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しおりを挟むあの夜会から数日後、大輪の薔薇を彼女の年の数だけ束ねたものを持参して、フェリクスは男爵家へ出向いていた。その際、些か興奮しており鼻息が荒かった。カトリーヌは押され気味で苦笑するほかない。
「カトリーヌ・ロインド様、どうかこの薔薇を受け取ってください。私の愛と共に」
「ま、まぁ……ガドナル卿、どうしましょう」
「どうかフェリクスと!いいえ、フェルと呼んでいただきたい!」
「えぇぇぇ……」
フェリクス26歳、カトリーヌ23歳。やや遅咲きの春の花と言う所だ。
二人の婚約話は秘密裡に動いていたが、人の口に戸は立てられない。あっという間に社交界に知れ渡たる事となる。どちらも曰く付きのカップルと言う事で余計な尾鰭が付いたが婦女子は落胆しつつも良縁だと囁き、男性側は歓迎ムードだ。
何もかもが順調に見えたがそうは問屋は卸さない。
ヒヨドリ婦人ことエレイン・ダイナース伯爵がいい顔をしなかった。彼女は未亡人で夫亡き後爵位をついだ人物である。いろいろと黒い噂がありダイナース卿を亡き者にしたのではと浮評が後を絶たない。当時ダイナース卿は50代で、結婚して半年も経たず逝去した。そのため金絡みの政略結婚だと噂されたものだ。ちなみに婦人は25歳である。
「ふん、上手くやったものね!たかが男爵風情が……どうやってタラシこんだのか是非ご教授願いたいわぁ」
「声が大きいですわエレイン様、でも床上手なのは確かなのかしら?オホホホッ」
「嫌だわ!ジェイン様ったら!オーホホホ!」
王家主催の夜会の席で好き放題に噂を囁くエレイン達だ、歯に衣着せぬ言葉を連ねて面白おかしく撒いている、噂雀とはよく言ったものだ。
「カトリーヌ、大丈夫かい?チッ!好き勝手ほざきやがって!抗議しよう」
「いいのよフェリクス、私は平気だから」
「ああ、カトリーヌ。キミという人は見目だけでなく内側も美しいのだな!そうだな言わせておけば良い!ハハハッ」
「まぁそんな……」
こちらはこちらで仲睦まじくやっていた、「流石はガドナル卿、噂に屈しない方」と周囲はそう評価している。どんなに悪評を立てようが動じない二人を見てヒヨドリ婦人は益々と怒り狂う。
「いつまでも涼しい顔をしていられるかしら、ふんっ!みてらっしゃい」
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