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しおりを挟むダンダレーノの乱入以来、警戒をしてきた護衛はあからさまに探りを入れてくる一団を目にする。
「嬢ちゃん、いいや主人、危惧してた通り怪しげな輩がうろついているぞ。心当たりはあるか?」
「まぁ……そうね、あるとすれば私の実家絡みだと思うわ。ありがとう引き続き警戒をお願いするわ」
「任しとけ!」
そんな風に用心していた最中に事件は起きた。
朝一番に開店前だというのにも拘わらずその人物はやってきた。エイシャント侯爵その人がズカズカと押し入ってきたのである。彼らは貴族であるのでさすがに恫喝するわけにもいかず護衛らは歯噛みした。
エイシャント侯爵は「いままで育ててやった恩返しをしろ」と脅して来た。更にはパンのレシピを寄越せと何処かの誰かみたいな台詞を吐いた。
だが、アンジェルは怯まない。以前のようにビクビクしていた少女ではなかった。
キッと見返して彼女は言う、「ここは私の城です、何人にも穢させやしない」と……。これにはエイシャントは面食らう、泣きながら全てを差し出すかと思っていたのだから。
「な、なにを言い出すのだ、お前は私の娘で言いなりになっている人形だろうが!」
「いいえ違いますね、私はエイシャント家と無関係にございます。除籍なされたことをお忘れですか?ギルドにも問い合わせて照会しましょうか?きっとこんな暴挙は通りませんよ」
ただのアンジェルとして商店を開業したことを知らしめる銅板製の証書を見せつける。これには流石の貴族様とて手は出せはしない。
「ふ、ふん!レシピなどどうでもいいわ!そんな粗末な食べ物などいくらでも模造出来よう!」
「……ご自由に、模造品は模造に過ぎませんわ」
アンジェルは”パンのレシピ”など持っていない、こっそり異世界から仕入れている。おいそれと真似が出来るとは思えなかった。
「やぁ、陰から見ていたよ。強くなったな、俺の出番はなかったさ」
「オーバン様!いらしてたのね、一週間ぶりじゃないですか。寂しかったわ」
「え、やあその、店が忙しかったんでね。ははっ」
姿を現すや駆け寄ってきて抱き着かれたオーバンは目を白黒させた、思わぬ歓迎にどうして良いかわからない様子だ。そして、顔を真っ赤に染めて「どうかその辺で」とアンジェルの腕をほどきにかかるのだがグイグイと力は増すばかりだ。
「オーバン様の馬鹿馬鹿!私はずっと待っていたんですよ!」
「済まなかったよ、だからもうちょっと距離をだな……」
「嫌です!離れないから!」
彼が開放されたのは小一時間が経ってからだった。
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