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しおりを挟む「俺達は子は望めないようだ、それでも俺と一緒にいてくれるかい?」
「ええ、もちろんよジャック。二人だけの人生、それもまた一興よ」
「そうか、愛しているよ。カトリーヌ」
子供がいない二人、互いを愛しみ合いそれで良いと考えていた。
二人は小さな家具店を先代から継ぎ、やがて大きくなっていった。順風満帆と言えた。仕事は忙しかったが何不自由ない暮らしを過ごした。
ところがジャックが不貞を行い愛人に子供ができたことで一騒動に発展する、結婚してもうすぐ5年目が経とうとしていた頃だ。
「どういうことなの!?あなた!私を裏切って」
「ああ、そうだよ!辛気臭いお前などウンザリなのさ!」
「辛気臭い?」
「そうだろう、子が成せずにいていつも悲し気にしていたじゃないか」
「そんな事、微塵にも思ってなかったわ!」
子がいなくとも幸せと思っていたのは彼女だけだった。
悲しいのは気持ちが離れてしまったことだ、やがて碌に帰宅しなくなった夫。仕事には現れるが完全に無視をする。愛人は日に日に大きくなった腹を撫でて幸せを噛みしめていた。
「旦那様、見て。五カ月に入ったわ、順調に大きく育っているの!」
「ああ、嬉しいよアンナ!俺は果報者さ!」
「うふふ、幸せ過ぎて怖いくらいだわ」
こうなってくると本妻カトリーヌは邪魔者以外の何物でもない。顔も見たくないと思ってしまったジャックは益々と帰らなくなる。
そんな中、初老の医者がやってきてなにやらコソコソと話している所に出くわした。
「余命1年ってほんとうですの?」
「ええ、残念ですが……手を尽くしましたが今の医療技術では限界です」
それを聞いて悲し気に目を伏せる彼女、一体何を思うのか。
「そうですか……では想い残すことがないように…好きに生きてみるのも止む無しですわ」
偶然にもその現場を目にしたジャックは驚きを隠せない、その事実を耳にした夫は小躍りする。
「やった!やったぞアンナ!朗報だ!朗ほ……ゲホゲホ!いや済まないつい興奮してしまった」
「あらまぁ旦那様、そんなにはしゃいでどうなさったの?」
「聞いて驚くなよ!なんと―――」
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