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最果ての地

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そこは草木一本生える事のない砂漠だった、名は無い。
大陸で見放された土地だった、どこの国も所有権を主張することはない。その場所はサンボニッチ王国から遥か遠く離れた地だった。誰かがここに住んだとしても咎めるはずがない。


「新天地です!ここが私が求めていた場所なのだわ」
巫女アデリナはそう言って深呼吸する、若干熱風が強いがそんなことは気にしていない。小躍りする彼女をおいて教皇は司教達と信徒らを纏めていた。

「さて、巫女様。ここに新たに国を作るにしても先ずは民の安寧を考えねばなりません。先ずは水の確保を」
「そうね、う~ん、どうしましょう?」
すると教皇は樫の木で作った錫杖を巫女に差し出した、杖の先端に魔法石が輝いている。

「これは?杖のようだけれど」
「はい、巫女様の杖にございます。一振りすれば思いのままでございますよ」
「え、ええ~……俄かに信じがたいわね」

それでもやってみろと教皇は笑う。
砂漠の端に位置するそこは荒野だ、岩だらけで木は茂っているが背が低く土地は潤っているとは言い難い。

「ここを根城にしたいのでしょう?ささ、民の為にお祈りくださいませ」
「う、うん。わかったわ」
巫女は渋々の体で錫杖を掲げ「どうか飲み水をお与えください」と祈った。神聖巫女が初めて天に祈ったのだ。するとどうだろうか、ゴゴゴッと地鳴りがしたかと思えば巫女から数メートル先に水が噴き出たではないか。

「おおお!なんという御業か!感謝いたします」
「アデリナ様万歳!アデリナ神様万歳!」

「え?ですって?いままではサンボニッチ神じゃなかったの?」
狼狽える彼女に教皇が言う。

「はい、信仰対象はあくまで巫女様ですからね。神という依り代は国自体になっていました。ですが、巫女様は独立なされた、つまりアデリナ様が神そのものなのです」
「そんな無茶な……」

いままで誤解してきたが巫女あっての信仰だということを思い知った。国の秘匿であったのだから仕方ないのだと教皇は笑う。
「今時分のサンボニッチ王国はそれを忘れ去った。愚かな事でございます、すべては巫女あってのものだったというのに、最後に思い出したようですが、時すでに遅かりしでございます」
「そ、そうだったの……」

天に祈るのはその力を増大させる効果があるらしい、太陽と月のエネルギーを借りるのだという。神になったアデリナは複雑な心境だ。
「私なんかが神でいいのかしら?」滾々と湧き出る水を見ながら彼女は物思いに耽る。



水が確保できたらなら次は作物だ、不思議なことにその水を与えた木々から果物が、草はやがて麦を穂に揺らす。それらはあっという間の出来事だった。

「この地は豊かになりました、国名はいかがいたしますか?」
教皇は嬉しそうにそう言った、言われたアデリナは言葉に詰まる。国名と言われも何も思いつきはしない。

「では、私どもで決めても?」
「ええ、お願いするわ。私は日々の祈りで忙しいから、まだまだ町は立派に大きくしたいもの」
「はい、わかりましたお任せください」




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