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二人の茶会と無粋な物音
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ハチの巣事件から二日後、蜂蜜をふんだんに使った菓子が花畑に敷いたマットの上に並んだ。
「さぁ食べましょう!一番の功労者のミーニャが先に食べるのよ?」
「ワタシガ?ワカリマセン」
針だらけになったミーニャのメンテナンスのついでに、ハウラナはミーニャの身体に咀嚼機能をつけてあげた。
飲み込んだ食物エネルギーを魔力へ変換することで解決したのだ。
カスも残らないので排泄不要な便利な身体である。
ミーニャは食べる行為が理解できないのか、ハニーレモンパイを摘まんだまま動けずにいる。
「もう、仕方ないわね。ほら、アーンと口をあけて?」
「ア、アーン?」
口に入れて歯というもので噛むのだと教えられた。
「ン、グググ……サクサクシマス。タベルトハ フシギナコウイ、……コレガアマイ?」
「どう?美味しいでしょ?」
ゆっくり味わって飲み込んだミーニャはパァッと顔を輝かせた。
「コレガオイシイ コレガ ニオイトアジ!?」
彼女は生物ではないので、口腔内が拾った情報を主であるハウラナに伝達して味覚情報を共有しているだけである。
「ふふ、私は食べてないのに美味しいのが伝わってくるわ」
「オイシイ コレガオイシイ アマイ!」
三個連続で食べたミーニャは「マリョクガ フエタキガシマス」と言って腹が満たされる感覚を知った。
一緒に食事ができる喜びをハウラナは嬉しくて泣いた。
「ラナサマ!?ドコカイタイデスカ?」
「違うの、これは悲しい涙ではないのよ。人間は嬉しくても涙が出るの、安心して」
「ラナサマ……」
ミーニャはハウラナを優しく抱き寄せて、彼女の頭を撫でた。
「優しいミーニャ、大好きよ」
「ワタシモ ダイスキデス ラナサマ」
***
二人が蜂蜜プリンを味わってマッタリとしていた時だった。
歪みの向こうから壁をドンドンと無遠慮に叩く音がした。
「あらら……みつかっちゃったのね」
「ラナサマ!」
ミーニャは主を護る盾のように立ち塞がった。
「落ち着いてミーニャ、彼らはこちらへこられないわよ?」
「ソウデシタカ」
花畑へ招待されるのはハウラナが許可した者だけだ、無理に入ろうとすれば亜空間のどこかへ飛ばされる。
二度と帰れない場所へ……。
「陛下聞こえますか?自在に亜空間を渡れるのは私の空間魔法だけよ、仮に同じ魔法が使えても共有を許されなければ未知のどこかへ飛ばされます。無理して入れば死にますよー!」
ハウラナは壁向こうに向かってそう言った。
「なんだと!?ならば許可を」
「出すわけないでしょう?貴方が人質の側室に手を出そうとするから逃げたんです。白い結婚で3年後には母国へ戻るんですからね!」
ハウラナはエッヘンとふんぞり返り反論した。
彼女が側室となった理由は、小国なりの矜持を示すためであって寵愛を受けるためではない。突然の同衾の申し出は侮られたも同然のことだと抗議した。
「そ、それは……其方を後宮から護る意味があってだな」
「私は護られるほど弱くありません、たいへんな侮辱ですわ!」
高度な魔法技術を持ち暗器使いである王女ハウラナは、そのへんの兵士よりはるかに強いのだ。
「ところで先ほどから不快な攻撃を私に行ってますね。言いましたよね?陛下の精神支配は効かないと、なぜだと思います?」
「え……?」
面倒そうに肩を竦めてハウラナは語る。
「わたくしは2歳から空間魔法を鍛錬し極めてきました。空間と認識さえすれば私の脳を護る頭蓋骨内も空間の一つになりますわ。つまり脳内と言う空間に結界を張り防御すると意識すればいいだけのこと」
「……なるほど、理屈はわかった。わかったからここを開いて話を聞いてくれ!」
「聞いてくれ?交渉にきたくせに、精神攻撃をした詫びが先では?乱暴にこじ開けようとした挙句に席を設けることもせず、譲歩する提案も無くなにを仰るのかしら。横暴って言葉を知ってます?私は人質にして国代表で外交にきている身ですわ」
「あ、……」
上からの物言いに腹を立てたハウラナは、何言か呟き壁を完全に閉じてしまった。
「さぁ食べましょう!一番の功労者のミーニャが先に食べるのよ?」
「ワタシガ?ワカリマセン」
針だらけになったミーニャのメンテナンスのついでに、ハウラナはミーニャの身体に咀嚼機能をつけてあげた。
飲み込んだ食物エネルギーを魔力へ変換することで解決したのだ。
カスも残らないので排泄不要な便利な身体である。
ミーニャは食べる行為が理解できないのか、ハニーレモンパイを摘まんだまま動けずにいる。
「もう、仕方ないわね。ほら、アーンと口をあけて?」
「ア、アーン?」
口に入れて歯というもので噛むのだと教えられた。
「ン、グググ……サクサクシマス。タベルトハ フシギナコウイ、……コレガアマイ?」
「どう?美味しいでしょ?」
ゆっくり味わって飲み込んだミーニャはパァッと顔を輝かせた。
「コレガオイシイ コレガ ニオイトアジ!?」
彼女は生物ではないので、口腔内が拾った情報を主であるハウラナに伝達して味覚情報を共有しているだけである。
「ふふ、私は食べてないのに美味しいのが伝わってくるわ」
「オイシイ コレガオイシイ アマイ!」
三個連続で食べたミーニャは「マリョクガ フエタキガシマス」と言って腹が満たされる感覚を知った。
一緒に食事ができる喜びをハウラナは嬉しくて泣いた。
「ラナサマ!?ドコカイタイデスカ?」
「違うの、これは悲しい涙ではないのよ。人間は嬉しくても涙が出るの、安心して」
「ラナサマ……」
ミーニャはハウラナを優しく抱き寄せて、彼女の頭を撫でた。
「優しいミーニャ、大好きよ」
「ワタシモ ダイスキデス ラナサマ」
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二人が蜂蜜プリンを味わってマッタリとしていた時だった。
歪みの向こうから壁をドンドンと無遠慮に叩く音がした。
「あらら……みつかっちゃったのね」
「ラナサマ!」
ミーニャは主を護る盾のように立ち塞がった。
「落ち着いてミーニャ、彼らはこちらへこられないわよ?」
「ソウデシタカ」
花畑へ招待されるのはハウラナが許可した者だけだ、無理に入ろうとすれば亜空間のどこかへ飛ばされる。
二度と帰れない場所へ……。
「陛下聞こえますか?自在に亜空間を渡れるのは私の空間魔法だけよ、仮に同じ魔法が使えても共有を許されなければ未知のどこかへ飛ばされます。無理して入れば死にますよー!」
ハウラナは壁向こうに向かってそう言った。
「なんだと!?ならば許可を」
「出すわけないでしょう?貴方が人質の側室に手を出そうとするから逃げたんです。白い結婚で3年後には母国へ戻るんですからね!」
ハウラナはエッヘンとふんぞり返り反論した。
彼女が側室となった理由は、小国なりの矜持を示すためであって寵愛を受けるためではない。突然の同衾の申し出は侮られたも同然のことだと抗議した。
「そ、それは……其方を後宮から護る意味があってだな」
「私は護られるほど弱くありません、たいへんな侮辱ですわ!」
高度な魔法技術を持ち暗器使いである王女ハウラナは、そのへんの兵士よりはるかに強いのだ。
「ところで先ほどから不快な攻撃を私に行ってますね。言いましたよね?陛下の精神支配は効かないと、なぜだと思います?」
「え……?」
面倒そうに肩を竦めてハウラナは語る。
「わたくしは2歳から空間魔法を鍛錬し極めてきました。空間と認識さえすれば私の脳を護る頭蓋骨内も空間の一つになりますわ。つまり脳内と言う空間に結界を張り防御すると意識すればいいだけのこと」
「……なるほど、理屈はわかった。わかったからここを開いて話を聞いてくれ!」
「聞いてくれ?交渉にきたくせに、精神攻撃をした詫びが先では?乱暴にこじ開けようとした挙句に席を設けることもせず、譲歩する提案も無くなにを仰るのかしら。横暴って言葉を知ってます?私は人質にして国代表で外交にきている身ですわ」
「あ、……」
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