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毒花の罠
しおりを挟む第一側室の部屋を出て本殿に帰ろうとしたマテイビルアンだが、金切声に呼び止められ嫌な気分に陥る。
「何事だ、私は疲れている……」
不機嫌な顔を隠しもせず振り返ればそこには寝間着を着たアボリーヌ・バルゲリー第五側室がいた。その姿は煽情的でとても上品とは言い兼ねた。彼は色仕掛けを仕掛けて来たとすぐにわかる。
「お願いでございます、私の言葉に耳を傾けてくださいまし」
「……はぁ、そのような恰好で何を言うか。すぐに何かを羽織りなさい、それでなんだ?」
「はい、実は正妃様について」
「なんだと!?」
正妃クロエファニーの事だと聞いた彼は一気に冷静さを失って「どういう事だ」と詰め寄る。彼はどんな些細なことだろうと聞き漏らすわけにはいかないと話すよう促す。
「では私の寝室で……その、他人の耳に聞かせるには憚れる内容ですので」
「そ、そうか。わかった!いますぐ行こう」
こうして毒花の罠にかかったマテイビルアンである、寝所に連れ込みなど少し考えればわかりそうなものだが、すっかり平静さを失った彼は気が付かない。
まさに寝所へ連れ込もうとする時に正妃クロエファニーが書庫へ本を求めに廊下に出て来た。
「あれは殿下と第五側室?」
こんな夜更けにどこへ行こうというのか気になった彼女はこそりと後をつけた。すると当然のように第五側室の部屋へ入ろうとしている。
「殿下……貴方は……」
彼は言っていた『私の愛を証明するために他の側室と同衾することはない』と、今宵は第一側室の部屋に赴くが決してそのような行為はしないと宣言していた。
「ああ、殿下……やはり貴方も皇帝陛下と同じですのね」
***
「して、どんな話なのだ?くだらないことだったら許さんぞ」
「いいえ、決してそのような……うぅ」
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「私は一番格下の側室でございます、故に後宮でも控えめにしております。しかしながら正妃様は……」
「え?どうした、正妃が何をしたのだ?」
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