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月の夜
しおりを挟む季節は廻り冬になった満月の夜に王は一人そこに佇んでいた。
真っ赤なマントに真っ赤な絨毯、それは王太子の戴冠の儀の装いだ。先ほど戴冠式を無事に終えて気でも抜けのだろうか。
従者も付けず王は目を見開きジッと月を眺めている。
「父上、戴冠式ありがとうございました」
「……」
「父上?」
そのままの姿勢で王は「あぁ、アルド」と答えた、どこか擦れていてよく聞こえない。
「御声が何か……お風邪を召しましたか?」
「ああ、そうだよ。近頃はすっかり寒いからな」
「それはいけません、早めに部屋へお戻りください」
だがやはり身動ぎ一つせずに王は答える、「うむ、余はも少し月を愛でていくよ」とそういうのだ。頑固な父王を見て、呆れた王太子は「ではお先に戻ります」と言って居室に向かう。それに追随するように護衛騎士と侍女が歩いて行った。
後に残った王はグラリと横倒れて物言わぬ屍と化した。そう、彼はとうにこと切れていたのである。
椅子の真後ろからスィっと出て来たのは犯人である、手にはナイフがあり血濡れていた。
「やっと終わった……忌まわしき血族たちを」
その人物は仮面を被っていたが、晴れやかそうに天を仰いでいる。きっとその下には笑みを浮かべているに違いない。ルナの花がそこに落ちていた。
***
ルチアナ・ガンダレイノ伯爵令嬢は言った。
「今一度最初の現場を見てみませんか?見落としをしている事があるかも」
「なるほどね、でもそこに入るには許可が必要じゃないか?」
「ふふ、大丈夫。許可ならばすでに取っておりますの」
彼女がそういうとススッと現れたのはアルド王太子だ。「えへん」と咳払いした彼は小さな王のようだ。
「これはアルド王太子様、御機嫌麗しゅう」
「御機嫌ねぇ、キミの方は不服そうだがねエルネスト・サンティス侯爵令息」
「いえいえ、滅相もございません」
引き攣らせて取り繕うエルネストは貼り付けた笑顔で応える、目は笑っていない。さっそく王太子になったばかりだというのに王として君臨する事態になった。しばらくは宰相が代理を務める予定だ。
例の控室に入ると早速見分が始まった。
ルチアナは床を引き摺っているのを発見する、頻繁にそこに立ち入っているようだ。
「ねえ可笑しいと思わなくて?擦ったと思しき箇所があるわ」
「そう言われてみれば……」
そこは姿見が填め込まれている所だった、一見なにも無いように思えるがカートで踏みしめたような跡がある。
するとルチアナは突然そこに蹴りを入れた、バリンという音ともに小さな把手が現れた。王太子もエルネストも驚きを隠せない。
「少々乱暴でしたが、どうやらこの把手で開けるみたいです」
「乱暴って……まぁいいけど弁償しなきゃいけないよ」
「良い、私が許そう、それよりも早く開けてみないか?」
秘密の隠しドアを見つけて興奮気味のアルドは早く開けて見ろとせっついた。
「では開けますよ?」
「ああ」
グイッと把手を引くと案外すんなりと開いてしまった。少々拍子抜けした彼らは、目の前に信じられないものを発見する。
「あら、いらっしゃい」
「……ボニート王女殿下」
「とうとう見つかっちゃった、でもどうして貴女は冷静なの?他の二人は豆鉄砲を食らったみたいよ」
「簡単なことです、王女殿下だけご遺体が見つからない。可笑しいと思うはずです」
「ふふふっ、目敏いわねぇ。貴女は油断ならない人だわ」
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