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狩猟大会
しおりを挟む下手人たちの事は杳として掴めないまま季節は夏になっていた。
そして、夏恒例の狩猟大会のことで話題は持ち切りだ、王女のこともあり自粛すべきとの声も上がったが、普段から暇を持て余している貴族らの大半は開催を押したのである。
その中にはルチアナとエルネストの姿があった、彼女は療養で鈍ってしまった体を解しながらヤル気満々だ。
「うふふ~やるわよ!一羽でも多く獲りたいわ」
「はは、やる気十分だね」
狩猟とはいっても予め用意された雉や鳩などが放鳥されている、野生の獲物はほとんんどいないのだ。騎士団長の開始の声とともに皆は張り切る。
「出過ぎないでね、騎士の号令で動くんだ」
「ええ、わかっていてよ。相打ちなんて嫌だもの」
付かず離れず数メートルの距離を取って移動する、ハンチング帽を被った貴族達がごそごそと動いている。さっそくと雉を仕留めた誰かが「やったぞ」と声を張り上げていた。
「む~なかなかいないわね。鳩をみつけたけれどすぐに逃げてしまうわ」
「まぁまぁ、大会ははじまったばかりだよ」
その後、良い戦果も得られないまま昼休憩を取ることになる。ルチアナは雉を一羽、エルネストはニ羽という結果だ。
「はあ、うまくいかないものね。散弾銃に替えようかな」
「ふふ、良いじゃないか。たった一羽でも大したものさ」
獲物について論議しているとどこからか嫌な視線を感じ取る。ゆっくりとそちらの方に目を向ければ、どこかの令嬢がそこにいた。真っ直ぐと視線を送るその人物はルチアナを敵視しているように見えた。
「あの方……確かサマンサ・アカルデ男爵令嬢?」
「え?あぁ、彼女か。シツコイなぁ」
ゲンナリした顔で彼が言う、見合いをする予定だったのだが身分が離れており辞退したのだとエルネストは告白した。
「まぁ、それは御気の毒というか……」
「良いんだ、いまはキミがいる。かけがえのないルチャがね」
「あら、そんな。恥ずかしいわ」
頬を赤らめて恥ずかしがる彼女だったが、満更でもない様子だ。エルネストは優しく彼女を抱き寄せるとそっと頬にキスを落とした。
「あぁ、エル様……私は」
「やあやあ、盛り上がっているじゃないか!ボクもご相伴に預かっても?」
そこに乱入したのは第四王子アルドだった、悪気はないんだという風に割って入って来た彼はとんだ食わせ者である。
「これはこれは王子殿下ではありませんか、私共のつまらないランチなど」
牽制するエルネストは良い笑顔で答える。
「いいや、十分に豪勢じゃないか。良いかいルチャ?」
「はい、殿下。こちらにどうぞ」
早速とルチアナの横に陣取る殿下は手づからサンドイッチを食みだした。エルネストは小さく舌打ちする。
「ところでねルチャ、キミを襲った下手人のことだけれど姉上と似たようなやり口だったようだ」
「まあ!どのようなことですの」
腹部を一突きしていること、それから現場に残された遺留物にルナの花が落ちていたことなどをあげた。
「違う事と言えばキミが消えていないことだな」
「そうでしたの、ルナの花が……」
「ルナの花言葉は復讐と憎悪だ。決して良い意味ではないんだ」
それを聞いた彼女は先ほど向けられた執拗なほど嫌な視線を思い出す。
「サマンサ……」
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