頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
21 / 32

少女と少年2

しおりを挟む
皇太子クレイブは冒険者風を装い、ゼベールへ入国した。
ワザと襤褸を纏い、薄汚れたマントに粗末な剣を腰に佩いている様は皇帝の子には見えない。


帝国で作っておいたギルドの身分証が役に立つ。
王都の門番には出稼ぎの小僧と見做されて、すんなり入れた。


「ふむ、術を使うまでもなかったな」
ゼベールの王都は古い建造物ばかりだったが、とても趣がある景色だとクレイブは思った。

「うん、良い街じゃないか気に入ったぞ!」


ただ、帝国とは違うのは得体の知れない球体が宙に浮いていたり、魔道具屋なるものが軒を連ねていた。

「魔道具?……不思議な石が付いているな」
店先に並んだ、オルゴールの箱に似たものがずらりと並んでいる。


【特価品 古い型につき半額!】
「へぇ、一つ買ってみようか。……魔導コンロ、コンロは要らないな。こっちは文書転送箱?よくわからないぞ」

使い方云々の前に怪しげな商品名を見て、クレイブは買うことを断念した。
声を届けることが出来る「通信箱」なるものがオススメだと店主に言われたが、断った。


「どれもこれも怪しすぎる……声が遠方に届くなど眉唾だ、しかも魔力が弱いと使えないじゃないか」
仕組みがさっぱり理解出来なくて、すぐに魔道具のことは頭から消し去った。

「こんなことより城だ、面白い姫に会いたい」

王都の北に高く聳える白く美しい城を眺めあげた。
厳つい門兵たちが、テコテコと歩いてくる薄汚い少年に警戒してガシャリと鉄鎧を鳴らした。


「何用だ!この先は……王……城、何人も……あれ?なんだっけ」
「おい!右の!なにを呆けてんだ!侵入しゃ……あぅ?俺は何してたっけ……考えるのがメンドクサイ」


精神干渉を使って門兵達を混乱させたクレイブは、手の平をヒラヒラさせて門を潜って行く。

外門、中門とサクサク潜って行くクレイブは内門までもアッサリクリアした。
兵たちは十秒ほど眩暈を感じただけで元に戻ったが、クレイブが通ったことは記憶から抜けている。



「うーん、庭園の見周り兵はさすがに多いな。全員≪≪眠れ≫≫」
影響を受けた兵たちはバタバタと倒れて、グースカ眠りこけた。

まんまと城内に入ったクレイブは、適当なメイドを操って王女の元に案内させた。

「王女は何階にいるんだ?」
「は……ひ、上から3番目が……王女専用フロアに……なっております」

登るのが骨だなとクレイブが思っていたら、メイドは籠状のものへ入れと手招きした。
「なんだこれは?」
「昇降機で……ござ……ます」


メイドは虚ろな目をしながら作業して、王女の住むフロアへと導いた。
ガタンと把手を上へ動かすと鉄籠のようなものはクレイブを乗せて一気に上がった。

「うおお!?なんだこれは上へ勝手に上ったぞ!?」
「はい、昇降機で……すから当たり前です」

聞いたことも無い機械音に若干戸惑うクレイブである。
そして軽い衝撃の後に停止すると、鉄籠の扉が開いた。


「すごい……あの高さを一気に登ったのか!?1分も経ってないぞ!」
いろいろ驚くのに忙しいクレイブを余所にメイドはさくさくと王女の居室へ歩いて行く。
それを慌てて追うクレイブであった。


居室前の護衛をあっさりと昏倒させてクレイブは堂々と入室した。
白と薄桃色の部屋の中央に少女はいた。

カウチに寝そべり何かの本に夢中だった。
「こんにちは、お姫様」
「……あら、どなた。見かけない顔ね?」

闖入者相手に、まったく動じない姫にクレイブは呆気にとられた。


「えーと……俺の名はクレイブ、帝国からきた冒険者さ」
「まぁ!冒険者ですって!?スゴイ初めて見るわ!いろいろお話して頂戴!」

思いのほか食いついてきた王女に吃驚するクレイブだったが、コロコロと表情を変える無邪気な王女に恋に落ちた。
愛くるしい顔の裏に強い意思が垣間見え、そのギャップがまた彼の心を鷲掴む。




「ね、それで?猫の王様はどうなったの?」
「あぁ、アンタジアの猫王は気まぐれでね……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

チート魔法の魔導書

フルーツパフェ
ファンタジー
 魔導士が魔法の研究成果を書き残した書物、魔導書――そこに書かれる専属魔法は驚異的な能力を発揮し、《所有者(ホルダー)》に莫大な地位と財産を保証した。  ダクライア公国のグラーデン騎士学校に通うラスタ=オキシマは騎士科の中で最高の魔力を持ちながら、《所有者》でないために卒業後の進路も定まらない日々を送る。  そんなラスタはある日、三年前に他界した祖父の家で『チート魔法の魔導書』と題された書物を発見する。自らを異世界の出身と語っていた風変わりな祖父が書き残した魔法とは何なのか? 半信半疑で書物を持ち帰るラスタだが、彼を待ち受けていたのは・・・・・・

前世では伝説の魔法使いと呼ばれていた子爵令嬢です。今度こそのんびり恋に生きようと思っていたら、魔王が復活して世界が混沌に包まれてしまいました

柚木ゆず
ファンタジー
 ――次の人生では恋をしたい!!――  前世でわたしは10歳から100歳になるまでずっと魔法の研究と開発に夢中になっていて、他のことは一切なにもしなかった。  100歳になってようやくソレに気付いて、ちょっと後悔をし始めて――。『他の人はどんな人生を過ごしてきたのかしら?』と思い妹に会いに行って話を聞いているうちに、わたしも『恋』をしたくなったの。  だから転生魔法を作ってクリスチアーヌという子爵令嬢に生まれ変わって第2の人生を始め、やがて好きな人ができて、なんとその人と婚約をできるようになったのでした。  ――妹は婚約と結婚をしてから更に人生が薔薇色になったって言っていた。薔薇色の日々って、どんなものなのかしら――。  婚約を交わしたわたしはワクワクしていた、のだけれど……。そんな時突然『魔王』が復活して、この世が混沌に包まれてしまったのでした……。 ((魔王なんかがいたら、落ち着いて過ごせないじゃないのよ! 邪魔をする者は、誰であろうと許さない。大好きな人と薔薇色の日々を過ごすために、これからアンタを討ちにいくわ……!!))

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

聖女なんて御免です

章槻雅希
ファンタジー
「聖女様」 「聖女ではありません! 回復術師ですわ!!」 辺境の地ではそんな会話が繰り返されている。治癒・回復術師のアルセリナは聖女と呼ばれるたびに否定し訂正する。そう、何度も何十度も何百度も何千度も。 聖女断罪ものを読んでて思いついた小ネタ。 軽度のざまぁというか、自業自得の没落があります。 『小説家になろう』様・『Pixiv』様に重複投稿。

逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。 なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。 ザル設定のご都合主義です。 最初はほぼ状況説明的文章です・・・

処理中です...