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しおりを挟むそれは夜も更けた頃、不遜な態度で屋敷に入るジャックの姿があった。フットマンが止めたのだが聞く耳を持たない。
「俺は屋敷の主だ、お前に止める権利などあるものか!」
「し、しかし……」
「煩い!くどいぞ!」
なかば無理矢理に屋敷へ入った彼は真っすぐに金庫室へ侵入する、いくらなんでも勝手が過ぎた。騒ぎを聞きつけたカトリーヌはすぐに対応する、なんの権利があって金庫に手を付けるのかと抗議した。
「なんだよ!死に損ないの分際で、さっさとくたばってくれよ!こっちは未来ある家族持ちなんだからな!」
「……死に損こないね確かにそうだわ、だって治療が上手く行って余命はあと50年以上はあるもの」
「んなっ!?……死なないのかよ……」
「せっかく死ぬと思っていたのに残念ね」
彼女は知っていた、ジャックが己の死を望んでいたことを、そして男爵家を狙っていた事も。
真実を聞き愕然としたジャックは膝から頽れてしまう、そして更に追い打ちをかける事をカトリーヌから聞かされる事となる。
「貴方の不貞行為を理由に離婚を申し立てます、この国では不倫は大罪なの。わかるでしょ?」
「そ、そんな!待ってくれ!俺は俺達は」
だが彼女は聞く耳を持たない、弁護士を立てて慰謝料の請求まですると言うではないか。ジャックは己の立場を漸く理解した。しかし、もう何もかも遅すぎた。カトリーヌは敢えて愛人が身籠った子が彼の子ではないと話さなかった。
それが彼女の復讐なのだ、生まれてきた子が愛人に似ていればそのまま騙され溺愛していれば良いし、彼に似ていなければ驚愕するだろう。どの結果になろうが仕返しは出来るのだ。
「それではねジャック、御子さんが楽しみね。きっととても可愛いはずよ」
「待って!待ってくれよぉ!そうだ、俺達やり直そう!愛人とは別れるよ!そうすれば何もかも元に」
涙目になりながら彼女に縋ろうとするが、そばに控えていた執事によって阻まれる。彼はそれでも諦めないのか必死に抵抗した。
だが彼女を護る私兵によってそれも撥ね退けられた、彼の顔は情けなくもグチャグチャで穴と言う穴から水が滴り落ちていた。
「さよならジャック、最後まで酷い人ね」
「嫌だー!待ってぇ!話を聞いて……げふぅ!」
情けないジャックは護衛兵に殴られて気絶した。
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