4 / 7
毒花の罠
しおりを挟む第一側室の部屋を出て本殿に帰ろうとしたマテイビルアンだが、金切声に呼び止められ嫌な気分に陥る。
「何事だ、私は疲れている……」
不機嫌な顔を隠しもせず振り返ればそこには寝間着を着たアボリーヌ・バルゲリー第五側室がいた。その姿は煽情的でとても上品とは言い兼ねた。彼は色仕掛けを仕掛けて来たとすぐにわかる。
「お願いでございます、私の言葉に耳を傾けてくださいまし」
「……はぁ、そのような恰好で何を言うか。すぐに何かを羽織りなさい、それでなんだ?」
「はい、実は正妃様について」
「なんだと!?」
正妃クロエファニーの事だと聞いた彼は一気に冷静さを失って「どういう事だ」と詰め寄る。彼はどんな些細なことだろうと聞き漏らすわけにはいかないと話すよう促す。
「では私の寝室で……その、他人の耳に聞かせるには憚れる内容ですので」
「そ、そうか。わかった!いますぐ行こう」
こうして毒花の罠にかかったマテイビルアンである、寝所に連れ込みなど少し考えればわかりそうなものだが、すっかり平静さを失った彼は気が付かない。
まさに寝所へ連れ込もうとする時に正妃クロエファニーが書庫へ本を求めに廊下に出て来た。
「あれは殿下と第五側室?」
こんな夜更けにどこへ行こうというのか気になった彼女はこそりと後をつけた。すると当然のように第五側室の部屋へ入ろうとしている。
「殿下……貴方は……」
彼は言っていた『私の愛を証明するために他の側室と同衾することはない』と、今宵は第一側室の部屋に赴くが決してそのような行為はしないと宣言していた。
「ああ、殿下……やはり貴方も皇帝陛下と同じですのね」
***
「して、どんな話なのだ?くだらないことだったら許さんぞ」
「いいえ、決してそのような……うぅ」
美姫アボリーヌはさめざめと泣きだした、涙に弱い彼は「うわっ済まない!」と狼狽える。これもアボリーヌの計算の内なのだ。
とにかく涙を止めたい皇子は側にあったガウンを着せて背中をポンポンと叩いた。
「どうだ、落ち着いたか?私も幼少期にはこうして乳母に慰められたのだよ」
「ありがとうございます、お優しいのですね」
そこでヒシッと皇子に抱き着いて「おいおい」と泣いた、泣いている婦女子を乱暴に引き剥がす事も出来ず彼は固まってしまう。
暫くの間そうしているとやっと落ち着いたのか彼女は口を開く。
「私は一番格下の側室でございます、故に後宮でも控えめにしております。しかしながら正妃様は……」
「え?どうした、正妃が何をしたのだ?」
22
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
攻略対象ですがルートに入ってきませんでした
夏菜しの
恋愛
貴族が通う学園の食堂、私はそこで婚約破棄されました。
その瞬間に、これはゲームのイベントだと気づいたのです。
攻略対象である私は、ここでプレイヤーに慰められ……
って?
あれ、プレイヤーが居ないんですが……
分かりました。
攻略ルートに入ってこないのであれば、私は自由にさせて貰いましょう!
※12/23終了
その伯爵令嬢は、冷酷非道の皇帝陛下に叶わぬ恋をした
柴野
恋愛
それは一目惚れだった。
冷酷非道の血まみれ皇帝と呼ばれる男に、恋をしたのだ。
伯爵令嬢マリア・フォークロスは、娘を高値で売り付けたい父に皇妃になれと言われ、育てられてきた。
とはいえ簡単には妃どころか婚約者候補にすらなれるはずもなく、皇帝と近くで言葉を交わす機会さえろくに得られない。しかしながら、とあるパーティーで遠目から眺めた際――どうしようもなく好きになってしまったのだ。
皇帝陛下の、最愛になりたい。
皇帝に冷たい視線を向けられつつも、マリアは恋心のままに文を綴る。
自分の恋が叶わぬものだという現実に見て見ぬふりをして。
※本作は『社交界のコソ泥と呼ばれる似非令嬢に課されたミッションは、皇帝陛下の初恋泥棒です(https://www.alphapolis.co.jp/novel/6211648/759863814)』の前日談ですが、単体でもお楽しみいただけるはずです。
※主人公は報われません。
※悲恋バッドエンドです。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる