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波乱
しおりを挟むマルコとアイナが加わり靴の加工所は順調だ、名称もメリサ靴店と変えて益々と張り切る。
「あのぉ店長、ここの折りこみですが」
「ええ、はいそうね、ここは――」
「店長、少し休憩したほうが良いです、疲れると精度が落ちます」
「あら、そうねごめんなさい」
つい夢中になると休むことを忘れるメリサは時々こうしてアイナに叱られる。放っておくと何時間も没頭してしまうのだ。
「そうですよ店長、この間なんか昼飯抜きで働いてて俺達が来た意味ないっすよ」
「う、ごめんなさい。気を付けるわ」
下を向いて何度も申し訳ないと詫びるメリサはサンドイッチをもそもそやっている、そして作業途中の靴をチラチラと見ている。
「本当に好きなんですねぇ、そんなに夢中になって靴は逃げませんよ」
「い、嫌だわ!ベルナルド様とは関係なくて、その」
「は?」
「え?」
3人ともハテと思って各々首を傾げる、暫くそうしていると意味がわかったらしいアイナが「なるほど」と言って手をポンと押した。
「店長はコールビー様が好きなんですね、うんうん」
「えええええええええ!ちょと待ってよ、どうしてそんな事になるの!」
「へー、店長がねぇ、いやぁ暑いなぁ季節は冬だけど」
わいきゃいと騒いで昼食を食べていると木戸が乱暴に叩かれた、何事かと3人は顔を見合わせる。
***
「おほん、ここにおられるのはラグロハ伯爵である、平民よ平伏すが良い」
「はあ?」
威勢よく工房に押し入った伯爵と従者らが好き勝手に工房内を見分し始めた。ああでもない、こうでもないと言いたい放題である。
「喜べ平民、私が来たからにはもっと稼がせてやろうではないか。手始めに靴の製法を教えて貰おうか」
「え、何を言っているのです?」
「店長気をつけて」
不躾に製法を教えろなどと宣う伯爵を胡散臭い目で見るマルコだ、職人にとって一番大切なものを横取りしようなどと呆れたものだと言った。
「なんだその男は?伯爵をそのような目で見るなど無礼であろうが!」
従者の一人が怒鳴り散らして、いかに伯爵が出来た人物であるか捲し立てた。伯爵を持ち上げゴマスリをしまくった揚げ句「工房をまるごと寄越せ」と言ってきた。
「悪い話ではないぞ、好きなだけ靴を作らせてやろう。まぁ売り上げはこちらが吸い上げるがな!ガハハッ」
「なんてことを」
悪い話100%である、彼らは渋面になり、どう蹴散らそうかと相談し始めた。そこにある人物がやってきてこう述べる。
「面白いことになっているな、ねぇメリサ?製法がどうしたって?」
「べ、ベルナルド様!」
良いところへ来てくれたと思った彼女はベルナルドにしがみ付く、彼女は涙目で「工房が奪われちゃう」と呟いた。
「私の……アベルタ様に頂いた大切な工房が……グスン」
「うん、わかっているよ。メリサ、後は任せて?」
「貴様こそ何者か!私はラグロハ伯爵であるぞ、頭が高いわ!」闖入者が闖入者に食ってかかり出した。
ところがベルナルドは意にも介さないかのように振る舞う「どこのどいつだって?」と挑発気味だ。
「この平民風情が!私は伯爵だぞ、それを……そ、れを……ひえぇええ!」
伯爵が急に慌て出した「どうして貴方様がこのような場所に」と震え出す。従者たちもそれに倣い「ははー」と土下座したではないか。
「ベルナルド・コールデンスとして聞こうじゃないか。この工房をどうしたいって?」
メリサは自分の耳を疑った、”コールデンス”とはこの国の名だったからだ、国の名を言うこの人物ベルナルドは王族ということになる。
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