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前代未聞な離縁(仮)
しおりを挟む正妃に納まった人物が離縁を申し出るなどあり得ないことだ。死別などの特別な場合を除けば歴代の皇帝たちはそのようなことはなかった。
「困ったことになりました、離縁を申し出るなど……それに相殺とはどういうことです?」
「……それがわからないのだ、何かやらかしたのならば謝罪するのだが」
マテイビルアンは居室に籠ると項垂れて「どうして」と自問自答しているのだがサッパリなのだ。あの日、アボリーヌの寝室に入ったことを目撃されていたことなど知るわけもない。
「ああ、わからない……どうしたら良いのだろう」
皇子は蒼い顔をして何度も唸るのだが出てくるのは溜息ばかりだ。あの後、それとなく聞き出そうと試みたが、クロエファニーは侮蔑の視線を投げてきて『あなたの胸にお聞きなさい』と言って取り合って貰えない。
「あの大人しい妃を怒らせたのです、きっと並々ならぬ事情が絡んでいるとしか」
「うう……クロエ」
一方で、アボリーヌ・バルゲリーは大人しく監禁されていたわけではなかった。祖国には秘密裡に連絡をとりつけていて、いつでも反撃に出る体制だ。
「ふん、見てらっしゃいクロエファニー。寝首を掻くことくらいやって見せるから」
バルゲリー国は諜報人を使って悪どいことをするのに特化していた。それに加え無味無臭の毒などの研究もしており『動乱の裏にバルゲリーあり』と囁かれるほどだ。ただ浅はか過ぎたアボリーヌは正妃を椅子から転げさせるのに失敗した。
「もう少し考えるべきでした浅慮が過ぎます」侍女のふりをした間諜が苦言を呈する。
「わかっているわ!焦ってしまったのよ、仕方ないじゃない。今度はあなた達に任せるわ。上手くやって」
「はい、お任せを」
正妃の椅子は遠く及ばないが、クロエファニーを亡き者にするくらいはしてやりたいと思っている。
「ちっ!あのボンクラ皇子、ちっとも私の魅力にかからない。腹立たしいことだわ」
妖艶な肢体でもって篭絡させるつもりだった彼女にとってこれほど屈辱的なことはない。いっそのこと皇子も手にかけようと思ったが、それは拙いと止めた。
「相手は大陸の半分を牛耳る大帝国、牙を剥くには早すぎるわ」
内側から崩すことがままならなくなった今、計画を見直さなけらばならない。帝国を揺るがすには時間がかかるようだ。
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