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少し遡った話。


バウチアン・ダンダレーノ伯爵令息は窮地に立たされていた。子爵夫人との叶わない愛を育んでいた所、逢瀬をしていた現場にダウント子爵に踏み込まれたのだ。

「私達こそが真実の愛で結ばれているのだ!」
興奮していた彼はそう宣ったものだ、だが肝心のレイチェル・ダウント夫人はあっさりと「彼とは一時の気の迷い」だと言って去ってしまう。

それだけでもショックだと言うのに法外な慰謝料を請求されてしまう。
実は夫人は美人局のような行為をしていたのだ、そうとは知らないバウチアンは悲しみに暮れて「私の愛は……」と泣き崩れる。


「この愚か者が!もう少しでエイシャント侯爵家を乗っ取れたというのにお前は!何という事をしてくれたんだ!これまで融資を行ってきたのがパァだ!いくら使ったと思っている!」
「だ、だって父上、真実の愛が……」

野心家の彼の父は上位にあがることに執着してきた、融資の対価に自分の息子を差し出す契約だった。それが丸っと消えたのだ、これが怒らずにおれようか。

「その真実の愛までも虚妄だっただろうが!くそっ!家が一軒建つほどの金子を要求された、この金はお前が払え!ワシは知らんからな!」
「そんな父上!私にそんな金はありませんよぉ」

だだを捏ねたところでどうにもならず、彼は籍を外されて厄介払いされた。次男坊であるバウチアンは貴族ではなくなった。


途方に暮れる彼だったが、とある噂を耳にする。
『家を追い出されたアンジェル・エイシャントが一儲けして順調に稼いでいる』と言う世間話である。最初は耳を疑ったが、聞いたままそこへ見に行くと間違いなくアンジェルが働いていた。彼女は真面目に働き、従業員までも抱えて女主人としてそこにいた。

キラキラに輝いていて眩しい彼女は以前の”何も持たないツマラナイ女”ではなくなっていた。バウチアンは愚かにも彼女に惚れてしまう。そして腹黒いことを考えた。
もとから商魂逞しい彼は図々しくも彼女の元に現れて「再婚約してやるからパンのレシピを寄越せ」と言ってきた。

突然の申し出に訝しい顔をするアンジェルである。
「あのぉ、一体なんの話でしょう?レシピ?作り方なんて知りませんよ。そもそも貴方は誰ですか」
「んな!?眉目秀麗の私を忘れたというのか!婚約者のダンダレーノだぞ!忘れるでないわ」
「はぁ。ダンダレーノ?……あぁ、子爵夫人に恋焦がれて婚約を破棄された、思い出しましたお帰り下さい」
「なんだと!」

語気荒く喚き散らす彼だったが護衛兵につままれて呆気なく放り出された。
「おい、お前。二度とここに顔を出すな、わかったか。次は衛兵に突き出すからな」
「ひぃ!な、なにを……私は彼女の婚約者で」

諦めの悪いダンダレーノだったが、そこにオーバンがやってきて睨みを利かせた。彼もまた護衛兵に負けないくらい厳つい顔をしている。

「あ”あ”?どこのドイツで誰だって?アンジェルに纏わりつくムシケラ様よ」
「ひ、ひぃぃ!なんでもないですぅ!失礼しましたぁ!」











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