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しおりを挟むカトリーヌに看破されて以来何かとビクビクするアンナの姿があった。挙動が不審でジャックにも気づかれてしまう。
「どうしたんだアンナ?近頃のキミはどうかしているぞ」
「え!?いいえ!そんな事はないわよ、私はいつも通りだわ!ちゃんとしているわよ」
「そうかい?それならば良いのだが」
彼は更に大きくなっていた彼女の腹を慰めるように撫でた、いまは下町のアパルトマンにいて、いつかここを出て男爵家に入りたいものだとジャックは言う。
「もう少しの辛抱だよベイビー、生まれる場所がここなのは不満だが」
彼はアンナの事情を知らずそのように述べる。
仕事に向かう彼を見送ってアンナは大きくため息を漏らした。
「あぁ……どうしよう、このまま無事に生まれてくれればいいけど、あの女に知られたのは拙いわ」
あれ以来、取り立てて動きを見せないカトリーヌを警戒しているが、静かなのが返って不気味で綿で首を絞められているように彼女は憔悴していた。
通いの下女がすっかり食欲を失せたアンナを気遣い「奥様のために」とパン粥を作り置きしてくれた、だが、いまの彼女にとってその気遣いすらも煩わしい。
「カトリーヌ……一体何を企んでいるの、ハッ……まさか生まれてから暴露する気じゃ!」
堂々巡りの苦悩にアンナは止まったはずの悪阻を再発するようになっていた。
***
相変わらず病状が芳しくないカトリーヌは週一回の点滴を受けていた、打ち終わると微かに元気を取り戻すのだがやはり顔色は優れないまま。侍女に介助して貰いながら通院していると思わぬ人物と対面する。
「やぁ、カトリーヌ。奇遇だね、じつは軽い風邪をひいてしまってね」
「ま、まぁ!ガドナル伯爵……御機嫌よう」
窶れた顔を見せまいとカラ元気で挨拶する彼女だ、だが、痩せ細り落ちくぼんだ眼窩はどうしようもない。フェリクスは気丈に振る舞う彼女に「我慢しないで」と言った。
「あ、あの私……」
「うん、大丈夫だよ。私の前でまで取り繕わないで欲しい、素を見せてくれないか?」
その言葉を聞いた彼女は「つぅ」と一筋の涙を流す。
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