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しおりを挟むすっかり秋が深まり冬の気配がし出した。そんな時、ヒラリと初雪が鼻を掠める。
「やぁ……なんてこった少し早すぎやしないか?」
エメリは庭にあった薪を拾いながらそう呟く、近頃は瑞々しい果実より焼き芋が人気がある。サラジーヌは自慢の果実より芋が売れるのを膨れっ面で「苺のほうが美味しいのに!」と言っている。
そんな彼女の顔を思い浮かべ「ふふ」と笑ってしまう。
「さて、早速と焼かないとな。お客さんが待っている」
彼は大きなツボに炭の入った火鉢をゆっくり下ろすと、火吹き棒でほんの僅か火力をあげて火が一定なったのを確認した。
それから芋を吊り下げじっくり火を通す。それを三台の壺釜に繰り返す、後は満遍なく芋を炙るだけだ。
彼はそれらの作業を終えると一旦部屋に戻ろうと襟を立てて「さむさむ!」と言い踵を返した。ところが勝手口のところで不自然に薪が転がっているのを見た。
「誰だい大切な商売道具を!まったく……」
彼はブツブツと文句を垂れてそれらを拾い上げた、……そこで彼は意識を手放した。
「……遅いわね、どうしちゃったのかしら?」
開店準備をしながらエメリが戻ってくるのが遅いと気が付いたサラジーヌは勝手口の方へ向かう。
「あれ、どうかしたんですか?」
「あぁ、ジリー。彼が遅いのよ、いくらなんでも三十分以上は掛け過ぎなの」
「そうですね、様子なら私が」
だが、その申し出を断りサラジーヌは自ら確認しに出て行った。きっと彼の事だ焚火に当たってぼんやりしているのだろうと思った。
「ふふ、子供っぽいところがあるからね。さて、私の王子様は何をしているやら」
少しウキウキしながら自分も焚火に当たろうかと考えていた、開店にはまだ早い時間だったから。
「エメリー?火鉢に火は通ったのでしょう、早く戻っ……え、いない!?」
どうした事か、忽然と姿を消したエメリを心配してあちこちを探した。だが、広い庭にはどこにもいなかった。プスプスと炙られる芋の良い香だけが充満していた。
そして、元の場所に戻ると手紙らしきが木戸に挟まっていたことに気が付く。
「エメリ……」
震える手でそれを確認した、それにはバストル王家の紋章がデカデカと描かれていた。見れば”バストル王家の王太子はエメリアン・バストルが任命された、貴女は速やかにバストル王国に戻ることを要求する”などと書かれていた。
「なんてこと!これが王族のすることなの!許せないわ!」
手紙を鷲掴むと彼女は咆えた。
「ジリー!焼き芋をお願い!すぐに戻るわ!」
そう言って彼女が旅発つまで僅か数秒の出来事だった。
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