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追放
しおりを挟む女神の恩恵のお陰ですっかり血色が良くなったメリサは良く働いた。男爵にも褒められるほどだ、近くメイドに昇格しても良いのではと話が出た。
しかし、それが気に入らない下女頭と先輩下女が黙っていない、食糧をくすねたと難癖をつけたのだ。確かに碌に食べ物を与えらえれいないのに、メリサはふっくらし過ぎていた。
「きっと人知れず食糧をくすねているのですよ!なんて卑しい!」
「そうです旦那様!あの女は何か良からぬ事をしているはずです!」
口々にそう騒ぐ下女たちの言葉を鵜呑みにしてはなかったが、男爵は止む無く下女メリサを解雇することにした。だが、証拠がなかった為に罰は与えられなかった。
「この浅ましい貧乏人が!とっとと出ていけ!」
「そうよ、この泥棒!旦那様は御赦しになっても私達は許さない!」
「そ、そんな私は絵を描いていただけで……」
震えながら彼女はそう言ったが相手にされるわけもなく、大切にしていた木板は破壊される。
「ふん、二度と顔を見せないでよね!」
バタリと木戸を閉じられ彼女はほぼ何ももたされずに追い出された。グスリと泣き、壊れた木板を大事そうに抱えるメリサは当てもなく歩き出した。
「これからどうしよう……孤児院に戻る?いいえ、それは出来ないわ」
頼る人も場所もない、天涯孤独な彼女はこのまま儚くなるしかないのか。
やがて歩き疲れた彼女は公園の端にきていた、暫くぼんやりとしていたが涙がこぼれてきてワンワン泣いた。壊れた木板に抱き着いて「女神様……ごめんなさい」と呟く。
彼女の涙はどんどん木板に吸い込まれた、濡れていない箇所がないほどに、すると二度目の奇跡が起きた木板は元通りどころ美しいキャンバスになったのだ。
「な、なんてこと!なんて立派なキャンバスでしょう」
涙が驚きで引っ込んだ、その美しいキャンバスを抱いて「ありがとうございます」と女神に感謝した。
「そうよ泣いていたってしょうがないわ、……それにしても寒いわね。木靴は痛いし指がかじかんで感覚がないみたい」
ふと周囲を見渡すと彼女から視線を外すように町の人々は歩いていた。物乞いをされては面倒だと言わんばかりだ。急に襤褸雑巾のような自分が恥ずかしくなって茂みに隠れた。
「そうよね、見知らぬ者が公園で震えていれば誰だって……、それにしても寒いわ。どうにか出来ないかしら」
彼女は真っ新なキャンバスを見つめて何事か考えた、これまでは食べ物ばかりを描いてたが、それ以外はどうなのだろうと悩む。
「お願い女神様、布切れで良いの。少し分厚い布を出してくれませんか?それから……」
ブツブツといくつかの願い事をして、彼女は懐に入れていた炭で絵を描いた。それからいつも通り溜息をキャンバスに吐く。
するとどうだろう立派な外套が出てきて彼女を驚かせる、ふかふかの外套は深緑色でツヤツヤのボタンが付いていた。贅沢過ぎると思った彼女は「女神様、布切れでいいんですよ?私には勿体ない」と言った。
だが、その台詞を拾うものなど当然おらず、木枯らしがフウッと吹いただけだ。
「ひゃあ!寒い!」
思わず外套を身に纏ってしまいその温かさに驚いた、まるで暖炉の周りの空気を感じたからだ。
「あぁ、なんて温かいの。私は幸せだわ」
無欲が過ぎるメリサはその場で温もりを味わう。
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