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しおりを挟むその頃、バストル王国を出奔していたサラジーヌは隣国の小さな村の宿で手足を伸ばしていた。やっとしがらみから逃げた彼女はとても嬉しそうだ。
「あぁ、こんなにゆっくり眠れたのは久しぶりだわ。おじい様の御小言も両親の戒めも届かない!私は自由なのだわ」
彼女は飛び跳ねるようにステップを踏んでしまい隣から「煩いぞ」と苦情まで来た。「ごめんなさい」と見えない隣人に頭を下げた。
「いけない、浮かれ過ぎてしまったわ。気を付けないと」
その後、食堂に降りると朝食が用意されていた。「おはよう」と宿の女将に声をかけて席に着く。
「一泊二食付きで銀貨5枚、悪くないわ。いただきます」
食事とは言っても堅いパンとスープのみだ、それでも不満を言うことなく彼女はスープにパンを浸してニコニコと食べた。
食後に薄い茶をゆっくりと飲んで「ご馳走さまでした」と感謝する。
ケフリと小さくゲップをすると斜め前にカチカチのパンと格闘している男性を見つける。食べ方を知らない様子だった。彼は堅いパンを無理矢理千切ろうとしてパンに齧りつく。
「クスクス……それではダメだわ、歯が欠けてしまいます」
「え?」
吃驚した男性はサラジーヌの方を見た、拍子にパンをポロリと落としてしまう。
「あ!しまった!これはいけない大切な糧が」
見兼ねたサラジーヌはパンを拾ってあげて、食べ方を教える。
「うん、大丈夫、カチコチパンは埃を払えばいけるわ。はい、こうやってスープに浸して食べるといいわ」
「やぁ、ありがとう。うん、これなら食べられるぞ」
男性は礼を言いながらアグアグと頬張り、ニカッと笑った。その所作を見た彼女はワザと粗雑そうに振る舞っていると見破る。
食べ慣れない堅いパンといい、彼は身分を隠さなければならないほどに高位の者だと悟った。
「では、私はこれで」
立さ去ろうとするサラジーヌだったが「待って」と腕を取られた。不審に思った彼女は身体を強張らせる。
「あ、いや、済まないな。驚かせるつもりはないんだ」
「はあ?」
腕を取る手を申し訳なさそうに放すと彼はエメリと名乗った、女の子のような名前だと彼女は笑う。
「私はサラというの、それで何か御用かしら?」
「うん、実はギルドという所へ行きたいんだ。教えて貰えないだろうか?」
独り立ちする為に隣国から出立したは良いが右も左もわからないと言うではないか。
「あらぁ……気の毒ね、良くここまで辿り着いたこと」
呆れるサラジーヌに「えへへ」と頭を掻くエメリなのだった。
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