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後宮
しおりを挟むどうか形だけでもと宰相に言われたマテイビルアン皇太子は渋々の体で後宮に訪れた。閨を共にするのは正妃クロエファニーだけだと言う彼だが、いまだ同衾を許されたことはない。
「やはり心と心が通じ合い触れあってからだと思うのだ!そうは思わんか?」
「はあ、言いたい事はわかりますがね」と側近のバスチアンは言う。彼は宰相の息子でやはり次代を継ぐ予定である。
「たくっ!伝統だか古いしきたりだか知らないが面倒極まりないな、現皇帝も好き者だったらしいが」
「はは……そりゃあ一晩で5人を相手にしたとか?」
「あり得ない!」
生真面目な皇太子は苛立ちを隠せない、今日は形だけの睦事をするのだ。相手は第一側室でマリアネ・オレリーという美しい姫君だ。オレリーと名乗っているのはバイエンスベルヘンの嫁として認めていないという事だ。
「じゃあ私はここまで、どうぞお楽しみください」バスチアンは後宮の入口でそう言った。
「ふん、楽しめるものか!」
彼は肩を怒らせて後宮へと歩いて行く、白粉と香水の匂いがしてきて嫌そうに鼻に皺を作った。どうやらクロエファニーにぞっこんだというのは見せかけではない様子。
「これは皇太子様、お目通り叶いまして幸甚にございます」
優雅な所作でそう言うマリアネを一瞥してから「では、顔は見せた。帰るぞ」と言って立ち去ろうとする。これには側室も驚く、いったい何をしにやってきたのか。
「まあ、殿下。お話くらいしていらして?ほんの5分で良いですから、茶を淹れますわ」
「……はぁ、やはり閨事は面倒だな……体裁か、好きにしろ」
「ありがとうぞんじます」
彼女は傷ついたという顔すらせずに微笑んでいた、そればかりか「やはり正妃様を愛されていらっしゃる」と感心する。
「うむ、わかっているじゃないか!私はクロエファニー以外いらない!」
「うふふふ、まぁ殿下ったら真っ直ぐで一途なのですね」
「ふふん!お前達がいかように色香を振り撒いても、この心が揺らぐことはないのだ」
「ふふ、頼もしいです」
そうこうしているうちに5分が過ぎて皇太子は部屋を後にする。
「楽しかったですわ皇太子殿下」
「ああ、ところで貴様は一度たりと私の名を呼ばなかったな?」
「はい、私にも思い続けた殿方いるのです。殿下の手前酷い事だと思いますが、その方以外を呼ぶつもりはありません」
「うん、そうか。それを聞けて私は嬉しいぞ。なるべく早く開放してやろう」
「有難き幸せです」
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