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能ある花畑は爪を隠す
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誕生日から約一年後。17歳になったハウラナは帝国に嫁いだ。
予想外の豪華な結婚式に驚いたのはハウラナ本人だった。
たかが小国の姫を迎えるには盛大すぎたからだ、正妃達も気に入らないと皇帝に抗議するほどに。
式場は皇帝クライブの瞳と同じ紫の花で埋め尽くされていた。彼女を愛しむという意思表示だった。
二人が歩く度に花弁が舞う、唯我独尊の皇帝が花嫁の歩調に合わせてゆっくり歩く。その様を見た帝国貴族達はハウラナが寵愛を受けていると認識した。
皇帝から贈られた指輪は誕生石の大粒ガーネットだった、それを護るかのように縁取るのは皇帝クレイブの誕生石アメジストだ。色合いが派手だったがダイヤが合間に入ることで色の喧嘩を和らげる。
優遇されていることに激高した正妃シアーネは若き皇帝クレイブに吠えた。
「側室ごとき、書類にサインするだけの婚姻式だけですませるべきでしょう!?どういうつもりですか!」
尖ったヒールで床をガンガンと踏み鳴らし、怒りをあらわにするシアーネは苛烈な性格を剥き出しにしている。
「なにをそんなに怒る?これからお前達に後宮で虐げられる姫が哀れだろう、だからせめて結婚式はあげてやりたかったんだ」
「な!私達が虐待するですって!?」
「違うのか?その悪鬼のような相貌が物語っているぞ、小国出身で末席の側室だ、虐め甲斐があって楽しみにしていただろう?」
「……!?」
見透かされていたシアーネ達はブルブルと震えてなにも言えなくなった。
後宮を牛耳るシアーネを筆頭に、第一側室アリル以下2名がバツが悪そうに目を泳がせている。
大帝国ダネスゲートの皇帝におさまったクレイブの実力は伊達ではない。僅か18歳で帝国の頂点に立ち5年目を迎える。
彼の鋭い眼差しが容赦なく彼女達の心を抉ってくる。
彼の能力は精神干渉、歴代の皇帝が引き継ぐ恐ろしい魔術だ。
彼が「自害しろ」と念じれば抗ずに死を迎えるしかない。
たった一人で一国を亡ぼせるほどに今代の皇帝の術は強大である、事実、シアーネの母国は彼一人によって掌握されたのだから。
なんとか言い訳しようとシアーネが口を開こうとしたが阻止された。
「余は後宮に口を出すつもりはない、だが死人がでるようなら容赦はしないぞ。毒姫シアーネ、お前の国は毒と薬で繁栄してきたな。高い薬学を評価して正妃にしたが……前第八側室が突然死したのは2年前だったな……どうした、返事しろ」
「わ、わたくしは後宮を護っております、これまで以上に強固に支え合い……」
「もう良い、薄っぺらな言い訳は聞きたくない」
皇帝はそう言って彼女達を執務室から追い出した。
彼女らの気配がなくなると彼は執務室の一角に隠れている人物を呼んだ。
「でておいで、ハウラナ」
「はい、陛下」
皇帝はハウラナの頬を撫でながら言う。
「後宮はキミが想像している以上に陰湿な場所だ、気を付けろ」
「はい、心得てます。あ、自分以外は信じてないので侍女もメイドもつけないでください。護衛もです。身を護るのはそれが最善なので!」
「なんだと?」
皇帝は片眉を吊り上げてハウラナを窘めようとした。
「ですから、この国は完全に私にとって不利で敵だらけなんです。でもだいじょうぶ暗器の嗜みもあります、この執務室には斥候がいませんね。陛下の首くらいすぐ刎ねますよ?ご自分の力を過信しすぎです」
「なんと、見縊り過ぎていたようだ」
いつの間にか皇帝の首に小型ナイフが突きつけられて、血が出るギリギリに刃が当てられていた。
「ちなみに、陛下の術は私に利きません!」
そう言ってハウラナは満面の笑みを見せた。
予想外の豪華な結婚式に驚いたのはハウラナ本人だった。
たかが小国の姫を迎えるには盛大すぎたからだ、正妃達も気に入らないと皇帝に抗議するほどに。
式場は皇帝クライブの瞳と同じ紫の花で埋め尽くされていた。彼女を愛しむという意思表示だった。
二人が歩く度に花弁が舞う、唯我独尊の皇帝が花嫁の歩調に合わせてゆっくり歩く。その様を見た帝国貴族達はハウラナが寵愛を受けていると認識した。
皇帝から贈られた指輪は誕生石の大粒ガーネットだった、それを護るかのように縁取るのは皇帝クレイブの誕生石アメジストだ。色合いが派手だったがダイヤが合間に入ることで色の喧嘩を和らげる。
優遇されていることに激高した正妃シアーネは若き皇帝クレイブに吠えた。
「側室ごとき、書類にサインするだけの婚姻式だけですませるべきでしょう!?どういうつもりですか!」
尖ったヒールで床をガンガンと踏み鳴らし、怒りをあらわにするシアーネは苛烈な性格を剥き出しにしている。
「なにをそんなに怒る?これからお前達に後宮で虐げられる姫が哀れだろう、だからせめて結婚式はあげてやりたかったんだ」
「な!私達が虐待するですって!?」
「違うのか?その悪鬼のような相貌が物語っているぞ、小国出身で末席の側室だ、虐め甲斐があって楽しみにしていただろう?」
「……!?」
見透かされていたシアーネ達はブルブルと震えてなにも言えなくなった。
後宮を牛耳るシアーネを筆頭に、第一側室アリル以下2名がバツが悪そうに目を泳がせている。
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彼の鋭い眼差しが容赦なく彼女達の心を抉ってくる。
彼の能力は精神干渉、歴代の皇帝が引き継ぐ恐ろしい魔術だ。
彼が「自害しろ」と念じれば抗ずに死を迎えるしかない。
たった一人で一国を亡ぼせるほどに今代の皇帝の術は強大である、事実、シアーネの母国は彼一人によって掌握されたのだから。
なんとか言い訳しようとシアーネが口を開こうとしたが阻止された。
「余は後宮に口を出すつもりはない、だが死人がでるようなら容赦はしないぞ。毒姫シアーネ、お前の国は毒と薬で繁栄してきたな。高い薬学を評価して正妃にしたが……前第八側室が突然死したのは2年前だったな……どうした、返事しろ」
「わ、わたくしは後宮を護っております、これまで以上に強固に支え合い……」
「もう良い、薄っぺらな言い訳は聞きたくない」
皇帝はそう言って彼女達を執務室から追い出した。
彼女らの気配がなくなると彼は執務室の一角に隠れている人物を呼んだ。
「でておいで、ハウラナ」
「はい、陛下」
皇帝はハウラナの頬を撫でながら言う。
「後宮はキミが想像している以上に陰湿な場所だ、気を付けろ」
「はい、心得てます。あ、自分以外は信じてないので侍女もメイドもつけないでください。護衛もです。身を護るのはそれが最善なので!」
「なんだと?」
皇帝は片眉を吊り上げてハウラナを窘めようとした。
「ですから、この国は完全に私にとって不利で敵だらけなんです。でもだいじょうぶ暗器の嗜みもあります、この執務室には斥候がいませんね。陛下の首くらいすぐ刎ねますよ?ご自分の力を過信しすぎです」
「なんと、見縊り過ぎていたようだ」
いつの間にか皇帝の首に小型ナイフが突きつけられて、血が出るギリギリに刃が当てられていた。
「ちなみに、陛下の術は私に利きません!」
そう言ってハウラナは満面の笑みを見せた。
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