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愛しい顔

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「ルチアナ……あぁ、なんてことだ」
刺突されたルチアナは一時は死線を彷徨った。だが、王家お抱えの治癒師によって救われたのである。だが、予断は許されない。

憔悴した顔が彼女を見つめていた、眩しい物を見るように彼女は目を開ける。
「……エル、エルネスト様……私は」
「良かった!目を覚ましたのだね。あぁ、肝が冷えたよ」
大粒の涙を流した彼は「ほう」と溜息を吐いた、聞けば十日間ほど眠りについていたらしい。怪我の跡は綺麗に治癒されたと聞かされた。

「まぁ、王子殿下が治癒師の手配を?有難いことだわ」
悪戯っぽい彼の幼い顔を思い浮かべて彼女は感謝した、肝臓と腸を断ち切られていた重症を負ったと聞いたルチアナは青褪める。

「私は運が良かっただけなのね……ゾッとするわ、ところで下手人はどこの誰なの?」
「今は捜査中だよ、キミは自分のことだけを考えて。治癒したとはいえ完璧ではないのだから」
「ええ、そうするわ」

さすがの彼女も重症を負い、青い顔をして刺された箇所を摩った。痛みはないがピリリと痺れるような気がした。


***


それからと言うもの、毎日エルネストは看病に訪れた。仕事を休んでまで来ているのだと聞いた彼女は恐縮する。
「良いんだよ、見舞いにくるだけしか出来ないのが心苦しい」
「そんな事、食事の世話までして頂いてます」
「もっと甘えてよ私のルティ、どんな事でもしちゃうよ」

甘い香りが立ちそうなほど二人の仲は甘美なものだった。侍女は「当てられてクラクラします」と苦言するほどだ。見合いで知り合ったというのに二人の関係は大恋愛の末に結ばれたかのようだ。

微熱が続く彼女のために水桶を交換しにいった侍女の目を盗み、彼は唾むようなキスを彼女に落とした。
「まあエル様、刺激的です」
「許していおくれ、つい……体に障らない程度に留めておくよ」
またも唇を寄せようと彼女に近づいた時、「エホン」という咳払いが聞こえた。

「まあ、王子殿下……」
「やあ、お加減は如何かな?今日は治癒師を伴って見舞いに参った次第、だが余計なことだったかい?」
「そんなことはございません、ありがとうございます」
ルチアナは微笑んで王子の来訪を歓迎した。面白くないのはエルネストである。

治癒師によれば刺された箇所を継ぎ留めているだけで完治したわけではないらしい。今日はそれを強固に施術するようだ。
「ああ、温かいです。ポカポカと……なんだかとても眠いわ」
「うん、無理せず眠ると良い。其方はまだ城務めの途中だろう、早く良くなって続きを頼む」
「ふふ、殿下ったら…………ス~ス~」

その様子は姉を慕う弟のようだった、それを見ていたエルネストはヤキモキする。嫉妬のオーラでも出ているのかそれを見咎めて王子は揶揄う。

「キミ、嫉妬心が駄々漏れだぞ。彼女の身体の負担になりかねない出て行ったらどうだ?」
「なっ!?私は彼女の婚約者です、心配して駆けつけただけです」
「ほほう、婚約者ねぇ」
バチバチと火花を散らす二人は一歩も引かない。



「むにゃ……王子殿下ぁ、おいたは駄目れすよぉ……」




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