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モルド男爵家
しおりを挟む巷で流行り出したという”革靴”を耳聡い貴族達はそれを買い求めた。だがそれはオーダーメイドであり中々手に入らないうえに出処すら良くわからないときた、そんな中にかつてメリサを雇っていた男爵がいた。
モルド男爵は末端の貴族であっても見栄を張りたいものだ、何がなんでも革靴が欲しいと思う。そして、人伝に情報を得た男爵は「メリサ靴店」の事を知るのだった。
「メリサと言えばここで雇っていた下女と同じ名ではなくて?」
「あぁ、そうだったな確かにそんな名だったはずだ」
男爵夫妻はそう言ったものの果たしてその者が同一とは半信半疑だった。学もなく見窄らしい平民の娘が高級靴を作れるなどと信じられない。
「ですが、それが真実ならば手に入りやすいのでは?だってそうでしょう、我が家に大恩があるはずだもの」
「大恩……下女として使い潰して碌に給金も払ってなかったのにか?」
モルドは些かだが後悔していた、彼女が例の靴店で働いてるとして融通してくれるとは思えないと言う。
「まぁまぁ、貴方!気の弱い事ことを、住むところもなく貧しい孤児を雇ってやったのですわ!相手は感謝して当たり前ですよ」
「だがなぁ……」
乗り気ではないモルド男爵の尻をひっぱたき夫人は「なんとしても靴を作らせるべき」と息巻く。
その後、やはりメリサの靴屋であると確信を得たモルド夫人は意気揚々とその屋敷を訪れた。のだが、そこは男爵家とは比較にならないほど立派な佇まいをしていて彼女らを驚かせた。
「な、なんでこんな屋敷に棲んでいるのよ!ここは王都でも一等地なのだわ!きぃぃ!」
「だから止めておけと……」
モルド男爵は場違いなのは己らなのだと恥じた、引き返そうと夫人を窘めたのだが彼女は言う事を聞きやしない。従者を嗾けて木戸を叩けと命令する。
「はい、何方?」
出て来たのは男性従業員だ、皮の破片をあちこちに付けて面倒そうに対応する。エプロンには小さな工具らしきが取り付けてある。職人ぜんとした彼は早く工房に戻りたげだ。夫人はそんな事情など察することなく「ここにメリサがいるでしょう、呼びなさい」と命令する。
「……あんたらメリサ様のなんなの?用件があるなら先触れをよこしな」
「んな!なんて生意気な!」
平民の職人に常識を問われた夫人は顔を真っ赤にして激高した、だが従業員は”メリサ様”と敬称をつけている。これは拙いのではとモルド男爵は嫌な予感が過る。
「なあ、お前。一旦ここは引くべきじゃないか?何か様子が……」
「冗談じゃありませんわ!わざわざ雇い主が訪ねてきてやったのよ。門前払いなど許しませんよ!」
自分は彼女の主人であるとはっきり言った夫人は居丈高に宣う。そんな夫人の言動に頭を抱える男爵だ。
「あのぉ、誰が誰の主ですって?」
従業員は驚いてそう言った、これを夫人は見逃さない。
「私はモルド男爵の妻よ、そして、メリサの雇い主です!早くお呼びなさい!」
「はぁ、俺は学はないですけどねぇ。男爵ってのは公爵令嬢より偉いんですか?雇うってなんすか?」
「え?公爵?」
ポカンとした男爵夫妻は彼が何を言っているのか理解が追い付かない。
そこに一台の二頭立て馬車がカラカラと立ち止まった、従者がそそくさと馬車の主を迎える、そして綺麗な恰好をしたメリサが「なにごと?」と言って降り立った。
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