頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)

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隠し部屋の向こうには

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何事もなく過ぎた半月後のことだった。


戸を乱暴に叩く音にハウラナの鍛錬の手が停止する。
「ミテマイリマス」
「うん、お願いね」


動作が滑らかになったミーニャが足早に戸口へ向かう。
すると怒鳴るような声が聞こえた、戸は半開きだというのにベランダまで届く大きさだ。
おそらく陛下の従者と思われた。


ハウラナが不機嫌そうに眉をひそめる、何ことか問答し合い静かになるとミーニャが戻って来た。

「コウテイヘイカガ、コンヤオコシニナルソウデス」
「……いまさら?初夜さえなかったのに、巫山戯た陛下だこと」


閨など共にする気はさらさらないハウラナは隠し部屋を造ることにした。
「いない相手に手はだせないでしょう?ねぇ陛下」


人質を兼ねている側室は、寵愛された者を除いて白い結婚のまま過ごし3年後には母国に帰されるのがしきたりだ。
「はぁ甘く見られたものだわ、やっぱり男ってクズね弄んで笑うつもりなのね。間違って身ごもったらどうする気なのかしら……政に邪魔になるから母子ともに殺されかねないわね」


少々不機嫌な主人の様子にミーニャはオロオロしている。

「ああ、ごめんね。貴女のせいじゃないのよ、どこぞのクソ野郎のせいだから」

ハウラナがにっこり笑うと安心したのかミーニャも微笑んだ。
「貴方すっかり人間のようね、妹ができたみたいで嬉しいわ」


もっと以前に傀儡は作っていたが、むやみに作るものではないと父王に窘められて止む無く廃棄した悲しい過去がある。
「貴女はずっと傍にいてねミーニャ……」
「ハイ、ゴシュジンサマ」


「ラナと呼んでいいのよ?ラナと呼んでミーニャ」
「ハイ、ラナサマ」


嬉しくて抱きしめたメイドの身体はヒンヤリしていて、やはり人形なのだと思い知るが血が通ってなくても良いとハウラナは思った。




「では作業しましょうか、時間はたっぷりあるけど早いことに越したことはないわ」
それなりに広い居室を見回して、隠し部屋の出入り口をどこにしようかと思案する。


「うん、やはりクローゼットの奥が良いわね。いやだめ……一番隠れていると疑われるわ」
人が数人入れそうなそこかいかにもな気がした。


ならば、一番らしくない場所をとハウラナは思いつく。

「うふふ、亜空間の先に部屋を作るなんて久しぶりでワクワクしちゃう!」
彼女はぺったりとした壁を撫でながら呟く。


「頭が花畑の女は花畑に逃げましょう、とても似合うと思わない?」




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