葉と、最初の微笑みを受け取っていたのはデンクス侯爵家の長男アリスターという少年だった。招待客の中では一番身分が高いアリスターは序列から当然に挨拶をしただけだ。
下位貴族の誕生会に彼の家が招かれたのは親同士の商売が関係していた。
スタンデ子爵家は広大な森林を有し、インテリア製造事業をしている。それ故ナリレットの家は上位貴族達と親交が多い。
デンクス侯爵家は家具販売店を国中に展開している縁で強い結びを持っていた。
グランの訳のわからない感情が噴き出したのはその時だった。
アリスター少年に微笑みかけるナリレットは眩しく美しくとても遠く感じた。
彼女へ渡すつもりだった花束を、グランは強く握り過ぎて萎らせてしまう。
その感情が醜い嫉妬と焦燥だと自覚したグラン、初恋が拗れはじめた瞬間だった。
62
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。
王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。
友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。
仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。
書きながらなので、亀更新です。
どうにか完結に持って行きたい。
ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結)余りもの同士、仲よくしましょう
オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。
「運命の人」に出会ってしまったのだと。
正式な書状により婚約は解消された…。
婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。
◇ ◇ ◇
(ほとんど本編に出てこない)登場人物名
ミシュリア(ミシュ): 主人公
ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
近すぎて見えない
綾崎オトイ
恋愛
当たり前にあるものには気づけなくて、無くしてから気づく何か。
ずっと嫌だと思っていたはずなのに突き放されて初めてこの想いに気づくなんて。
わざと護衛にまとわりついていたお嬢様と、そんなお嬢様に毎日付き合わされてうんざりだと思っていた護衛の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~
水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。
婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。
5話で完結の短いお話です。
いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。
お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】まだ結婚しないの? 私から奪うくらい好きな相手でしょう?
横居花琉
恋愛
長い間婚約しているのに結婚の話が進まないことに悩むフローラ。
婚約者のケインに相談を持ち掛けても消極的な返事だった。
しかし、ある時からケインの行動が変わったように感じられた。
ついに結婚に乗り気になったのかと期待したが、期待は裏切られた。
それも妹のリリーによってだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】契約結婚の妻は、まったく言うことを聞かない
あごにくまるたろう
恋愛
完結してます。全6話。
女が苦手な騎士は、言いなりになりそうな令嬢と契約結婚したはずが、なんにも言うことを聞いてもらえない話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる