上 下
3 / 6

しおりを挟む




その後、夫テレンツォが屋敷を開けることが増えていた。大方愛人の家にでも転がり込んでいるのだろうとマリエラは放置する。彼女は白い結婚どころかすぐにでも離婚が出来るようにと動いているのだ。

その上、領地の運営もしなければならない、彼女は忙殺されている間はテレンツォのことを忘れられて「これで良い」と思っていた。そんな数カ月が過ぎた頃、厄介な連中がアストン子爵家にやってきた。

義父母のベニート男爵夫妻が先触れも無しに訪問をしてきたのである。
「あら、どのような御用向きでいらっしゃったの?」

彼女は不機嫌さを隠さずに男爵夫妻と対峙した、従者たちも歓迎ムードではない。頭も垂れず皆、無表情で出迎えた。ここまでされれば流石に歓迎されていないと気が付きそうなものだったが彼らは違った。

「どうもこうもあるか、可愛い息子に会いに来たまで」
「そうですよ、それより疲れたわ~早く部屋に案内しなさい!一番良い部屋でなければ駄目よ」
「……そうですか、準備が出来ておりませんの。しばらくお待ちになって」

マリエラは義父母の大荷物が気になったが今はそれどころではない。応接間に通して待つように言った。
「お嬢様、あのような無礼者を屋敷に通すのですか?」
「いいえ、侍女長。そんなわけないじゃない、好きなだけ待たせておけば宜しいのよ」
「ああ、なるほど!了解しました!」

急にいい笑顔になった侍女長は侍女とメイドらに「仕事に戻りなさい」と指示を出した。彼女もまた自分本来の仕事に戻ったのである。


***


茶ひとつ出されないまま何時間も待たされた男爵夫妻は漸く歓迎されていないのだと気づく。たいそう立腹していたが完全にアウェイであり、アストン卿もいることを知ると急に大人しくなる。

蟄居した身とはいえ目上の子爵に敵うはずもない、その日はスゴスゴと帰って行った。そして、宿屋に泊まり機会を伺うつもりのようだ。
「きぃ~!頭に来ちゃうわ、どうしてテレンツォは不在なの?あの子がいれば話は違ったのに」
「そ、そうだな、あの子がいれば好きにさせなかった」

何を勘違いをしているのか現当主はテレンツォであると誤認している夫妻は「あの子がいれば」と腹を立てていた。実はこの夫婦は借金持ちで取り立て屋から逃げて来たのだ。息子同様に資産運用をしようとして大損していたのだ。
まさに、似た者親子である。

そして長男に追い出され”今ここ”と言うわけだ。

「あの投資さえうまくいっていれば……畜生」
ベニート卿は昏い顔をして失敗した過去を振り返り唸るのだ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第二王子は私を愛していないようです。

松茸
恋愛
王子の正妃に選ばれた私。 しかし側妃が王宮にやってきて、事態は急変する。

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。

Nao*
恋愛
素適な婚約者と近く結婚する私を病魔が襲った。 彼の為にも早く元気になろうと療養する私だったが、一通の手紙を残し彼と私の幼馴染が揃って姿を消してしまう。 どうやら私、彼と幼馴染に裏切られて居たようです──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。最終回の一部、改正してあります。)

婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。

Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。 すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。 その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。 事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。 しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。

田太 優
恋愛
王子の誕生日パーティーは私を婚約者として正式に発表する場のはずだった。 しかし、事もあろうか王子は妹の嘘を信じて冤罪で私を断罪したのだ。 追い出された私は王家との関係を優先した親からも追い出される。 でも…面倒なことから解放され、私はやっと自分らしく生きられるようになった。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

夫は平然と、不倫を公言致しました。

松茸
恋愛
最愛の人はもういない。 厳しい父の命令で、公爵令嬢の私に次の夫があてがわれた。 しかし彼は不倫を公言して……

処理中です...