完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
7 / 13

7

しおりを挟む



「思っていたより早く片がつきそうですの、それもこれも貴方の助言があってのことだわ、ありがとうございます」
カトリーヌは満面の笑顔でそうフェリクス・ガドナル伯爵に礼を述べる。彼は複雑な顔で返答に困っていた、彼女を慕っているからこそだとは言えずに。

「歯痒いものだな……言葉に出来ないこととは」
「え?なんて?」
「いいや、こちらの独り言さ、気にしないで」

不思議そうに顔を傾けるカトリーヌはなんの事だろうと思った、秘めたる思いを伝えるには時期尚早と考えているフェリクスは深い溜息を洩らし何処かもどかしそうにしていた。

「ねぇガドナル卿、何か悩みあるのならばいつでも相談してくださいな、友人じゃないですか。貴方が私の命を救ってくださったように、微弱ながら助けになりたいのです」
「あ、ああ……そうだね、その通りなのだけど」

彼はただ苦笑して応えることしか出来ない。だが、ふと思いついたように「そうだ!」と言って立ち上がった。
カトリーヌはビクリとして「どうなさったの?」と驚いた。

「キミが離縁できるのは最短で一か月後だったかい?」
「え?ええ、弁護士の先生によれば……順調にいけばですけど」
「ふむ」

何やら考え込む彼に再びキョトリとする彼女だ。
「ねぇ、ロインド卿……いいやカトリーヌ、キミが自由になった暁にはその、来月の建国祭のパートナーになってくれないか?」
「ええ!?」



***


離婚の申し立てをしてから一月後、頑なに拒絶していたジャックだが数々の証拠に打ちのめされ漸く判を押した。このままゴネていれば慰謝料が跳ねあがり、去勢処分となると弁護士に諭されたのだ。
事実、不貞に厳しいその国ではそのような事例があったことからジャックは泣く泣く承諾したのである。


「ああ、晴れやかな気分です!自由とはなんて素晴らしい!」
「はは、それは良かった。さぁ行こうか」
「はい、宜しくお願いしますわ」

今日はフェリクスが待ちに待った建国祭の日だ、彼の瞳の紫にあやかり薄紫のドレスとタンザナイトの耳飾りをしてカトリーヌは参加する。角度によって紫から青に変色する石はフェリクスの紫と彼女の瞳の青を模していた。
もちろん二人の仲を周囲にしらしめるためである。

わかっていないのはカトリーヌだけである。

フェリクスに焦がれていた女性たちは、てっきり亡き奥方に操を立てたものとばかり思っていた為に悔しがった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

離縁を告げに

豆狸
恋愛
「バーレト子爵、ファティマを呼び捨てにするのは止めてくれないか」 「止めるのは君のほうだろう。ファティマは私の妻だ。妻を呼び捨てにしてなにが悪い」 「……ヒカルド様? 私達は二年前に離縁していますが」 なろう様でも公開中です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

この恋は幻だから

豆狸
恋愛
婚約を解消された侯爵令嬢の元へ、魅了から解放された王太子が訪れる。

初恋の相手と結ばれて幸せですか?

豆狸
恋愛
その日、学園に現れた転校生は私の婚約者の幼馴染で──初恋の相手でした。

処理中です...