完結 男爵家の下女ですが公爵令嬢になりました

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
5 / 13

アベルタ・ヴィンチ

しおりを挟む




「貴女がこの靴を製作したの?素晴らしいわ、是非私に譲ってくださらない?」
愛らしい顔をした貴族の少女が声を掛けて来た、横には従者らしきがいた。緊張するメリサは数歩下がってしまう。

「あら、ごめんなさい。怖がらせるつもりはないの、私はアベルタ・ヴィンチと言いますの伯爵令嬢です」
「え、ええ、私の靴を褒めて下さるのね、有難う」
おずおずとぎこちなく挨拶するメリサだ、無理もない。前世でも今世でも平民なのだ、貴族様とどうやって対等に接して良いかわからない。

年恰好は同じくらいの16歳くらいだ、メリサは初めはドキドキしたが話してみれば普通の女子だった。威圧してくることもない。ニコニコと話しかけてくるアベルタに気を許す。




「どうぞ使ってください、お代は要りません」
「まっ!いけないわ、こんなに素晴らしいものを!皮で出来た軽量にしてキチッとした靴が只なんて」
「いいえ、良いんです。履いて見て感想を聞かせてください、お願いします」

メリサは深々と頭を下げてそう言う、困ったアベルタだったがモニターとして感想を述べるのならばと言う条件で格安で引き受けた。

「欲がない方ねぇ、金貨10枚はくだらないというのに、わかったわ。ちゃんと感想を伝えるわね」
「ありがとうございます、金貨1枚でも十分ですよ」
メリサは初めての客に大喜びだ、評判が広がれば十分だと彼女は思う。余分に作った靴はアベルタには丁度良かったらしい。

「またね、メリサ!会いに来るのはここで宜しくて?小さな小屋ね、母屋はどこに?」
「あ……いいえ、ここが私の家でして……ごめんなさい」
作業場で生活拠点である小屋を恥じる彼女は顔が真っ赤だ。

「そうなの?うーん、貴女には似つかわしくないわ、少し考えましょうか」
「はあ?」


***


それから数日後、満面の笑みを浮かべたアベルタがやってきて、着いてきて欲しいと言った。訳が分からずオロオロのメリサはとある屋敷へ赴く。

「さあ、メリサ!ご覧になって貴女の家よ、ここなら王都の真ん中で丁度いいわ」
「ええ!?こんな立派な屋敷と工房を?よ、よろしいのでしょうか」
たじろぐ彼女にアベルタは言う「靴のお礼ですから気にしないで」と、靴一足の対価にしては大きすぎると眩暈がした。

「はわわ……良いんでしょうか、畏れ多い」
「何を言っているのメリサ!私は感動したのよ、いくら歩いても疲れず靴擦れも起きないこの靴!とっても気に入ったわ、それからお願いがあるのだけど頼める?」
「は、はい!どんなことでも」
立派な屋敷を貰ってしまった彼女はコクコクと頷く他ない。

「私のお母様と御父様、それからおばぁ様の靴を作ってくださらない?お願いします」
「は、はい!喜んで!こちらこそお願いします」


こうして初めてのオーダー靴を彼女は請け負うのだった。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者候補の筈と言われても、ただの家庭教師ですから。《まるまる後日談》

との
恋愛
「・・お前、その程度でアメリアを脅せたのか? ある意味凄いな」 「勇者」 追いかけ回された家庭教師アメリアと愉快な三兄弟のその後の様子を少しばかり ーーーーーー 完全な後日談なので、本編をお読み頂いた後でなければ意味不明な内容かも (-.-;)y-~~~

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

政略結婚ですか、はい、喜んで。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

顔も知らない旦那さま

ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。 しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない 私の結婚相手は一体どんな人?

【完結】私のことが大好きな婚約者さま

咲雪
恋愛
 私は、リアーナ・ムスカ侯爵令嬢。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの? ・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。 ・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。 ※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。 ※ご都合展開ありです。

メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~

Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが… ※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。 ※設定はふんわり、ご都合主義です 小説家になろう様でも掲載しています

最後のスチルを完成させたら、詰んだんですけど

mios
恋愛
「これでスチルコンプリートだね?」 愛しのジークフリート殿下に微笑まれ、顔色を変えたヒロイン、モニカ。 「え?スチル?え?」 「今日この日この瞬間が最後のスチルなのだろう?ヒロインとしての感想はいかがかな?」 6話完結+番外編1話

処理中です...