頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)

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火蓋は切られた

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「密偵と連絡が取れないだと!?」
王太子ルードの報告にイースレッド王は声を荒げた。
密偵達が入国して半月、総勢15名の者の行方がわからなくなった。

第一報の「無事入国、街商人らと接触開始」と報告があったきり連絡が途絶えたままだった。


「間諜部隊を預け仕切らせたのは失敗だったのだな、ルードお前には失望したぞ」
「待ってください父上!」

「黙れ!聞けば精鋭を出し惜しんで末端の者を使ったそうではないか!あれほどゼベールを侮るなと言ったであろうが!王太子は貴様から第二王子に挿げ替える!余の前から去ね!」

「そんな!挽回させてください!是非ゼベールへ俺を派遣させてください!かならず…」
縋ろうと手を伸ばしたルードの腕を払って王が怒鳴る。


「ウルサイ!もはや密偵を送る段階ではない!イースレッドがチョッカイをかけたと露見した今、再び探るなど意味はないわ!皇帝の寵姫の母国を踏み荒らしたと知れたら……いやもう手遅れかもしれん、我が国は帝国と魔法国を相手に戦う羽目になった……終わりだ、海戦ならいざ知らず双方より陸から攻められたら、いや帝国は飛竜使いがいて空戦も優れている、皇帝ひとりでも厄介だと言うのに……」


王は頭を抱えて玉座から崩れ落ちた。


***

「汚いネズミがイースレッドから届いたよ」
ハウラナの兄カインが就寝前のところへ転移してきた。

「兄さま!淑女の部屋ですよ!兄妹とはいえど許されません」
「ごめんごめん、ついね。荒事好きなラナなら喜ぶかと思って逸ってしまったよ」

「……まぁ否定はしませんが、戦争になりそうですか?」
眠気が吹っ飛んでしまったハウラナは夜着にガウンを重ねて聞き入る。

「皇帝の耳に入ったからね、ラナの国が狙われていると知れば避けられないさ」
「どうして?」

たかが小娘如きの為に帝国が動くだろうかと、ハウラナは解せないと頭を振った。

「なんていうか、クレイブ殿は気の毒だ。ラナには乙女心がないんだな」
「ちょっと!失礼ですよ兄様!わたしは女の子です!」


とにかく、イースレッドの造船技術を欲している帝国にとっては好機だろう。
結んでいた同盟を破棄して堂々と開戦の根拠(言いがかり)を掲げて進軍するに違いない。


「嫌ですよ、私をダシに戦争なんて!苦しむのは民ではないですか!少なくともイースレッドの国民が気の毒です」
「つけ入る隙を見せた側が悪いんだ政とはそういうものなんだ」

為政者の顔をした兄に、ハウラナは言葉に詰まったがなるべく最小限の被害内でとお願いした。


「わかってる、その為にはラナ……君の手も貸してくれ」
「……安くないですよ?」

ふくれっ面の妹の頭を撫でて「夜分すまなかった」と謝罪するとこまめに連絡を取ると約束して消えて行った。

「暴れるのは好きだけど、戦争となると違うわよ。困ったものね」
ハウラナはボフンと寝具に体を預けると目を瞑る、けれどその日はなかなか寝付けなかった。











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