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少女と少年2
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皇太子クレイブは冒険者風を装い、ゼベールへ入国した。
ワザと襤褸を纏い、薄汚れたマントに粗末な剣を腰に佩いている様は皇帝の子には見えない。
帝国で作っておいたギルドの身分証が役に立つ。
王都の門番には出稼ぎの小僧と見做されて、すんなり入れた。
「ふむ、術を使うまでもなかったな」
ゼベールの王都は古い建造物ばかりだったが、とても趣がある景色だとクレイブは思った。
「うん、良い街じゃないか気に入ったぞ!」
ただ、帝国とは違うのは得体の知れない球体が宙に浮いていたり、魔道具屋なるものが軒を連ねていた。
「魔道具?……不思議な石が付いているな」
店先に並んだ、オルゴールの箱に似たものがずらりと並んでいる。
【特価品 古い型につき半額!】
「へぇ、一つ買ってみようか。……魔導コンロ、コンロは要らないな。こっちは文書転送箱?よくわからないぞ」
使い方云々の前に怪しげな商品名を見て、クレイブは買うことを断念した。
声を届けることが出来る「通信箱」なるものがオススメだと店主に言われたが、断った。
「どれもこれも怪しすぎる……声が遠方に届くなど眉唾だ、しかも魔力が弱いと使えないじゃないか」
仕組みがさっぱり理解出来なくて、すぐに魔道具のことは頭から消し去った。
「こんなことより城だ、面白い姫に会いたい」
王都の北に高く聳える白く美しい城を眺めあげた。
厳つい門兵たちが、テコテコと歩いてくる薄汚い少年に警戒してガシャリと鉄鎧を鳴らした。
「何用だ!この先は……王……城、何人も……あれ?なんだっけ」
「おい!右の!なにを呆けてんだ!侵入しゃ……あぅ?俺は何してたっけ……考えるのがメンドクサイ」
精神干渉を使って門兵達を混乱させたクレイブは、手の平をヒラヒラさせて門を潜って行く。
外門、中門とサクサク潜って行くクレイブは内門までもアッサリクリアした。
兵たちは十秒ほど眩暈を感じただけで元に戻ったが、クレイブが通ったことは記憶から抜けている。
「うーん、庭園の見周り兵はさすがに多いな。全員≪≪眠れ≫≫」
影響を受けた兵たちはバタバタと倒れて、グースカ眠りこけた。
まんまと城内に入ったクレイブは、適当なメイドを操って王女の元に案内させた。
「王女は何階にいるんだ?」
「は……ひ、上から3番目が……王女専用フロアに……なっております」
登るのが骨だなとクレイブが思っていたら、メイドは籠状のものへ入れと手招きした。
「なんだこれは?」
「昇降機で……ござ……ます」
メイドは虚ろな目をしながら作業して、王女の住むフロアへと導いた。
ガタンと把手を上へ動かすと鉄籠のようなものはクレイブを乗せて一気に上がった。
「うおお!?なんだこれは上へ勝手に上ったぞ!?」
「はい、昇降機で……すから当たり前です」
聞いたことも無い機械音に若干戸惑うクレイブである。
そして軽い衝撃の後に停止すると、鉄籠の扉が開いた。
「すごい……あの高さを一気に登ったのか!?1分も経ってないぞ!」
いろいろ驚くのに忙しいクレイブを余所にメイドはさくさくと王女の居室へ歩いて行く。
それを慌てて追うクレイブであった。
居室前の護衛をあっさりと昏倒させてクレイブは堂々と入室した。
白と薄桃色の部屋の中央に少女はいた。
カウチに寝そべり何かの本に夢中だった。
「こんにちは、お姫様」
「……あら、どなた。見かけない顔ね?」
闖入者相手に、まったく動じない姫にクレイブは呆気にとられた。
「えーと……俺の名はクレイブ、帝国からきた冒険者さ」
「まぁ!冒険者ですって!?スゴイ初めて見るわ!いろいろお話して頂戴!」
思いのほか食いついてきた王女に吃驚するクレイブだったが、コロコロと表情を変える無邪気な王女に恋に落ちた。
愛くるしい顔の裏に強い意思が垣間見え、そのギャップがまた彼の心を鷲掴む。
「ね、それで?猫の王様はどうなったの?」
「あぁ、アンタジアの猫王は気まぐれでね……」
ワザと襤褸を纏い、薄汚れたマントに粗末な剣を腰に佩いている様は皇帝の子には見えない。
帝国で作っておいたギルドの身分証が役に立つ。
王都の門番には出稼ぎの小僧と見做されて、すんなり入れた。
「ふむ、術を使うまでもなかったな」
ゼベールの王都は古い建造物ばかりだったが、とても趣がある景色だとクレイブは思った。
「うん、良い街じゃないか気に入ったぞ!」
ただ、帝国とは違うのは得体の知れない球体が宙に浮いていたり、魔道具屋なるものが軒を連ねていた。
「魔道具?……不思議な石が付いているな」
店先に並んだ、オルゴールの箱に似たものがずらりと並んでいる。
【特価品 古い型につき半額!】
「へぇ、一つ買ってみようか。……魔導コンロ、コンロは要らないな。こっちは文書転送箱?よくわからないぞ」
使い方云々の前に怪しげな商品名を見て、クレイブは買うことを断念した。
声を届けることが出来る「通信箱」なるものがオススメだと店主に言われたが、断った。
「どれもこれも怪しすぎる……声が遠方に届くなど眉唾だ、しかも魔力が弱いと使えないじゃないか」
仕組みがさっぱり理解出来なくて、すぐに魔道具のことは頭から消し去った。
「こんなことより城だ、面白い姫に会いたい」
王都の北に高く聳える白く美しい城を眺めあげた。
厳つい門兵たちが、テコテコと歩いてくる薄汚い少年に警戒してガシャリと鉄鎧を鳴らした。
「何用だ!この先は……王……城、何人も……あれ?なんだっけ」
「おい!右の!なにを呆けてんだ!侵入しゃ……あぅ?俺は何してたっけ……考えるのがメンドクサイ」
精神干渉を使って門兵達を混乱させたクレイブは、手の平をヒラヒラさせて門を潜って行く。
外門、中門とサクサク潜って行くクレイブは内門までもアッサリクリアした。
兵たちは十秒ほど眩暈を感じただけで元に戻ったが、クレイブが通ったことは記憶から抜けている。
「うーん、庭園の見周り兵はさすがに多いな。全員≪≪眠れ≫≫」
影響を受けた兵たちはバタバタと倒れて、グースカ眠りこけた。
まんまと城内に入ったクレイブは、適当なメイドを操って王女の元に案内させた。
「王女は何階にいるんだ?」
「は……ひ、上から3番目が……王女専用フロアに……なっております」
登るのが骨だなとクレイブが思っていたら、メイドは籠状のものへ入れと手招きした。
「なんだこれは?」
「昇降機で……ござ……ます」
メイドは虚ろな目をしながら作業して、王女の住むフロアへと導いた。
ガタンと把手を上へ動かすと鉄籠のようなものはクレイブを乗せて一気に上がった。
「うおお!?なんだこれは上へ勝手に上ったぞ!?」
「はい、昇降機で……すから当たり前です」
聞いたことも無い機械音に若干戸惑うクレイブである。
そして軽い衝撃の後に停止すると、鉄籠の扉が開いた。
「すごい……あの高さを一気に登ったのか!?1分も経ってないぞ!」
いろいろ驚くのに忙しいクレイブを余所にメイドはさくさくと王女の居室へ歩いて行く。
それを慌てて追うクレイブであった。
居室前の護衛をあっさりと昏倒させてクレイブは堂々と入室した。
白と薄桃色の部屋の中央に少女はいた。
カウチに寝そべり何かの本に夢中だった。
「こんにちは、お姫様」
「……あら、どなた。見かけない顔ね?」
闖入者相手に、まったく動じない姫にクレイブは呆気にとられた。
「えーと……俺の名はクレイブ、帝国からきた冒険者さ」
「まぁ!冒険者ですって!?スゴイ初めて見るわ!いろいろお話して頂戴!」
思いのほか食いついてきた王女に吃驚するクレイブだったが、コロコロと表情を変える無邪気な王女に恋に落ちた。
愛くるしい顔の裏に強い意思が垣間見え、そのギャップがまた彼の心を鷲掴む。
「ね、それで?猫の王様はどうなったの?」
「あぁ、アンタジアの猫王は気まぐれでね……」
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