完結 男爵家の下女ですが公爵令嬢になりました

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
7 / 13

恋心

しおりを挟む




気安く話しかけてくるベルナルドにすっかり心を許したメリサである。時々会いに来る彼を招いてランチなどを楽しむようになる。

「メリサ、仕事は順調なのかな。軍部の方は相変わらず君に無茶な注文をしているようだけど」
「え、あぁ、大丈夫ですよ。ダメな時はちゃんとお断りしてます」
「そうか、それなら良いんだ」

彼はホッとしたように溜息を吐く、あの後、十足、ニ十足と追加注文が後を絶たない。陸軍、海軍の分と合わせて相当な量になる。そこを危惧しての先ほどの言葉なのだが、問題はなさそうならとベルナルドは思った。

「ねぇ、例えばだけど助手を雇うのはどうかな?もちろん、製法についてはきちんと誓約をたてて」
「え?製法ですか、そんなものいくらでも」
「ダメだ!ちゃんとしなければ君の利権は護らなけらばならないよ!」
「は、はあ?」

権利とか知的財産と言われても彼女が発案したわけではない、あくまで前世の記憶を頼りに”靴”を作ったに過ぎない。この世界において木靴が当たり前であってもそこは納得がいかないのだ。

「困りましたねぇ……」
メリサはうーんと唸ると眉間に皺を寄せる、いくらでも教えるし広めて貰いたいと思うのだが「ダメだ」で押し切られる。この国の法律では30年は権利が守られるらしい。

「わかりました、30年ですね。心苦しいけれど」
「キミは本当に無欲だね、アベルタが言った通りだよ」
「あ、ははっ……そういうつもりはないのですが」



***


「マルコです!よろしくお願いシャッス!」
「……アイナです、宜しく」

二人の弟子をとったメリサは懇切丁寧に教え込む、マルコは鞄を製造していた工房から引き抜き、アイナは洋品店からだ。二人とも真面目に働くのでメリサは大助かりである。

「あぁ嬉しい!靴仲間が増えちゃった、おかげでこうしてお茶を楽しむことが出来るわ」
いまメリサはベルナルドに誘われてカフェに来ていた、久方ぶりの余裕が出来た彼女は「ほう」っと言ってアップルティーを楽しんでいる。いままでランチもお茶も工房で過ごしていたのだ。外に出る余裕などなかった。

「いままでが可笑しかったんだよ、メリサは誰かを頼るのが苦手?」
「ん、そうですね、頼る……あまり念頭になかったかも」
前世では小さな工房で細々とやっていた記憶がある、だがそれ以上は思い出せない。

「とにかく手広くやるなら私を頼って!いくらでも力になるよ!」
「は、はい。頼りにしてます、コールビーさん」
ニコリと微笑み彼に感謝するメリサだが、ベルナルドは面白くなさそうに「むむ」としている。

「あの、何か粗相でもしましたか?」
「それだよ、堅いんだ。もっと砕けてくれないとやり難い、そうだな先ずは名前からだ。ベルナルドと呼んでよ、もしくはベルで良い」
「え、そんな失礼な、名前呼びだなんて」

だがそんな事で諦める彼ではない。
「ベル!そう呼ばないと返事しないからね!」
「えええ……べ、ベル、ナルドさん。これで勘弁してくださーい」
「もう、仕方ないなぁ」

そうっと彼女の手に伸ばし、手ををおかまいなく握りしめて「今後ともよろしくメリサ」と微笑む。淡い金髪をした彼はとても眩しい。瞳も金色の彼はスッとのびた鼻梁も美しかった。


顔を真っ赤にしたメリサを見て満足そうに笑うベルナルドである。









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

えっ、知らないんですか?

水姫
恋愛
帝国民なら誰でも知っている話なのですが……。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】真実の愛はおいしいですか?

ゆうぎり
恋愛
とある国では初代王が妖精の女王と作り上げたのが国の成り立ちだと言い伝えられてきました。 稀に幼い貴族の娘は妖精を見ることができるといいます。 王族の婚約者には妖精たちが見えている者がなる決まりがありました。 お姉様は幼い頃妖精たちが見えていたので王子様の婚約者でした。 でも、今は大きくなったので見えません。 ―――そんな国の妖精たちと貴族の女の子と家族の物語 ※童話として書いています。 ※「婚約破棄」の内容が入るとカテゴリーエラーになってしまう為童話→恋愛に変更しています。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

処理中です...