6 / 15
最果ての地
しおりを挟むそこは草木一本生える事のない砂漠だった、名は無い。
大陸で見放された土地だった、どこの国も所有権を主張することはない。その場所はサンボニッチ王国から遥か遠く離れた地だった。誰かがここに住んだとしても咎めるはずがない。
「新天地です!ここが私が求めていた場所なのだわ」
巫女アデリナはそう言って深呼吸する、若干熱風が強いがそんなことは気にしていない。小躍りする彼女をおいて教皇は司教達と信徒らを纏めていた。
「さて、巫女様。ここに新たに国を作るにしても先ずは民の安寧を考えねばなりません。先ずは水の確保を」
「そうね、う~ん、どうしましょう?」
すると教皇は樫の木で作った錫杖を巫女に差し出した、杖の先端に魔法石が輝いている。
「これは?杖のようだけれど」
「はい、巫女様の杖にございます。一振りすれば思いのままでございますよ」
「え、ええ~……俄かに信じがたいわね」
それでもやってみろと教皇は笑う。
砂漠の端に位置するそこは荒野だ、岩だらけで木は茂っているが背が低く土地は潤っているとは言い難い。
「ここを根城にしたいのでしょう?ささ、民の為にお祈りくださいませ」
「う、うん。わかったわ」
巫女は渋々の体で錫杖を掲げ「どうか飲み水をお与えください」と祈った。神聖巫女が初めて天に祈ったのだ。するとどうだろうか、ゴゴゴッと地鳴りがしたかと思えば巫女から数メートル先に水が噴き出たではないか。
「おおお!なんという御業か!感謝いたします」
「アデリナ様万歳!アデリナ神様万歳!」
「え?アデリナ神ですって?いままではサンボニッチ神じゃなかったの?」
狼狽える彼女に教皇が言う。
「はい、信仰対象はあくまで巫女様ですからね。神という依り代は国自体になっていました。ですが、巫女様は独立なされた、つまりアデリナ様が神そのものなのです」
「そんな無茶な……」
いままで誤解してきたが巫女あっての信仰だということを思い知った。国の秘匿であったのだから仕方ないのだと教皇は笑う。
「今時分のサンボニッチ王国はそれを忘れ去った。愚かな事でございます、すべては巫女あってのものだったというのに、最後に思い出したようですが、時すでに遅かりしでございます」
「そ、そうだったの……」
天に祈るのはその力を増大させる効果があるらしい、太陽と月のエネルギーを借りるのだという。神になったアデリナは複雑な心境だ。
「私なんかが神でいいのかしら?」滾々と湧き出る水を見ながら彼女は物思いに耽る。
水が確保できたらなら次は作物だ、不思議なことにその水を与えた木々から果物が、草はやがて麦を穂に揺らす。それらはあっという間の出来事だった。
「この地は豊かになりました、国名はいかがいたしますか?」
教皇は嬉しそうにそう言った、言われたアデリナは言葉に詰まる。国名と言われも何も思いつきはしない。
「では、私どもで決めても?」
「ええ、お願いするわ。私は日々の祈りで忙しいから、まだまだ町は立派に大きくしたいもの」
「はい、わかりましたお任せください」
47
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
モブ公爵令嬢は婚約破棄を抗えない
家紋武範
恋愛
公爵令嬢であるモブ・ギャラリーは、王太子クロード・フォーンより婚約破棄をされてしまった。
夜会の注目は一斉にモブ嬢へと向かうがモブ嬢には心当たりがない。
王太子の後ろに控えるのは美貌麗しいピンクブロンドの男爵令嬢。
モブ嬢は自分が陥れられたことに気づいた──。
お城で愛玩動物を飼う方法
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約を解消してほしい、ですか?
まあ! まあ! ああ、いえ、驚いただけですわ。申し訳ありません。理由をお伺いしても宜しいでしょうか?
まあ! 愛する方が? いえいえ、とても素晴らしいことだと思いますわ。
それで、わたくしへ婚約解消ですのね。
ええ。宜しいですわ。わたくしは。
ですが……少しだけ、わたくしの雑談に付き合ってくださると嬉しく思いますわ。
いいえ? 説得などするつもりはなど、ございませんわ。……もう、無駄なことですので。
では、そうですね。殿下は、『ペット』を飼ったことがお有りでしょうか?
『生き物を飼う』のですから。『命を預かる』のですよ? 適当なことは、赦されません。
設定はふわっと。
※読む人に拠っては胸くそ。
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる