頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)

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皇帝の思い

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皇帝自らが案内したハウラナの居室を訪れた兄カインは、ゼベール城の妹の部屋にそっくりなことに気が付く。

「なるほど……よほどに不満だったようだ。我が城の居室を完全再現しているよ」
空間魔法を利用した高度な構築術に関心するカイン。

それを聞いた皇帝が顔色を悪くした。
「申し訳ない……手紙にも綴ったが元正妃が嫌がらせ目的で家財を奪い転売したようだ」

「ほぉ……正妃が横領を働いた事を妹が失踪するまで気が付かなかったわけですね?どうしてこういう事になったのでしょう。やることが後手にばかりなっている、帝国は案外呑気な気質なのですねぇ、それとも小国の姫をぞんざいに扱っても問題ないという御考えか?そちらの宰相が是非にと申しこんで来た結びだったはずだが、どうかねケンフラー殿?」

皇帝の横で待機していた宰相ケンフラーは、名指しされてビクリと身体を強張らせた。

「は、はい。このような不手際が生じた事を恥じております」
素直に頭を下げるがそれで済むと思うなよと、カインは睨みつけた。

いましがた発生した莫大な慰謝料諸々を計算した宰相は眩暈がした。

ゼベール国王太子カインは、普段の顔は飄々として軽い男の印象だ。そこは帝国の宰相ケンフラーと少し似ている。
だがそこは王族、猛禽な爪を隠して相手を翻弄するカインの処世術に過ぎなかった。


表面上のヘラヘラした彼を侮蔑したり、見縊るような相手には容赦がない。
頑なに姫の側室入りを拒否した国王を口説くより、柔軟な態度だった王太子を御す方を選んだのは宰相だった。
そしてとんとん拍子で進んだ側室入りだったが、まんまとひっかかり格下の小国ゼベールに足元を掬われた所だ。


3年という縛りも待たず、離縁時の慰謝料に加えハウラナ王女が受けた損害賠償も大きく上乗せで請求されることになるだろう。そういう契約婚なのだから。

「陛下、たったいま国家予算の2割が吹っ飛んだと思って下さい」
「んな!?……離縁はともかく先に賠償金は払わなければな……。しかし痛いな。宰相お前のボーナスは10年間無しだ」

「……なるほど後10年は首が繋がったままなんですね、わぁーい(棒)」
「そういうとこだぞ、宰相」
「……」

それはともかく。

壁に残った魔法の残滓を探るカインは、気難しい顔で妹が繋げそうな空間を予測している。
「候補はおそらく、ゼベールのどこか。最悪は俺も知らない亜空間に造った部屋だな」


カインはブツブツと聞き取れない小さな声で呪文を素早く唱えた。
詠唱を聞き取れなかった宰相は、「チッ」と舌打ちした。


「ふむ、見当がついたのでそちらに行こうと思います。妹に会い話が済んだらそのままゼベールへ戻りますのでお構いなく~」

いつものヘラリとしたカインに戻るとズブズブと壁の中に体を沈めだした。
それを目の当たりにした皇帝と宰相は目を剥いて驚愕する。

「ま、待ってくれ!余も一緒に行きたい!彼女に聞いて欲しいことがあるんだ!」
「でしたら手紙を書いてください、お得意でしょ?」


ヘラヘラと笑いながら嫌味を言ってくる王太子に、悔し気に唇を噛む皇帝。

「わ、わかった。口頭で構わない、伝えて欲しい。それとこれを彼女に」
「なんなりと」


皇帝は指に嵌めていた古い指輪をカインに託した。


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