18 / 32
皇帝の思い
しおりを挟む
皇帝自らが案内したハウラナの居室を訪れた兄カインは、ゼベール城の妹の部屋にそっくりなことに気が付く。
「なるほど……よほど用意された部屋に不満だったようだ。我が城の居室を完全再現しているよ」
空間魔法を利用した高度な構築術に関心するカイン。
それを聞いた皇帝が顔色を悪くした。
「申し訳ない……手紙にも綴ったが元正妃が嫌がらせ目的で家財を奪い転売したようだ」
「ほぉ……正妃が横領を働いた事を妹が失踪するまで気が付かなかったわけですね?どうしてこういう事になったのでしょう。やることが後手にばかりなっている、帝国は案外呑気な気質なのですねぇ、それとも小国の姫をぞんざいに扱っても問題ないという御考えか?そちらの宰相が是非にと申しこんで来た結びだったはずだが、どうかねケンフラー殿?」
皇帝の横で待機していた宰相ケンフラーは、名指しされてビクリと身体を強張らせた。
「は、はい。このような不手際が生じた事を恥じております」
素直に頭を下げるがそれで済むと思うなよと、カインは睨みつけた。
いましがた発生した莫大な慰謝料諸々を計算した宰相は眩暈がした。
ゼベール国王太子カインは、普段の顔は飄々として軽い男の印象だ。そこは帝国の宰相ケンフラーと少し似ている。
だがそこは王族、猛禽な爪を隠して相手を翻弄するカインの処世術に過ぎなかった。
表面上のヘラヘラした彼を侮蔑したり、見縊るような相手には容赦がない。
頑なに姫の側室入りを拒否した国王を口説くより、柔軟な態度だった王太子を御す方を選んだのは宰相だった。
そしてとんとん拍子で進んだ側室入りだったが、まんまとひっかかり格下の小国ゼベールに足元を掬われた所だ。
3年という縛りも待たず、離縁時の慰謝料に加えハウラナ王女が受けた損害賠償も大きく上乗せで請求されることになるだろう。そういう契約婚なのだから。
「陛下、たったいま国家予算の2割が吹っ飛んだと思って下さい」
「んな!?……離縁はともかく先に賠償金は払わなければな……。しかし痛いな。宰相お前のボーナスは10年間無しだ」
「……なるほど後10年は首が繋がったままなんですね、わぁーい(棒)」
「そういうとこだぞ、宰相」
「……」
それはともかく。
壁に残った魔法の残滓を探るカインは、気難しい顔で妹が繋げそうな空間を予測している。
「候補はおそらく、ゼベールのどこか。最悪は俺も知らない亜空間に造った部屋だな」
カインはブツブツと聞き取れない小さな声で呪文を素早く唱えた。
詠唱を聞き取れなかった宰相は、「チッ」と舌打ちした。
「ふむ、見当がついたのでそちらに行こうと思います。妹に会い話が済んだらそのままゼベールへ戻りますのでお構いなく~」
いつものヘラリとしたカインに戻るとズブズブと壁の中に体を沈めだした。
それを目の当たりにした皇帝と宰相は目を剥いて驚愕する。
「ま、待ってくれ!余も一緒に行きたい!彼女に聞いて欲しいことがあるんだ!」
「でしたら手紙を書いてください、お得意でしょ?」
ヘラヘラと笑いながら嫌味を言ってくる王太子に、悔し気に唇を噛む皇帝。
「わ、わかった。口頭で構わない、伝えて欲しい。それとこれを彼女に」
「なんなりと」
皇帝は指に嵌めていた古い指輪をカインに託した。
「なるほど……よほど用意された部屋に不満だったようだ。我が城の居室を完全再現しているよ」
空間魔法を利用した高度な構築術に関心するカイン。
それを聞いた皇帝が顔色を悪くした。
「申し訳ない……手紙にも綴ったが元正妃が嫌がらせ目的で家財を奪い転売したようだ」
「ほぉ……正妃が横領を働いた事を妹が失踪するまで気が付かなかったわけですね?どうしてこういう事になったのでしょう。やることが後手にばかりなっている、帝国は案外呑気な気質なのですねぇ、それとも小国の姫をぞんざいに扱っても問題ないという御考えか?そちらの宰相が是非にと申しこんで来た結びだったはずだが、どうかねケンフラー殿?」
皇帝の横で待機していた宰相ケンフラーは、名指しされてビクリと身体を強張らせた。
「は、はい。このような不手際が生じた事を恥じております」
素直に頭を下げるがそれで済むと思うなよと、カインは睨みつけた。
いましがた発生した莫大な慰謝料諸々を計算した宰相は眩暈がした。
ゼベール国王太子カインは、普段の顔は飄々として軽い男の印象だ。そこは帝国の宰相ケンフラーと少し似ている。
だがそこは王族、猛禽な爪を隠して相手を翻弄するカインの処世術に過ぎなかった。
表面上のヘラヘラした彼を侮蔑したり、見縊るような相手には容赦がない。
頑なに姫の側室入りを拒否した国王を口説くより、柔軟な態度だった王太子を御す方を選んだのは宰相だった。
そしてとんとん拍子で進んだ側室入りだったが、まんまとひっかかり格下の小国ゼベールに足元を掬われた所だ。
3年という縛りも待たず、離縁時の慰謝料に加えハウラナ王女が受けた損害賠償も大きく上乗せで請求されることになるだろう。そういう契約婚なのだから。
「陛下、たったいま国家予算の2割が吹っ飛んだと思って下さい」
「んな!?……離縁はともかく先に賠償金は払わなければな……。しかし痛いな。宰相お前のボーナスは10年間無しだ」
「……なるほど後10年は首が繋がったままなんですね、わぁーい(棒)」
「そういうとこだぞ、宰相」
「……」
それはともかく。
壁に残った魔法の残滓を探るカインは、気難しい顔で妹が繋げそうな空間を予測している。
「候補はおそらく、ゼベールのどこか。最悪は俺も知らない亜空間に造った部屋だな」
カインはブツブツと聞き取れない小さな声で呪文を素早く唱えた。
詠唱を聞き取れなかった宰相は、「チッ」と舌打ちした。
「ふむ、見当がついたのでそちらに行こうと思います。妹に会い話が済んだらそのままゼベールへ戻りますのでお構いなく~」
いつものヘラリとしたカインに戻るとズブズブと壁の中に体を沈めだした。
それを目の当たりにした皇帝と宰相は目を剥いて驚愕する。
「ま、待ってくれ!余も一緒に行きたい!彼女に聞いて欲しいことがあるんだ!」
「でしたら手紙を書いてください、お得意でしょ?」
ヘラヘラと笑いながら嫌味を言ってくる王太子に、悔し気に唇を噛む皇帝。
「わ、わかった。口頭で構わない、伝えて欲しい。それとこれを彼女に」
「なんなりと」
皇帝は指に嵌めていた古い指輪をカインに託した。
24
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チート魔法の魔導書
フルーツパフェ
ファンタジー
魔導士が魔法の研究成果を書き残した書物、魔導書――そこに書かれる専属魔法は驚異的な能力を発揮し、《所有者(ホルダー)》に莫大な地位と財産を保証した。
ダクライア公国のグラーデン騎士学校に通うラスタ=オキシマは騎士科の中で最高の魔力を持ちながら、《所有者》でないために卒業後の進路も定まらない日々を送る。
そんなラスタはある日、三年前に他界した祖父の家で『チート魔法の魔導書』と題された書物を発見する。自らを異世界の出身と語っていた風変わりな祖父が書き残した魔法とは何なのか? 半信半疑で書物を持ち帰るラスタだが、彼を待ち受けていたのは・・・・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
隣国は魔法世界
各務みづほ
ファンタジー
【魔法なんてあり得ないーー理系女子ライサ、魔法世界へ行く】
隣接する二つの国、科学技術の発達した国と、魔法使いの住む国。
この相反する二つの世界は、古来より敵対し、戦争を繰り返し、そして領土を分断した後に現在休戦していた。
科学世界メルレーン王国の少女ライサは、人々の間で禁断とされているこの境界の壁を越え、隣国の魔法世界オスフォード王国に足を踏み入れる。
それは再び始まる戦乱の幕開けであった。
⚫︎恋愛要素ありの王国ファンタジーです。科学vs魔法。三部構成で、第一部は冒険編から始まります。
⚫︎異世界ですが転生、転移ではありません。
⚫︎挿絵のあるお話に◆をつけています。
⚫︎外伝「隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー」もよろしくお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした
ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。
なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。
ザル設定のご都合主義です。
最初はほぼ状況説明的文章です・・・
婚約破棄からの国外追放、それで戻って来て欲しいって馬鹿なんですか? それとも馬鹿なんですか?
☆ミ
恋愛
王子との婚約を破棄されて公爵の娘としてショックでした、そのうえ国外追放までされて正直終わったなって
でもその後に王子が戻って来て欲しいって使者を送って来たんです
戻ると思っているとか馬鹿なの? それとも馬鹿なの? ワタクシ絶対にもう王都には戻りません!
あ、でもお父さまはなんて仰るかしら
こんな不甲斐ない娘との縁を切ってしまうかもしれませんね
でも、その時は素直に従いましょう
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる