不器用な皇太子は皇妃を溺愛しているが気づいて貰えない

音爽(ネソウ)

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毒花の罠

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第一側室の部屋を出て本殿に帰ろうとしたマテイビルアンだが、金切声に呼び止められ嫌な気分に陥る。
「何事だ、私は疲れている……」

不機嫌な顔を隠しもせず振り返ればそこには寝間着を着たアボリーヌ・バルゲリー第五側室がいた。その姿は煽情的でとても上品とは言い兼ねた。彼は色仕掛けを仕掛けて来たとすぐにわかる。

「お願いでございます、私の言葉に耳を傾けてくださいまし」
「……はぁ、そのような恰好で何を言うか。すぐに何かを羽織りなさい、それでなんだ?」
「はい、実は正妃様について」
「なんだと!?」

正妃クロエファニーの事だと聞いた彼は一気に冷静さを失って「どういう事だ」と詰め寄る。彼はどんな些細なことだろうと聞き漏らすわけにはいかないと話すよう促す。

「では私の寝室で……その、他人の耳に聞かせるには憚れる内容ですので」
「そ、そうか。わかった!いますぐ行こう」
こうして毒花の罠にかかったマテイビルアンである、寝所に連れ込みなど少し考えればわかりそうなものだが、すっかり平静さを失った彼は気が付かない。

まさに寝所へ連れ込もうとする時に正妃クロエファニーが書庫へ本を求めに廊下に出て来た。
「あれは殿下と第五側室?」

こんな夜更けにどこへ行こうというのか気になった彼女はこそりと後をつけた。すると当然のように第五側室の部屋へ入ろうとしている。
「殿下……貴方は……」

彼は言っていた『私の愛を証明するために他の側室と同衾することはない』と、今宵は第一側室の部屋に赴くが決してそのような行為はしないと宣言していた。
「ああ、殿下……やはり貴方も皇帝陛下と同じですのね」



***

「して、どんな話なのだ?くだらないことだったら許さんぞ」
「いいえ、決してそのような……うぅ」
美姫アボリーヌはさめざめと泣きだした、涙に弱い彼は「うわっ済まない!」と狼狽える。これもアボリーヌの計算の内なのだ。

とにかく涙を止めたい皇子は側にあったガウンを着せて背中をポンポンと叩いた。
「どうだ、落ち着いたか?私も幼少期にはこうして乳母に慰められたのだよ」
「ありがとうございます、お優しいのですね」

そこでヒシッと皇子に抱き着いて「おいおい」と泣いた、泣いている婦女子を乱暴に引き剥がす事も出来ず彼は固まってしまう。

暫くの間そうしているとやっと落ち着いたのか彼女は口を開く。
「私は一番格下の側室でございます、故に後宮でも控えめにしております。しかしながら正妃様は……」
「え?どうした、正妃が何をしたのだ?」






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