頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)

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それから

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――約三年後、春。


まだ少し肌寒い日、ハウラナは堅い蕾を見つめていた。
そこは自分が作った花畑ではなく、自然の景色で温かい空気はない。


「ラナ様、お風邪を召します」
メイドがそう言ってショールを掛けてくれた。


「ありがとうミーニャ、あなた言葉が綺麗になったわね」
「恐れ入ります、昼食の用意が出来ております」


ハウラナとミーニャは手を繋ぎ並んで歩く、主従関係としては可笑しいがハウラナの望みなのだから仕方ない。
川のせせらぎの近くに設置されたテーブルセットに腰を下ろす。


野菜スープに大きめのブルストが一本、それに卵サンドといちごのマフィンが皿に乗っていた。
「「いただきます」」

二人は向かい合って食事をはじめた、温かいスープが胃に入ってジンワリと熱くする。

「ん~おいしい!野菜が甘くて柔らかくて堪らないわ流石ミーニャ!」
「ありがとうございます」


卵サンドを楽しみ、マフィンを齧りだした頃、ミーニャがミルクティを淹れる。
なにもかも完璧なメイドになったミーニャである。


お腹が満たされたハウラナは大きく伸びをして「さぁ出発しましょうか」と言った。
食器を片付けテーブルセットを亜空間に収納する。


「午後は馬移動になさいますか?」
「うーん、そうねぇ……街道から大分外れたし、野盗に絡まれても面倒かなぁ」

絡まれても物ともしないハウラナだが、サクサク移動したいのが本音だ。

「次の村まで転移しちゃおう!宿があるともわからないからね」
「ハイ、ではそのように」

いったん馬を国へ戻して、再びここへ戻る。旅の醍醐味?そんなもの規格外の彼女に通じない。

ハウラナがミーニャと両手で手を取り合い、魔法を唱えた出した時、無粋な邪魔が入った。


***


「酷いよ!やっとここまで追いついたのに転移魔法だなんて!」
「……なぜ待たなければならないの?」

「え……だって一緒に」

馬を駆って現れ不満そうな声をあげて彼女らの移動を止めたのはクレイブだ。
やや、野性味を醸し出している彼は、どこから見ても冒険者だった。


「私達は他人ですよ?それに皇帝の仕事はだいじょうぶなんですか」
「……うぐ、そそれは」


結局クレイブは終戦後に後宮の廃止を成せたが、ハウラナを正妃には迎られなかった。
ハウラナが頑として首を縦に振らなかったせいだった。


「ハウラナ~!」
「王女とお呼びください、皇帝陛下」

今日も冷たくあしらわれたクレイブはガックリと肩を落とした。


「ではごきげんよう!」

「あ!!!!」


行き先も遂げずに転移したハウラナの腕をつかみ損ねて、クレイブが地団太を踏む。

「ぜーーーたい!諦めないからな!俺の初恋!生涯かけて口説くからな!」


……



とある村の入口で悪戯な笑みを零す娘が二人。

「ほんとしつこいんだから……まぁ気が向いたら食事くらい招待しましょ」
「その前に飽きられたらどうします?」

"その程度の思いなら縁が無かったのよ"



彼女の小さな呟きは春の風にかき消された。


Fin


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