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しおりを挟む「いらっしゃいませ~ご注文は?」
女神のような笑顔を振りまいて接客に勤しむサラジーヌは毎日楽しくて仕方がない。果実全般を揃えるのが彼女の夢である。
「あ、あの、このメロンと梨のセットが小銀貨五枚って本当ですか?」
「はい、そうですよ。葡萄も美味しいですよ」
「安すぎる……」
あまりの激安に躊躇する客達だ、はじめこそは疑ったがちゃんと肉厚なメロンが供されると夢中で食べた。
「また、来ます!今度は桃を食べたいです」
「ふふ、ありがとうございます。またのお越しを」
貴重な甘味なうえに水菓子はとても高価だ、あり得ない価格設定に誰もが驚くのは無理もない。
「だって費用と言ったら最初の種くらいだもの、逆に貰い過ぎ?」
そのうちに評判が広がって店はてんてこまいになった、仕方なく従業員募集を掛けた。だが、中々人は集まらない。困ったサラジーヌはギルドへ助っ人を募集することにした。
”読み書き、計算必須 体力に自信がある方急募 給金 金貨2枚”(約20万)
すぐに人員が集まると思っていたのだが、識字率が思いのほか低い。簡単な読み書きならばまだしも「計算」が出来る人はほとんどいなかったのである。
「はぁ~見誤ったかしら、これでは営業時間を半分にしないと」
悄気る彼女だが客達は待ってはくれない。
「すみませーん、苺とメロン大盛であと桃も一皿」
「こっちも葡萄と林檎を頂戴な」
「は、はーい!ただいま!」
営業時間を短縮して悪戦苦闘するサラジーヌであった、それでもギリギリで狭い店内は待ち人でごった返す。
これはもう店を一旦閉じねばならないのではと思い始めた時だ、思わぬ助っ人がやってきたのである。
「すみません、ギルドから依頼を受けまして……あれ?」
「はい、有難う助かりま……ええええ!?」
それはサラジーヌとエメリとの再会だった、ふたりはマヌケな顔をして「あらぁ」と言った。
「まさか貴女からの依頼だったとはね、奇遇だねハハハッ」
「そ、そうですねアハハ……あ、そうだ給金と御休みについて話しましょう」
「うん、よろしく」
その後、雇用について折り合いがつき漸く本採用が決定したのだ。
「あぁ良かった!中々従業員が来てくれなくて困っていたのよ」
胸を撫で下ろす彼女は営業時間をもとに戻した、それでもギリギリだったが何とかなるだろうと思う。
「そりゃあ計算能力が必要とあるからね、そう簡単ではないのさ」
「そうなの?そう言えば絵を見て”これとこれをください”という客が多かったわ」
彼女はムムムと唸り「迂闊だった」と後悔した。
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