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しおりを挟む「思っていたより早く片がつきそうですの、それもこれも貴方の助言があってのことだわ、ありがとうございます」
カトリーヌは満面の笑顔でそうフェリクス・ガドナル伯爵に礼を述べる。彼は複雑な顔で返答に困っていた、彼女を慕っているからこそだとは言えずに。
「歯痒いものだな……言葉に出来ないこととは」
「え?なんて?」
「いいや、こちらの独り言さ、気にしないで」
不思議そうに顔を傾けるカトリーヌはなんの事だろうと思った、秘めたる思いを伝えるには時期尚早と考えているフェリクスは深い溜息を洩らし何処かもどかしそうにしていた。
「ねぇガドナル卿、何か悩みあるのならばいつでも相談してくださいな、友人じゃないですか。貴方が私の命を救ってくださったように、微弱ながら助けになりたいのです」
「あ、ああ……そうだね、その通りなのだけど」
彼はただ苦笑して応えることしか出来ない。だが、ふと思いついたように「そうだ!」と言って立ち上がった。
カトリーヌはビクリとして「どうなさったの?」と驚いた。
「キミが離縁できるのは最短で一か月後だったかい?」
「え?ええ、弁護士の先生によれば……順調にいけばですけど」
「ふむ」
何やら考え込む彼に再びキョトリとする彼女だ。
「ねぇ、ロインド卿……いいやカトリーヌ、キミが自由になった暁にはその、来月の建国祭のパートナーになってくれないか?」
「ええ!?」
***
離婚の申し立てをしてから一月後、頑なに拒絶していたジャックだが数々の証拠に打ちのめされ漸く判を押した。このままゴネていれば慰謝料が跳ねあがり、去勢処分となると弁護士に諭されたのだ。
事実、不貞に厳しいその国ではそのような事例があったことからジャックは泣く泣く承諾したのである。
「ああ、晴れやかな気分です!自由とはなんて素晴らしい!」
「はは、それは良かった。さぁ行こうか」
「はい、宜しくお願いしますわ」
今日はフェリクスが待ちに待った建国祭の日だ、彼の瞳の紫にあやかり薄紫のドレスとタンザナイトの耳飾りをしてカトリーヌは参加する。角度によって紫から青に変色する石はフェリクスの紫と彼女の瞳の青を模していた。
もちろん二人の仲を周囲にしらしめるためである。
わかっていないのはカトリーヌだけである。
フェリクスに焦がれていた女性たちは、てっきり亡き奥方に操を立てたものとばかり思っていた為に悔しがった。
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