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しおりを挟むその後、夫テレンツォが屋敷を開けることが増えていた。大方愛人の家にでも転がり込んでいるのだろうとマリエラは放置する。彼女は白い結婚どころかすぐにでも離婚が出来るようにと動いているのだ。
その上、領地の運営もしなければならない、彼女は忙殺されている間はテレンツォのことを忘れられて「これで良い」と思っていた。そんな数カ月が過ぎた頃、厄介な連中がアストン子爵家にやってきた。
義父母のベニート男爵夫妻が先触れも無しに訪問をしてきたのである。
「あら、どのような御用向きでいらっしゃったの?」
彼女は不機嫌さを隠さずに男爵夫妻と対峙した、従者たちも歓迎ムードではない。頭も垂れず皆、無表情で出迎えた。ここまでされれば流石に歓迎されていないと気が付きそうなものだったが彼らは違った。
「どうもこうもあるか、可愛い息子に会いに来たまで」
「そうですよ、それより疲れたわ~早く部屋に案内しなさい!一番良い部屋でなければ駄目よ」
「……そうですか、突然来られたので準備が出来ておりませんの。しばらくお待ちになって」
マリエラは義父母の大荷物が気になったが今はそれどころではない。応接間に通して待つように言った。
「お嬢様、あのような無礼者を屋敷に通すのですか?」
「いいえ、侍女長。そんなわけないじゃない、好きなだけ待たせておけば宜しいのよ」
「ああ、なるほど!了解しました!」
急にいい笑顔になった侍女長は侍女とメイドらに「仕事に戻りなさい」と指示を出した。彼女もまた自分本来の仕事に戻ったのである。
***
茶ひとつ出されないまま何時間も待たされた男爵夫妻は漸く歓迎されていないのだと気づく。たいそう立腹していたが完全にアウェイであり、アストン卿もいることを知ると急に大人しくなる。
蟄居した身とはいえ目上の子爵に敵うはずもない、その日はスゴスゴと帰って行った。そして、宿屋に泊まり機会を伺うつもりのようだ。
「きぃ~!頭に来ちゃうわ、どうしてテレンツォは不在なの?あの子がいれば話は違ったのに」
「そ、そうだな、あの子がいれば好きにさせなかった」
何を勘違いをしているのか現当主はテレンツォであると誤認している夫妻は「あの子がいれば」と腹を立てていた。実はこの夫婦は借金持ちで取り立て屋から逃げて来たのだ。息子同様に資産運用をしようとして大損していたのだ。
まさに、似た者親子である。
そして長男に追い出され”今ここ”と言うわけだ。
「あの投資さえうまくいっていれば……畜生」
ベニート卿は昏い顔をして失敗した過去を振り返り唸るのだ。
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