10 / 18
9
しおりを挟む「は、そんなものただの伝承だろう?バカバカしい、飢饉が続くのは天候のせいだ。私は知っているぞ、水路をはり豊かにする過程をな」
アンセル・バストル王子は「シャリーこそがドリアードの血を受け継ぐ者だ」と言いながら矛盾した事を言っていた、これには呆れる大臣たちである。
大臣らは水源があってこその水路であると論破してくる、だが聞く耳を持たないアンセルは「ならば天に祈れよ」と言って話にならない。
「陛下、このままでは干ばつは酷くなる一方です。水源も枯れ始めており、末端の者はいつ死者がでるかわかりませんよ」
宰相は疲弊した様子でそう言った、彼が運営する領地も似たような状態にあり、今すぐにでも手を差し伸べたいと願っていた。
「ううむ……やはりシャリー嬢に頼むしかない、だが彼女は何が出来る?まさかコップ一杯の水を出すわけではないのだろう?せめて枯れ木を復活させる力くらいあるのだろう」
深刻な顔をする王は宰相に縋るように尋ねる、だが宰相は首を振り「何も出来ません」と絶望的なことを言った。
「なんだと!?それでは……サラジーヌ嬢こそが本物なのか!何故教えてくれなかった!何故だ!」
「その、アンセル王子に口止めされておりました……”何とかするから時間が欲しい”と懇願されまして」
「巫山戯るな!人の命がかかっておるのだぞ!貴様の領民とて同じだろうが!」
申し訳ないと頭を垂れる宰相は蒼さを通り越して白くなっていた、今にも倒れそうな雰囲気だ。
「やれることはなんでもしよう!サラジーヌ嬢を連れ戻すのだ!彼女は今どこにいる!」
しかし、杳として知れないと宰相も大臣らも首を横に振るばかりだ。すでに捜索隊は結成されて方々を探しているのだが不明だという。
「まさか出奔したのか……あってはならない事だぞ」
***
その頃のサラジーヌは豊かに実った果実たちを捥いで楽しく暮らしていた。
近頃はイチジクやチェリーを生らして「最高だわ」と言っていた。生国が飢饉に見舞われているなど知らない彼女は人生を謳歌している。
「イチジクと言ったらクリームチーズと相性抜群よね、サラダにして食べたいわ」
「それなら店で出したらどうかな?いままでは全部素材そのまま提供してきただろう?メロンも苺も」
それを聞いたサラジーヌは困った顔をする、彼女は調理が苦手らしい。
「無理かな、私は料理なんてとても……サラダやジャムにするくらいならできるけどね」
ならば料理人を雇ったらどうかと提案するエメリだ、だが彼女は良い顔をしなかった。彼女は安価で提供したいと考えており、加工などしたらその分高くなってしまうのを恐れた。
「そうなのか、だったら簡単なレシピにしてみないか?例えばパルフェとか、あれなら盛り付け次第だし」
「パルフェですって!?それは素敵ね!」
264
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説

無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後
柚木ゆず
恋愛
※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。
聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。
ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。
そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。
ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――

皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

私を捨てた元婚約者が、一年後にプロポーズをしてきました
柚木ゆず
恋愛
魅力を全く感じなくなった。運命の人ではなかった。お前と一緒にいる価値はない。
かつて一目惚れをした婚約者のクリステルに飽き、理不尽に関係を絶った伯爵令息・クロード。
それから1年後。そんな彼は再びクリステルの前に現れ、「あれは勘違いだった」「僕達は運命の赤い糸で繋がってたんだ」「結婚してくれ」と言い出したのでした。

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました
柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。
「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」
「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」
私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。
そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。
でも――。そんな毎日になるとは、思わない。
2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。
私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。
第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。
その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。
ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。
私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~
柚木ゆず
恋愛
今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。
お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?
ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた
今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。
二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。
ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。
その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。
が、彼女の前に再びアレクが現れる。
どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…

わたし、何度も忠告しましたよね?
柚木ゆず
恋愛
ザユテイワ侯爵令嬢ミシェル様と、その取り巻きのおふたりへ。わたしはこれまで何をされてもやり返すことはなく、その代わりに何度も苦言を呈してきましたよね?
……残念です。
貴方がたに優しくする時間は、もうお仕舞です。
※申し訳ございません。体調不良によりお返事をできる余裕がなくなっておりまして、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる