上 下
4 / 6

しおりを挟む



しばらく安宿に逗留してまで義父母は粘った、その甲斐あってバカ息子ことテレンツォに出会えた。彼らは子爵家の前で毎日、彼の事を待っていたのである。

「おお!テレンツォ!待ち兼ねたぞ、いままで何処にいた?」
「あれ……父上、母上どうしてここに?馬車で十日はかかったでしょうに」
「そうなのよぉ!それなのにアストン家の連中ときたら!特にマリエラの態度が許せないわ!」

プリプリと現状に文句を垂れる母親に閉口しつつも「俺がどうにかする」と安請け合いするテレンツォである。それを聞いた母親は期待に胸を膨らませる。
やはり一番良部屋を希望していてテレンツォに懇願するのだ。

だが、アストン家にはマリエラの父がいて目を光らせている。これをどうにかしないと話は進まない。
「まあ、マリエラの父がいなくなればどうとでもなるさ」彼は軽く考えていた。

三日後、アストン卿夫妻がいったん蟄居先に戻ることになった。役に立たないテレンツォのせいで「引退している場合ではない」と蟄居先を整理するためだ。だが、これが彼らを増長させることになる。



「はーはははっ!父上、母上!厄介者が消えました!さっそく屋敷に入りましょう」
「やったわねテレンツォ!もう安宿などごめんだわ」
テレンツォもやはり当主は自分であると勘違いをしていてやりたい放題なのだ。一番良い部屋を用意しろとメイドたちに命令して占拠してしまった。

事の成り行きを見ていた侍女長は苛立ったが我慢してマリエラの指示を待つ。
「そう、やはりそういう行動に出たのね。呆れたことだわ」
「如何いたしましょう、彼らは永住目的のようです。大荷物でやってきたので間違いないかと」
「そうね……今は好きにやらせておきましょう。料理長には必要最低限の食事を作らせて」
「はい、そのように」

彼等にはバレない程度に貧相な食事を提供した。パンの粉などを低質なもので作らせている、牛肉は出さず鳥料理で持て成しさせた。舌がバカなのか「美味いステーキだ」といって平らげた。

***

翌日、偉そうにマリエラを呼び出したベニート男爵夫妻はニタニタと下品に嗤っていた。彼女は嫌な予感を覚える。
「ねえ、マリエラ。そろそろ跡継ぎが欲しいと思っているのだけど貴女は役立たずね!その腹は石なのかしら?」
「そうだぞ、結婚して半年が過ぎた。とっくに妊娠していい頃だ」

『ああ、そういうことね』
彼女は同衾したこともないのに孕むはずもないだろうと心の影で舌を出した。テレンツォもやはりニタニタと嗤っていて小馬鹿にしてきた。

「石女は要らないわ、でも私たちは優しいからここにおいて
「はあ?」
彼女はあまりの言いように呆れているといよいよ調子づいたバカ親子は「紹介したい人がいる」と言った。

「さあ入って来るが良い、我が愛しのローズよ!」
「はぁい!いま行きますぅ」

間延びした物言いをして現れたのは全身ピンクの下品な女だった。若作りしているがどう見ても三十代の女だ。
その腹は若干膨らんでいて愛おしそうに撫でていた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第二王子は私を愛していないようです。

松茸
恋愛
王子の正妃に選ばれた私。 しかし側妃が王宮にやってきて、事態は急変する。

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。 指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。 どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。 「こんなところで密会していたとはな!」 ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。 しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。

Nao*
恋愛
素適な婚約者と近く結婚する私を病魔が襲った。 彼の為にも早く元気になろうと療養する私だったが、一通の手紙を残し彼と私の幼馴染が揃って姿を消してしまう。 どうやら私、彼と幼馴染に裏切られて居たようです──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。最終回の一部、改正してあります。)

婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。

Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。 すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。 その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。 事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。 しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。

田太 優
恋愛
王子の誕生日パーティーは私を婚約者として正式に発表する場のはずだった。 しかし、事もあろうか王子は妹の嘘を信じて冤罪で私を断罪したのだ。 追い出された私は王家との関係を優先した親からも追い出される。 でも…面倒なことから解放され、私はやっと自分らしく生きられるようになった。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

処理中です...