上 下
7 / 7

前代未聞な離縁(仮)

しおりを挟む



正妃に納まった人物が離縁を申し出るなどあり得ないことだ。死別などの特別な場合を除けば歴代の皇帝たちはそのようなことはなかった。

「困ったことになりました、離縁を申し出るなど……それに相殺とはどういうことです?」
「……それがわからないのだ、何かやらかしたのならば謝罪するのだが」
マテイビルアンは居室に籠ると項垂れて「どうして」と自問自答しているのだがサッパリなのだ。あの日、アボリーヌの寝室に入ったことを目撃されていたことなど知るわけもない。

「ああ、わからない……どうしたら良いのだろう」
皇子は蒼い顔をして何度も唸るのだが出てくるのは溜息ばかりだ。あの後、それとなく聞き出そうと試みたが、クロエファニーは侮蔑の視線を投げてきて『あなたの胸にお聞きなさい』と言って取り合って貰えない。

「あの大人しい妃を怒らせたのです、きっと並々ならぬ事情が絡んでいるとしか」
「うう……クロエ」



一方で、アボリーヌ・バルゲリーは大人しく監禁されていたわけではなかった。祖国には秘密裡に連絡をとりつけていて、いつでも反撃に出る体制だ。
「ふん、見てらっしゃいクロエファニー。寝首を掻くことくらいやって見せるから」

バルゲリー国は諜報人を使って悪どいことをするのに特化していた。それに加え無味無臭の毒などの研究もしており『動乱の裏にバルゲリーあり』と囁かれるほどだ。ただ浅はか過ぎたアボリーヌは正妃を椅子から転げさせるのに失敗した。

「もう少し考えるべきでした浅慮が過ぎます」侍女のふりをした間諜が苦言を呈する。
「わかっているわ!焦ってしまったのよ、仕方ないじゃない。今度はあなた達に任せるわ。上手くやって」
「はい、お任せを」
正妃の椅子は遠く及ばないが、クロエファニーを亡き者にするくらいはしてやりたいと思っている。

「ちっ!あのボンクラ皇子、ちっとも私の魅力にかからない。腹立たしいことだわ」
妖艶な肢体でもって篭絡させるつもりだった彼女にとってこれほど屈辱的なことはない。いっそのこと皇子も手にかけようと思ったが、それは拙いと止めた。

「相手は大陸の半分を牛耳る大帝国、牙を剥くには早すぎるわ」
内側から崩すことがままならなくなった今、計画を見直さなけらばならない。帝国を揺るがすには時間がかかるようだ。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

夫は親友を選びました

杉本凪咲
恋愛
窓から見えたのは、親友と唇を重ねる夫の姿。 どうやら私の夫は親友を選んだらしい。 そして二人は私に離婚を宣言する。

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

白い結婚の王妃は離縁後に愉快そうに笑う。

三月べに
恋愛
 事実ではない噂に惑わされた新国王と、二年だけの白い結婚が決まってしまい、王妃を務めた令嬢。  離縁を署名する神殿にて、別れられた瞬間。 「やったぁー!!!」  儚げな美しき元王妃は、喜びを爆発させて、両手を上げてクルクルと回った。  元夫となった国王と、嘲笑いに来た貴族達は唖然。  耐え忍んできた元王妃は、全てはただの噂だと、ネタバラシをした。  迎えに来たのは、隣国の魔法使い様。小さなダイアモンドが散りばめられた紺色のバラの花束を差し出して、彼は傅く。 (なろうにも、投稿)

両親からも婚約者からも愛されません

ララ
恋愛
妹が生まれたことで、私の生活は一変した。 両親からの愛を妹が独り占めをして、私はすっかり蚊帳の外となった。 そんな生活に終わりを告げるように婚約が決まるが……

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

完結 私の人生に貴方は要らなくなった

音爽(ネソウ)
恋愛
同棲して3年が過ぎた。 女は将来に悩む、だが男は答えを出さないまま…… 身を固める話になると毎回と聞こえない振りをする、そして傷つく彼女を見て男は満足そうに笑うのだ。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

処理中です...