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しおりを挟むしばらく安宿に逗留してまで義父母は粘った、その甲斐あってバカ息子ことテレンツォに出会えた。彼らは子爵家の前で毎日、彼の事を待っていたのである。
「おお!テレンツォ!待ち兼ねたぞ、いままで何処にいた?」
「あれ……父上、母上どうしてここに?馬車で十日はかかったでしょうに」
「そうなのよぉ!それなのにアストン家の連中ときたら!特にマリエラの態度が許せないわ!」
プリプリと現状に文句を垂れる母親に閉口しつつも「俺がどうにかする」と安請け合いするテレンツォである。それを聞いた母親は期待に胸を膨らませる。
やはり一番良部屋を希望していてテレンツォに懇願するのだ。
だが、アストン家にはマリエラの父がいて目を光らせている。これをどうにかしないと話は進まない。
「まあ、マリエラの父がいなくなればどうとでもなるさ」彼は軽く考えていた。
三日後、アストン卿夫妻がいったん蟄居先に戻ることになった。役に立たないテレンツォのせいで「引退している場合ではない」と蟄居先を整理するためだ。だが、これが彼らを増長させることになる。
「はーはははっ!父上、母上!厄介者が消えました!さっそく屋敷に入りましょう」
「やったわねテレンツォ!もう安宿などごめんだわ」
テレンツォもやはり当主は自分であると勘違いをしていてやりたい放題なのだ。一番良い部屋を用意しろとメイドたちに命令して占拠してしまった。
事の成り行きを見ていた侍女長は苛立ったが我慢してマリエラの指示を待つ。
「そう、やはりそういう行動に出たのね。呆れたことだわ」
「如何いたしましょう、彼らは永住目的のようです。大荷物でやってきたので間違いないかと」
「そうね……今は好きにやらせておきましょう。料理長には必要最低限の食事を作らせて」
「はい、そのように」
彼等にはバレない程度に貧相な食事を提供した。パンの粉などを低質なもので作らせている、牛肉は出さず鳥料理で持て成しさせた。舌がバカなのか「美味いステーキだ」といって平らげた。
***
翌日、偉そうにマリエラを呼び出したベニート男爵夫妻はニタニタと下品に嗤っていた。彼女は嫌な予感を覚える。
「ねえ、マリエラ。そろそろ跡継ぎが欲しいと思っているのだけど貴女は役立たずね!その腹は石なのかしら?」
「そうだぞ、結婚して半年が過ぎた。とっくに妊娠していい頃だ」
『ああ、そういうことね』
彼女は同衾したこともないのに孕むはずもないだろうと心の影で舌を出した。テレンツォもやはりニタニタと嗤っていて小馬鹿にしてきた。
「石女は要らないわ、でも私たちは優しいからここにおいてあげても良いわ」
「はあ?」
彼女はあまりの言いように呆れているといよいよ調子づいたバカ親子は「紹介したい人がいる」と言った。
「さあ入って来るが良い、我が愛しのローズよ!」
「はぁい!いま行きますぅ」
間延びした物言いをして現れたのは全身ピンクの下品な女だった。若作りしているがどう見ても三十代の女だ。
その腹は若干膨らんでいて愛おしそうに撫でていた。
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