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恋心
しおりを挟む気安く話しかけてくるベルナルドにすっかり心を許したメリサである。時々会いに来る彼を招いてランチなどを楽しむようになる。
「メリサ、仕事は順調なのかな。軍部の方は相変わらず君に無茶な注文をしているようだけど」
「え、あぁ、大丈夫ですよ。ダメな時はちゃんとお断りしてます」
「そうか、それなら良いんだ」
彼はホッとしたように溜息を吐く、あの後、十足、ニ十足と追加注文が後を絶たない。陸軍、海軍の分と合わせて相当な量になる。そこを危惧しての先ほどの言葉なのだが、問題はなさそうならとベルナルドは思った。
「ねぇ、例えばだけど助手を雇うのはどうかな?もちろん、製法についてはきちんと誓約をたてて」
「え?製法ですか、そんなものいくらでも」
「ダメだ!ちゃんとしなければ君の利権は護らなけらばならないよ!」
「は、はあ?」
権利とか知的財産と言われても彼女が発案したわけではない、あくまで前世の記憶を頼りに”靴”を作ったに過ぎない。この世界において木靴が当たり前であってもそこは納得がいかないのだ。
「困りましたねぇ……」
メリサはうーんと唸ると眉間に皺を寄せる、いくらでも教えるし広めて貰いたいと思うのだが「ダメだ」で押し切られる。この国の法律では30年は権利が守られるらしい。
「わかりました、30年ですね。心苦しいけれど」
「キミは本当に無欲だね、アベルタが言った通りだよ」
「あ、ははっ……そういうつもりはないのですが」
***
「マルコです!よろしくお願いシャッス!」
「……アイナです、宜しく」
二人の弟子をとったメリサは懇切丁寧に教え込む、マルコは鞄を製造していた工房から引き抜き、アイナは洋品店からだ。二人とも真面目に働くのでメリサは大助かりである。
「あぁ嬉しい!靴仲間が増えちゃった、おかげでこうしてお茶を楽しむことが出来るわ」
いまメリサはベルナルドに誘われてカフェに来ていた、久方ぶりの余裕が出来た彼女は「ほう」っと言ってアップルティーを楽しんでいる。いままでランチもお茶も工房で過ごしていたのだ。外に出る余裕などなかった。
「いままでが可笑しかったんだよ、メリサは誰かを頼るのが苦手?」
「ん、そうですね、頼る……あまり念頭になかったかも」
前世では小さな工房で細々とやっていた記憶がある、だがそれ以上は思い出せない。
「とにかく手広くやるなら私を頼って!いくらでも力になるよ!」
「は、はい。頼りにしてます、コールビーさん」
ニコリと微笑み彼に感謝するメリサだが、ベルナルドは面白くなさそうに「むむ」としている。
「あの、何か粗相でもしましたか?」
「それだよ、堅いんだ。もっと砕けてくれないとやり難い、そうだな先ずは名前からだ。ベルナルドと呼んでよ、もしくはベルで良い」
「え、そんな失礼な、名前呼びだなんて」
だがそんな事で諦める彼ではない。
「ベル!そう呼ばないと返事しないからね!」
「えええ……べ、ベル、ナルドさん。これで勘弁してくださーい」
「もう、仕方ないなぁ」
そうっと彼女の手に伸ばし、手ををおかまいなく握りしめて「今後ともよろしくメリサ」と微笑む。淡い金髪をした彼はとても眩しい。瞳も金色の彼はスッとのびた鼻梁も美しかった。
顔を真っ赤にしたメリサを見て満足そうに笑うベルナルドである。
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