完結 お貴族様、彼方の家の非常識など知りません。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
6 / 6

最期

しおりを挟む



アンブラ家は貴族制廃止の前に即刻取り潰しとなった、しかも極刑は免れない。これは法改正1日前のことだ。己の欲が招いたことである、誰も彼らを憂う者はいない。


「あの……あの家の者は」
「いいや、キミが気にすることじゃない。忘れると良い」
「でも……」
だが、フレデリクはそれ以上言わさなかった。王族特有の威厳のなせる業とでも言うのか、彼がじっと見つめるとエミリアは委縮してしまい口を噤む他出来ない。

ここは城の一室である、モダンスタイルの調度品の素晴らしさに感嘆する、そして完全に孤立したエミリアは所在無げにしていた。

「えっと……それでは私はそろそろお暇しますね」
居たたまれなくなった彼女はよそ行きの顔を見せて退室する旨を伝えた。すると明らかに不機嫌になったフレデリクは待ったをかける。

「どうした?何か歓待に不手際でもあっただろうか」
「いいえ!そんな事は決して!お茶も美味しかったですし……」
「ならばどうして茶を残したんだ、ほとんど飲んでないじゃないか」

いつもの軽口でそういう彼にエメリアはつい反論する。
「はあ?急にこんな所に押し込められて平常心を保てという方がどうにかしてる!お城よ!下町の小娘が連れて来られて困惑すると思わないの?サイテー!」
「え……いや、済まなかった。配慮が足りなかったよ」

急に悄気てしまったフレデリクは王子の顔をしていない、いつもの”フレディ”になっていた。城の従者たちの手前どうしても王族の顔を貼り付けなければならなかった。

「ではこうしよう、皆の者人払いを……あぁ扉は半開きにしておいてくれ」
「畏まりました、いつでもお呼びください」
侍女が最後にそういうと護衛騎士すらいなくなった。


改めて彼女に対峙する彼は再び”フレディ”に戻ると冷めた茶を下げて自ら淹れ直し不器用そうに注ぎ入れる。
「美味しいかはわからないけど……」
「え、ありがとう」
それはちょっとばかり渋かったが上等な茶は十分に美味しいと彼女は思った。

「それで言い訳を聞かせて貰おうかしら?」彼女はやっといつもの顔に戻りクッキーを一つ摘まむ。


***

貴族制廃止当日、大きな変化は特に見られなかった。ただ、下位の貴族達は何かとツケで支払いをしていたのが仇となり一部で取り立てにきた商人たちに袋叩きにあっていた。

その後、すっかりフレディに戻ったフレデリク王子はエメリアの店に入り浸り何かとチョッカイをかけていた。
「もう、何しにきたのよ!王子様!やっすい紅茶など要らないでしょ?」
「そう言わないでくれよぉ、ね?機嫌直して」
「ふん!」

彼の言い訳は大したことではない、王子の身分を隠して下町に来ていたのは嫁探しだ。
『今後の王族はもっと親し気に民と向き合うべきだ!俺は平民の事をもっと知りたい、そして嫁だ!嫁は自分の目で見定めたい』
と宣ったのだ、貴族がいなくなったのだから当然と言えたが半分は遊びたいだけなのではとエミリアは思う。




エミリアは忙しなく動き働いている、商店は相変わらず繁盛している。たまに元貴族だったものがやってきて酒を樽で売れと言ってくる。

「あらぁ、それで支払いのほうは?払えるんでしょうね?」
「そんなものツケだ!当たり前だろう!」
以前と同様にふんぞり返る元貴族は無理矢理に樽を奪おうをしていた。だが……

「おやおや、困るね旦那ぁキッチリ現金払いして貰わないと」
「なにぃ!何を偉そうに……」
「うん、偉いよ?王子だからね」
「いっ!?」

例のブローチを見せびらかして彼は言う「王家に楯突くの?平民の癖に」とやり込めた。

「あんたって本当は腹黒いのでは?」
「え?今頃知ったのかい、でもね王族は腹黒どころかドロドロに腐敗してないとやってられないんだ」
「へーそうなんだ、こっわ!」

いつもの軽口を言い合う二人は大笑いしている。

「それでいつ嫁に来る?俺はいつでも準備万端なんだけどな」
「え~冗談、私は嫌よ。あんな堅苦しいところ」
「そこを何とか!商売なら続けていいから!ね、お願い!」

「ん~さて、どうしようかな?」










しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】理不尽な婚約破棄に母親が激怒しました

紫崎 藍華
恋愛
突如告げられた婚約破棄。 クリスタはバートラムに完全に愛想を尽かした。 だが彼女の母親が怒り、慰謝料請求をしろと言い出したのだ。 クリスタは仕方なく慰謝料請求をした。 それが泥沼の始まりだった。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】私の馬鹿な妹~婚約破棄を叫ばれた令嬢ですが、どうも一味違うようですわ~

鏑木 うりこ
恋愛
 エリーゼ・カタリナ公爵令嬢は6歳の頃からこの国の王太子レオールと婚約をしていた。 「エリーゼ・カタリナ!お前との婚約を破棄し、代わりに妹のカレッタ・カタリナと新たに婚約を結ぶ!」  そう宣言されるも、どうもこの婚約破棄劇、裏がありまして……。 ☆ゆるっとゆるいショートになります( *´艸`)ぷくー ☆ご都合主義なので( *´艸`)ぷくーと笑ってもらえたら嬉しいなと思います。 ☆勢いで書きました( *´艸`)ぷくー ☆8000字程度で終わりますので、日曜日の暇でも潰れたら幸いです( *´艸`)

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)
恋愛
国を護るために尽力してきた少女。 国土全体が清浄化されたことを期に彼女の扱いに変化が……

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

【完結】従姉妹と婚約者と叔父さんがグルになり私を当主の座から追放し婚約破棄されましたが密かに嬉しいのは内緒です!

ジャン・幸田
恋愛
 私マリーは伯爵当主の臨時代理をしていたけど、欲に駆られた叔父さんが、娘を使い婚約者を奪い婚約破棄と伯爵家からの追放を決行した!     でも私はそれでよかったのよ! なぜなら・・・家を守るよりも彼との愛を選んだから。

処理中です...