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しおりを挟むかつて夫だったジャックが黒い悪巧みに奔走していた頃。カトリーヌはフェリクス・ガドナル伯爵に翻弄されていた、やれ、お茶会だ夜会だと誘われ続けて毎日忙しく動いている。
それでもどこか充実している日々を過ごしていることに彼女は気づく。
「こんな調子で良いのかしら、私は楽しいけれど」
ふと我に返り、フェリクスから贈られてきたドレスをマジマジと見てしまう。それは最新の流行のもので絹をふんだんに使われた贅沢なものだ。
贈って貰うのはこれきりにしようと彼女は頷いた。
とある侯爵夫人の夜会に招かれたというフェリクスは、満面の笑みでカトリーヌを迎えに参じた。
「やぁ、今夜も美しいね。深い紫から淡い色味のグラデーションが素敵だ」
「え、ええ、ありがとうございます、ですがドレスを用立てて下さるのはこれを最後にしていただけません?」
「なんだって!?」
それを聞いた彼はこの世の終わりのようだと嘆き、絶望感でいっぱいになる。よろりと倒れかかる仕草をして「なんてこと」と大袈裟に悲憤した。
「キミは約束を違えるのかい?友人の私に手を貸すと言ってくれただろう」
「ええ、それはもちろん継続しますわ!ですがこのような贅沢品を……」
「いいや、それは違うね。女性に贈り物をすることは最上の喜びなのさ、なのにそれを奪うと言うのかい?あぁ……なんという事、着飾ったキミと共に歩けるという誉が褒美が」
「わ、わかりました!わかりましたから、どうかその辺で勘弁してください!ごめんなさい!」
慌てて取り繕うカトリーヌが謝罪すると一瞬でコロリと態度を変える彼だった。
「うん、それならば良い!ではソロソロ参ろうか?」
「はぁ……」
***
侯爵夫人マリア・ベルガーダは少しふくよかな身体を揺らしフェリクス・ガドナル伯爵を歓迎した。
「あらまぁ、私は心配してましたのよ!独り身になられて8年……でももう大丈夫ね!こんな素敵な方を横に侍らせておいでだもの!」
「え?あ、あの」
慌てて弁解しようとするカトリーヌの言葉を遮るように割って入るフェリクスだ。
「はい、その通りです。私は果報者ですよ」
「まぁ、オホホホッ!」
「はは……は」
しばらく挨拶に時間を割いて解放されたのは30分ほど過ぎた頃だ。根堀葉堀聞かれ彼女は虫の息である。
「ありがとう、話を合わせてくれて。夫人は悪い人ではないのだが、やたら見合いの話を持ってこられて辟易していたんだ」
「あ、まぁ、そのような事情がありましたの。お役に立てたのなら、でも早めに言って欲しかったわ」
少し膨れ気味に言う彼女に彼はこういった。
「ほんとうにそんな関係になれたならば嬉しいと言ったら迷惑かな?」
「え、あの……そんな!私のような訳あり傷持ちなど」
「どうか前向きに検討してくれないか」
「!?」
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