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ボニート王女
しおりを挟む「そう、王女は行方知れずなのね。でも現場の状況から察するに絶望的だと?」
「うん、現場に残った血の量を考えるとね。彼女は腹部を刺されていたようだ」
せっかくの茶会だと言うのに、ルチアナは件の事で頭が一杯だ。エルネストもまた事件の事が気になるのか乗り気の様子である。
侍女たちはそんな話はどうでもよかろうと眉間に皺を寄せて背後に控えていた。
「当時、ボニート王女は5分ほど一人になりたいと言ったらしい、しかし、5分過ぎても反応が無く侍女と騎士が入室したら血の海に倒れていたようだ」
「あらまぁ……それでは自殺だと決定されたのかしら?」
ルチアナは茶を嗜みながらそう言った、些か渋くて「むっ」とする。しかし、取り換えさせるのも面倒でそのまま嚥下した。「渋いわよ」と文句は忘れない。
「う~ん、どうかな控室の窓は全開だったようだ。窓枠に血痕が残っていた、そこから下手人が逃げたと見ている」
「まあ、怖い!誰かが侵入していたかも知れないの?」
「うん、簡易なクローゼットがあったし、人一人分くらいは入れたはずだ。騎士隊の失態だと上は大騒ぎさ」
しかし、以前わからないのはボニート王女の遺体の行方である、あの喧騒の最中に消えたのだ。
「ねぇ、それじゃ……現場にいた誰かが持ち出したという事なのでは?あの物見遊山に集まった中に……」
「しっ!滅多なことは言うものじゃないよ、もうこの話は御終い!」
「ええ~!つまらないわ」
***
「じゃあオヤスミ、次は我が家へ招待しよう」
「ええ、楽しみですわ」
ゆったりと微笑み馬車を見送るルチアナはどこか不満そうである、事件がうやむやのまま終結してしまいそうだからだ。彼女はブツブツと呟きながら屋敷の中へ戻る。
「お嬢様、事件のことばかり質問なさって……肝心のエルネスト様のことはお聞きにならないのですね」
「え?あらそうだったかしら、でもパンは何枚食べるかくらいは聞いたはずよ」
「お嬢様……」
共に夕餉まで一緒したというのに王女殺害事件のことばかり質問していた。エルネストは城に従事する文官だ自然に事件のことは耳に入るし把握している。そのことは僥倖であると彼女は考えた。
「う~ん、何か事件のことを詳しく知ることは出来ないかしら?ねぇブルネール兄様」
「はあ?まだ首を突っ込むつもりかい?どうしてそんなに」
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だが、彼女はニッタリ笑うと「私の分のケーキも差し上げますわよ」と言うではないか。年の離れた可愛い妹にそこまでされたら無視はできない。所謂シスコンである。
「もぅ~仕方ないなぁ、……城のことを知りたいのならば就職でもすれば?例えば行儀見習の侍女とか」
「侍女!良いわねそれ、丁度結婚前という大義名分もあるわ!でかしたブル兄様!」
「何がでかしただよ、たくっ!口利きまでさせるつもりかい?」
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