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最終話

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その後、執事と護衛たちに追いやられたテレンツォと愛人たちはスゴスゴとベニート邸へ戻って行った。居場所はないが仕方なく兄は受け入れ使用人部屋へ押し込んだ。

「何をやっているんだ全く!揃いも揃って面倒な!我が家の醜聞になるから置いてやるが働けよ」
長兄はそれだけ言うとプリプリ怒って使用人部屋を出て行った、借金塗れの彼らは今後無給で働くことになる。下女下男以下の扱いをされることは間違いない。

「あぁ、どうしてこうなったの……とっくに離婚されていたなんて!」
「すべてはテレンツォがやらかした事だ、裁判所は彼を夫としてみなさなかった……」
両親はさめざめと泣き崩れた、新婚初夜を投げだして愛人と睦まじくしていたのがバレたからだと言った。

「それが何だと言うんだ?俺は貴族なんだぞ、アストン家当主として当然のことを」
「それが間違いだったのよ!アンタは入り婿!つまり身分をいえば平民同然なのよ、ベニート家の籍を抜いて出ていたのですからね!」
「なぁ!?俺が平民だって?そんなバカな……」

アストン子爵は彼は籍を抜くのを条件に婿として受け入れた、そのことを丸っと忘れて調子に乗っていた事を母は嘆く。
「てっきりアストン家に籍を入れて当主として迎え入れたとばかり……とんだ勘違いだったのだ」
父親は絞り出すようにそう言った、つまりマリエラのオマケ同然としてテレンツォは存在したのだ。

「なんで……俺は当主じゃなかったのか?……あぁ、こんなことなら大人しくしていれば良かった」
「ねぇねぇ、お腹が張るわ破水するかも……」
呑気にそういうローズに彼らは深くため息を吐く。


***


「なんですって?もう一度言って?」
アストン子爵家で執務をしていたマリエラはペン軸をボキリと折って父親に問ただす。

「だから、お前の婚姻先が決まったと言った。今度は嫁に行きなさい」
「な……そんな急に」
余の事に言葉を失うマリエラである、口をパクパクしていてまるで金魚のようだ。彼女は白い結婚どころか結婚していた事実さえ無効になった身である、いつ嫁に行っても良いのだ。

「お相手はオスカー・ティビング伯爵だ、良く知っているだろう?」
「ええ!?オスカー様!誰にも心を開かず生涯独身を貫くと思われた?いったいどうして」
「お前が色々やらかしたせいと言っていいかな、折れずに当代を護りテレンツォを追い出した姿勢に感服したと聞く。まぁ良かったじゃないか、初恋の相手だろう?」

「んなぁ!?なんで知っているんですか!」



「初めましてマリエラ嬢、どうか私の伴侶になってくれませんか?」
「ひぇえ……ど、どうしてですか」
三十二歳になる彼は精悍な顔立ちである、とても三十代に見えない。若き頃に財産目当ての女性ばかり相手して辟易した彼は『独身でいたい』と宣言したのだ。

「私の心を動かしたのは貴女だけです、どうかこの手を取っていただけませんか?」
「……私で宜しいのですか?」
「ええ、貴女が良い!芯の強いところに惹かれたのです」
そこまで言われた彼女は受け入れるしかなくなった、小さな声で「よろしくお願いします」と言った。

思わぬ棚ボタになった彼女は今度こそ幸せになるだろう。










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