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盗られた櫛の嘘
しおりを挟む「どうした?なにがあったのだ」心根が優しい皇太子は耳を傾ける、気を良くしたアボリーヌはこれ幸いと益々しな垂れかかる。
「うぅ……それが正妃様が……はぅぅ」
一夜明けてさっそくと正妃クロエファニーの元へ乱入したマテイビルアンである、朝の支度も途中だというのに些か逸り過ぎていた。
「なんですの、騒々しい。支度も待てないのですか?」
昨夜、アボリーヌの寝室に入って行ったのを目撃している彼女は刺々しい言い方をしてしまう。いくら気の弱い彼女とて許せないようだ。
「ま、待て何か怒っているのか?私は何かしただろうか?」
「……いいえ、別に」
ツンとソッポを向いて身支度の再開を始める彼女の背から不穏なものを感じとったが、そこは皇太子である毅然とした態度であることを問う。
「第五側室アボリーヌのことは知っておろう?」
「アボリーヌ……」
ピクリと反応したクロエファニーに勘違いをした皇子はきつい口調で問いただす。懐から取り出した簪に見覚えはないかと。彼女はそちらを一瞥すると訝しい顔をする。
「それがなんですの、話が見えないのですか」
「あくまで白を切るつもりか!これはアボリーヌのものだ、見ろこれをコームの部分がバラバラに折れ曲がり使い物になりやしない!」
「……?ですからそれが何だとおっしゃるのでしょうか。私に銀細工師の真似事をしろと?」
「いや、そうではなくて」
話が噛み合わない二人は押し問答をしたが核心をつく前に正妃が怒りにまかせて退室を促した。固く閉ざされた扉を前にマテイビルアンは何度もノックしたが反応はなかった。
「ううん、自ら罪を認めて欲しかったのだが……さて、どうしたものか」
皇子は簪を手で弄びながら唸る、たかが簪を台無しにしただけでは大袈裟にもできない。せめて細工師を呼んで直させようと彼は考えた。
そこに第一側室マリアネがやってきて朝の挨拶をしてきた。
「おはようございます殿下、お早いのね」
「え、ああキミか昨夜は失礼したな、悪いが用事があるのだこれで」
「あ!お待ちを殿下!その簪を見せていただいても?」
「ああ、かまわんが」
マリアネは殿下からそれを受け取るとしげしげと見た、すると深くため息を吐き「これは私のものですが、どちらで手に入れられました?」と聞くではないか。
「どいうことだ、これはアボリーヌから預かったものだぞ。それを何故……」
「簡単なことです殿下、彼女はお茶会に招いた際に盗ったのでしょう。手癖の悪いこと」
「なんだと!?」
この通りオレリー国のカワセミを模した紋章があるではないかと笑った。
「なんという事!私はいっぱい食わされたのか!」
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