頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
20 / 32

少女と少年1

しおりを挟む
ハウラナ2歳のある日のこと。


ゼベール城内で迷子騒動が起きた、侍女が目を離した僅か1分の間にハウラナ王女が忽然と行方をくらました。
居室には侍女とベッドメイクをしていたメイドが一人、ドアの外には護衛が二人いた。


まるで神隠しだと大騒ぎになった。
どこを探しても発見に至らず、数日が過ぎた頃だった。


茶の準備をしていた王妃付の侍女が、小さな手がニュッと出てきてクッキーを盗んでいくのを目撃して悲鳴をあげた。


それから数時間後、王女は亜空間続きの花畑で発見された。
同じ能力を持っていた兄王子カインがいなければ、生涯発見されなかったかもしれない。


衣服は少し汚れていたが、彼女は元気に花畑でお茶とクッキーを食べていた。

王女の安否を気遣い過ごしていた王達は痩せ細ったというのに、王女は丸々とした顔でキャッキャと笑っていた。
「あぁ私のハウラナ……よくぞ無事で」

ハウラナが行方不明の間は、茶しか飲めなくなっていた王妃。窶れた頬に影を落とし泣いて過ごした。
親の心子知らずである。


「この子の能力は空間魔法なのね、早速教師をつけて理解させなくては危ないわ」
わずか2歳で開花した能力、早すぎる力の目覚めによって起きた神隠し事件だった。


***

「良いですか王女様、魔術は便利ですが使い方を誤ればとても危険です」
「きけん?」
「そうです、面白半分で亜空間へ遊びに行っては行けません。帰ってこられないこともあるのですよ!恐ろしいでしょう?」

帰えれないということは、母達に会えなくなるという事に気が付いた王女は火が付いたように泣いて教師を困らせた。


2歳半から本格的な魔法の訓練を受けたハウラナは、同時に暗器使いの特訓も始めていた。
早すぎると反対意見もあったが、特殊能力を持つ彼女の自衛力はすぐに身に着けるべきと王が決定した。

「能力に目を付けられたら誘拐も有り得るからな、ここは心を鬼にして耐えよう」
「ええ、そうですわね。すべてはあの子の為ですから」

優しく、厳しい両親のもとでハウラナはメキメキと力を付け、外見は可愛く成長していった。
見た目はユルフワ、中身は豪胆な獅子のようになったハウラナは色々な誤解を生んでいく。





ハウラナが8歳の時、公爵家の嫡男と顔合わせと称した見合いの場が設けられた。
儚げな美少女のハウラナに2歳上の嫡男は一目惚れをした。

だが、中身が獅子の王女はヒョロガリの男子に興味が持てなかった。
高位故に贅沢に育ち甘やかされた男児はワガママに振る舞う、一見か弱そうなハウラナにも横暴な態度だった。


「おい、お前!将来は俺の妻になるんだ、もう少し慎ましくできないのか!」
「はぁ?勘違いするな下郎!いま時点で私が身分上よ!弁えなさい!お前などと婚約するものか!」


激高したハウラナは、少年を魔の森に連れて行きこう言った。

「ここで一か月、生き抜けたら考えてやろう」
「えぇえ!?無理だよ巫山戯るな!」

「あら、女々しい。私は5歳でこの特訓をこなしたわ!お前は幼児以下ということね!失格!軟弱者はしばらく修行しなさい!じゃーね!」

「そ、そんなぁ!置いてくなんてヒドイぞ!お父様お母様!こんな猛獣女なんていやですぅ!ダズゲデェ死んじゃうよぉ!」


穴と言う穴から色んな汁を垂れ流した少年は、屈辱を受けた腹いせにハウラナの醜聞を流した。

『見目だけの性悪』『猛獣女』『頭が花畑のバカ王女』などあることない事を吹聴したのだ。
貴族派の筆頭でもある公爵家だった故にあっという間に噂は広まった。


公爵家の嫡男を魔の森に置き去りにした事は真実だったため、反論もあまりできない。
王から緘口令が敷かれたが時すでに遅しだった。


その珍事は帝国ダネスゲートにも届いていた。

「面白い姫がいるそうだ、会ってみたい!猛獣のような姫とはどんな娘だろう!」
当時はまだ皇太子だったクレイブ13歳、やんちゃ盛りの彼は直ぐに魔法国ゼベールに一人で向かった。
彼はすでに”精神干渉”を自在にできるようになっていた為、怖いもの無しだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

チート魔法の魔導書

フルーツパフェ
ファンタジー
 魔導士が魔法の研究成果を書き残した書物、魔導書――そこに書かれる専属魔法は驚異的な能力を発揮し、《所有者(ホルダー)》に莫大な地位と財産を保証した。  ダクライア公国のグラーデン騎士学校に通うラスタ=オキシマは騎士科の中で最高の魔力を持ちながら、《所有者》でないために卒業後の進路も定まらない日々を送る。  そんなラスタはある日、三年前に他界した祖父の家で『チート魔法の魔導書』と題された書物を発見する。自らを異世界の出身と語っていた風変わりな祖父が書き残した魔法とは何なのか? 半信半疑で書物を持ち帰るラスタだが、彼を待ち受けていたのは・・・・・・

前世では伝説の魔法使いと呼ばれていた子爵令嬢です。今度こそのんびり恋に生きようと思っていたら、魔王が復活して世界が混沌に包まれてしまいました

柚木ゆず
ファンタジー
 ――次の人生では恋をしたい!!――  前世でわたしは10歳から100歳になるまでずっと魔法の研究と開発に夢中になっていて、他のことは一切なにもしなかった。  100歳になってようやくソレに気付いて、ちょっと後悔をし始めて――。『他の人はどんな人生を過ごしてきたのかしら?』と思い妹に会いに行って話を聞いているうちに、わたしも『恋』をしたくなったの。  だから転生魔法を作ってクリスチアーヌという子爵令嬢に生まれ変わって第2の人生を始め、やがて好きな人ができて、なんとその人と婚約をできるようになったのでした。  ――妹は婚約と結婚をしてから更に人生が薔薇色になったって言っていた。薔薇色の日々って、どんなものなのかしら――。  婚約を交わしたわたしはワクワクしていた、のだけれど……。そんな時突然『魔王』が復活して、この世が混沌に包まれてしまったのでした……。 ((魔王なんかがいたら、落ち着いて過ごせないじゃないのよ! 邪魔をする者は、誰であろうと許さない。大好きな人と薔薇色の日々を過ごすために、これからアンタを討ちにいくわ……!!))

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

隣国は魔法世界

各務みづほ
ファンタジー
【魔法なんてあり得ないーー理系女子ライサ、魔法世界へ行く】 隣接する二つの国、科学技術の発達した国と、魔法使いの住む国。 この相反する二つの世界は、古来より敵対し、戦争を繰り返し、そして領土を分断した後に現在休戦していた。 科学世界メルレーン王国の少女ライサは、人々の間で禁断とされているこの境界の壁を越え、隣国の魔法世界オスフォード王国に足を踏み入れる。 それは再び始まる戦乱の幕開けであった。 ⚫︎恋愛要素ありの王国ファンタジーです。科学vs魔法。三部構成で、第一部は冒険編から始まります。 ⚫︎異世界ですが転生、転移ではありません。 ⚫︎挿絵のあるお話に◆をつけています。 ⚫︎外伝「隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー」もよろしくお願いいたします。

聖女なんて御免です

章槻雅希
ファンタジー
「聖女様」 「聖女ではありません! 回復術師ですわ!!」 辺境の地ではそんな会話が繰り返されている。治癒・回復術師のアルセリナは聖女と呼ばれるたびに否定し訂正する。そう、何度も何十度も何百度も何千度も。 聖女断罪ものを読んでて思いついた小ネタ。 軽度のざまぁというか、自業自得の没落があります。 『小説家になろう』様・『Pixiv』様に重複投稿。

処理中です...